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軽くて安くてキレッキレ!貝印の「関孫六 コンパクトナイフ」が野営包丁にいいぞ

2021.10.29 Fri

藤原祥弘 アウトドアライター、編集者

  軽く、よく切れて、コンパクトな野営用の包丁をずっと探していた。

 車やバイクの旅なら包丁はなんでもいい。少々の重さは問題にならない。しかし、自分で担ぐとなると話は別だ。パックに収める道具は数十点。道具のひとつひとつが数十g重くなるとトータルでは数kgの重量増につながる。個々の道具の軽量化には手を抜けない。

 加えて「食材を採集しつつ水辺を数日間かけて移動する」という私の使い方では、包丁につける注文が人よりも多かった。軽さはもちろん、釣った魚をストレスなしにさばけて、刺身にできるものが欲しい。

 火を使わない刺身は、採集から喫食までが短時間かつ手軽だ。しかし、調理法がシンプルなぶん、使う刃物の鋭さが食味を大きく左右する。

 軽くて刃が薄く、ある程度の刃渡りがあり、食材の屑が細部に入り込まない構造で、安全に持ち運べて、海水に浸けても錆びず、気後れせずに使える価格で、魚の調理が気持ちよくできること。

 こんな条件を満たす1本を探して、私はアウトドアショップやネットの海をめぐり続けた。ドイツのあれ、スウェーデンのそれ、スイスのどこそこ。刃渡りや重さの条件を満たすものはあったが、ケースの有無や価格の面で折り合いがつかなかった。

 そして、運命の日は突然やってきた。探し求めた包丁は、近所のスーパーでしゃもじの隣にぶら下がっていた。そいつの名は「関孫六 コンパクトナイフ」。製造元は成人男性なら必ずお世話になったことのある信頼のメーカー、貝印だ(ヘンな意味じゃない。貝印は剃刀りでも有名だ)。

 刃渡りはおそらく12〜13cm。シュタッと収まるケース付きで、パッケージを持った感触ではごくごく軽い。そしてこの店での価格は1280円! 胸が高鳴る。名作の予感がする。私は豆腐やネギの入った買い物カゴに孫六を加えた。

 家に戻ってさっそく孫六を実測する。重量は61g。刃渡りは12cm。刃の厚みは1.5mmほど。これはよく切れそうだ。

 包丁の切れ味を左右するのは刃先の鋭さと鋼材の種類、そして刃の厚みと形状だ。刃の断面のVの角度が大きくなるほど、刃を食材が両側から押さえつけるので切りづらくなる。その反対に、刃が薄ければ刃を押さえつける力も弱くなるので、小さい力で切り進める。

  台所にあったタマネギを切ってみる。予想した通り、刃が薄いのでスタスタと刻める。繊維をつぶさないので目も痛くない。

  アジをさばく。このサイズの魚なら中骨も背骨も気にせずおろせる。刺身も身を崩れさせずに切りだせた。そして、ブレードの形状が小ぶりな魚をおろすのにぴったりだった。

 ちょっと大きい魚での使用感はどうだろうか、と考えていたところでワラサが釣れた。こちらもさばいていく。

  刃が薄いのでスッと身に入り込んでいく。太い骨をかわせば、頭を落として3に枚おろすのも見てのとおり。椎間板に刃をいれることで、アラも簡単にブツ切りにできた。ただし、薄い刃で太い骨を断つと刃が鈍るので、中骨に行きあたったら腹骨に沿って身をはがす。骨をかわして肉だけを切れば刃が欠けることも鈍ることもない。

 皮を引き、サクから刺身を切り出してみる。ピッと角の立った切り身がつくれた。刃の厚いナイフではこうはいかない。

 その後、渓流に持ち出してみた。ヤマメの腹を裂き、カエルの頭を落とし、ラーメンに入れるネギを切った。やはり包丁はいい。汎用ナイフを包丁代わりにしていたときと比べて作業効率が段違いだ。

 孫六の鋼材はハイカーボンステンレス。渓流に出た際に15食ぶんの調理に使ってみたが、切れ味は持続した。長く行動する場合は携帯できる小型シャープナーがあるとよいだろう。安手のナマクラには、いくら研いでも刃がつかないものがあるが、沢から戻ったあと孫六を研いだらきちんと刃がついた。

  ケースもよくできている。ロック機構こそないものの、面でブレードを押さえる構造なのでしっかりと刃を保持する。パッキング中に本体が抜けて周囲のものを傷つけることはまずないだろう。ケースの大きさはブレードとほとんど変わらない。携帯性の高さもうれしい。

 一点だけ惜しいのは孫六には「アゴ」がないこと。ジャガイモの芽を処理するようなシーンでは、アゴがないので掻き出せない。このサイズ感でアゴがあれば完璧だった。

 写真は孫六を加えたお出かけ刃物セット。薪を作る鋸。雑多な活動に使うナイフ。道具の補修や調整に欠かせないプライヤー。これらと包丁を合わせた総重量は364gだ。「作業性に対する重量」の点ではバランスがよいと思う。

 1本のナイフでさまざまな作業を兼ねようとすると、無理が出る。薪を作るには非力で、調理には無骨過ぎ、携行するには重い。ロマンより作業性を優先するなら、いくつかの軽量な専用品を組み合わせた方がずっと効率的だ。それぞれが互いのバックアップにもなるので、紛失や破損の際にも助けになる。

 ここまで、人力旅目線で紹介してきたが、パックを担いで出かけるソロキャンプやデイキャンプにも軽くてよく切れる孫六はおすすめだ。孫六のコンパクトナイフは実用品としてすばらしい。荷物を軽くしたい旅ではもちろん、あらゆるキャンプの包丁としても活躍すると思う。

■関 孫六/コンパクトナイフ(サヤ付き)
¥1,650
ブレード:ハイカーボンステンレス刃物鋼(両刃)
柄・サヤ:ポリプロピレン
長さ240×幅38×高さ13mm
重量:61g

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