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空中個室!? ふつうのハンモックとはちがう “平らなハンモック” を試してみた
2021.10.08 Fri
野沢 ともみ ハンモッカー
ハンモックは、まるでバナナのようだ。
人生の名言風に言ってみたが、とくに深い意味はない。ただの形状の話だ。
重力だとか物理だとか、むずかしいことはわからないが、ハンモックは1枚の布切れがゆえ、寝転がれば腰が沈んでバナナのような形になる。
一般的なハンモック。ハンモックといえばこんな感じでしょう?
しかし、どうやら世の中にはバナナっぽくないハンモックもあるらしい。「ヘブンテント(Haven Tent)」という商品だ。
腰に負担がかからないハンモック
公式サイトで、そのようにうたわれた、あるハンモックらしき商品を見ておどろいた。
(画像提供:NaFro)
ハンモックの中にエアーマットが敷いてある。とはいえ、どう見てもあまりにも真っすぐすぎるのだ。宙に浮いている……? これはハンモックなのか?? もしやイリュージョンかなにかかもしれない。
*
私はこれまで、ヘネシーハンモック・DDハンモックなどというハンモック泊の定番商品をはじめ、マニアックなハンモックを海外から輸入したり、ときにはオーダーメイドを頼んだり……と、ありとあらゆるハンモックを使ってきた。集めたハンモックたちをニタニタと眺めては、それぞれの寝心地がどうだとか、肌触りがどうだとか、ブツクサと言いながら日々暮らしている。
しかしヘブンテントのようなフルフラットな形状のハンモックは未経験であり、寝心地の想像もできない。正直、気になって気になって……このままだと夜も眠れそうにない。
そんなわけで、今回、ヘブンテントをお借りすることができたのでワクワクしながらフィールドへ。ふつうのハンモックとは一体なにがちがうのか、という点も含めてレポートさせていただこうと思う。
設営はほぼ普通のハンモックと変わらないが……
0. 早速設営!……の前に中身を確認
ハンモック本体・レインフライ(タープ)・エアマットのほか、ハンモックのストラップやペグ、ガイロープなど「これを持っていけば問題なし」なアイテムがしっかりとそろっている。ありがたい。
しかも、バラバラにならないように留ておくためのゴムがついていたり、かさ張らないようにするコンプレッション用のパーツがついていたり、と大変気の利く仕様になっている。「アンタ、すぐバラバラにするから〜! まとめといたわよ!!」そんな声が聞こえそう。まるでオカンみたいな感じだ! ありがとう……ありがとう……。思わず拝みそうになる。
1. ハンモック用のストラップを巻く
木はしっかりと太いものを選ぶ。最低でも手のひらを目一杯に広げたときの大きさよりも太い木を使うのが望ましいといわれている。
また、ストラップは木と接する箇所が「面」になっていて、幅が2.5㎝以上あるものを選びたい。あまりにも細いロープ状のものだと樹皮に負担がかかってしまうからだ。細いものをギュンと巻き付けられたうえに全体重をかけて引っ張られ、さらに樹皮がちょっと剥がれたりするのをそっと目を閉じて想像してほしい……私が木だったら泣く。まちがいなく泣く。
ちなみに今回のヘブンテントに付属しているストラップはしっかりと幅広だ。しかし、どことなくストラップが短い気がする。私にはいつもハンモックを張る “おなじみの場所” があるのだが、今日は長さが足りなかったので、片側は自前のストラップで延長させた。
2. ハンモック本体とストラップを接続する
使用するのは付属のゴツくてイカついカラビナ。長さの調整はカラビナをかける位置で行なう、いわゆる「デイジー式」というものだ。
ちなみに、デイジー式のほかにもハンモックストラップの調整方法にはいくつかの形状がある。ひとつひとつじっくりと紹介したくもなるが、終わりなく続いていきそうなので、それはまた次回。一見するとただの接続部分であっても、こだわりがいがあっておもしろいぞ! ということだけを伝えておこう。
そしてここまでで……
ジャジャーン!
うん、ハンモックっぽい。少しシワシワだが蚊帳付きのふつうのハンモックっぽい。
ここまではふつうのハンモックの設営方法と同じだ。
3. ポールを入れる
ヘブンテントのキモのひとつといっても過言ではない工程。頭上と足元にポールを入れて空間を広げる。
このポール、重いものは無理だが、ちょっとしたものを干すのによさそうだ。ハンモックの中で靴下を紛失し、朝に自分の尻の下からホカホカの靴下を発掘する……ということを年に何十回もやっている靴下紛失常習犯の私は、「靴下干しポール」としてぜひ活用したいと思う。
4. マットを膨らます
ヘブンテントにはいわゆるエアーマットが付属している。結構、厚みもありそうなので、膨らましながらだんだん酸欠になり、“HavenTent(*1)” で “Heaven” に行きかけるのではないか……? と心配をしたが、問題はなかった。エアーマットが入っていた袋がそのまま空気入れになる仕様なのだ。なんて気が利くんだ! ありがとう……ヘブンに行かなくて済んだ……ありがとう……心のなかで拝みながら空気を入れる。
(*1) ちなみに、Havenは理想郷、避難所という意味。本来の発音はヘイブンに近いが、日本人にとって言いやすく覚えやすい「ヘブンテント」を日本語名として採用したのだという。
5. マットを敷いて完成 ボリュームのあるマットを引きずらないよう真剣に運んでいたら、まるでアスリートのようなまなざしになっていた……。「マット投げ」の競技で金メダルをめざせるかもしれない(投げ入れる必要はもちろんない。安全に運んでそっと置こう)。
膨らませたマットをヘブンテントにインする。4つの角でマットを留めたら完成だ。
ヘブンテントの乗り心地&寝心地
まずは座ってみる。
あっ、結構沈む! 厚さのあるマットのおかげでふかふかしていて、いつものハンモックとはぜんぜんちがう不思議な感じだ。
写真で見るとよくわかるが、やはり体重がかかっている部分はグッと沈む。そりゃ仕方ないよね人間だもの。
寝転がった感じはどうだろうか。
わ! 真っすぐだ。座るのとはちがい、かかる体重がいい感じに分散されるのだろう。また、ふつうのハンモックより体が真っすぐになり、くの字にならないのを感じる。
感想は「ふかふかのエアマットの上で寝ている感じ」。
そのまんまやないか! ……と、どうか石を投げないでほしい。包まれる感じがないせいもあり、寝転がっているとハンモックとは思えないのだ。
横幅もある程度確保されているし、天井高もあるので空間が広く感じる。
ところで、蚊帳を閉めた状態のヘブンテントは空間がしっかりと確保されていて、なにかに似ているような気がしなくもない。この既視感についてずっと考えていたが、ようやく分かった。
……「大名を運ぶやつ」だ!
大名を運ぶものは駕籠(かご)というらしい。乗ったことないけど。
雨よけのレインフライを被せると、より一層、大名気分を味わえるかもしれない。ただし中は結構暑い。夏は蒸し大名になってしまう。
レインフライ・クローズ
レインフライ・オープン
レインフライにはグロメットがついており、手持ちのトレッキングポールなどで跳ね上げることもできる。ていねいにガイロープまで付属しているので本当に気が利く仕様だと感心してしまう。
一般的なハンモック用タープにくらべると若干レインフライの面積が小さいので、大雨のときは注意したい。
ヘブンテントのちょっと気になるところ
ヘブンテントは細かなところまで気が利いている。
・オールインワンセットになっていて、買い足さなくても完結する
・コンプレッションできる袋やパーツ
・エアマットの袋が空気入れになる
・蚊帳をめくって留めておくパーツがある
・蚊帳は左右どちらからでも出入りができる
・内部ポケットが多い
・靴下が干せそうなポール(前述参照)
などなど、ありがたい要素が満載である。どれも細か〜い話ではあるが、快適なハンモック泊をするためのポイントだと思う。
ところがちょっとだけ気になる部分もある。ふだん、よくあるごくふつうのバナナ型のハンモックで泊まっているからこそ、いくつか気になってしまった。
まず、フルフラットということもありイスとしての利用がしづらい。
見ての通り、けっこう傾いてお尻側がグンと上がってしまう。そして膝の裏に生地が食い込むように当たる。ふつうのハンモックをイスの代わりとして使うこともあるが、これだと長時間座ってなにかをするというのは向いていないと思う。
次に気になったのは、寝返り問題。
ふかふかマットの好き嫌いと、体重などの個人差もあると思うので一概にはいえないが、フルフラットな形状の見た目の割には寝返りは容易ではなかった。ふつうのハンモックにはない “ゴワゴワする感じ” がある。
もっとコロリと寝返りが打てるものかと思っていたが、横向きになろうとするとマットのやわらかさもあって、バランスを崩しそうになり、ジタバタとしてしまう。その姿は捕らえられた虫だ。蚊帳の中のできごとなので余計にそう見えるのだろう……。寝返りを打つときはどうかだれも見ていませんようにと願うばかりだ。
静止画でお伝えするのは難しいが、非常にジタバタした。
そして、設営時にあれっ? と思ったのがツリーストラップの長さ。いつもの場所で設営しているのに、今回のヘブンテントではストラップの長さが足らなかったので測って比較してみた。
いちばん上がヘブンテント付属のストラップ。真ん中はENO Helios Suspension System、その下にハミングバードハンモック社のツリーストラップ。
やはり一般的なハンモックストラップよりやや短めだった。木と木の間隔だけでなく、巻く木の太さでも変わってくるので、もう少し長ければ助かるのだが……。いつもハンモック泊をしている人は「いつもよりやや間隔の狭い木」を選んだ方がよいかもしれない。
押し入れで眠ったあの日を思い出す、自分仕様な空間
まるで大名を運ぶやつだ! と先ほど述べたように、ヘブンテントは空間が広い。さらにハンモック上部にかなりしっかりとしたリッジラインがあるため、いろんなものを引っかけて吊るせるというのもポイントが高い。
軽めのLEDライトをつるす。
工夫次第では、スマホやタブレットをつるして寝転がりながら映画鑑賞……なんてこともできる。
しっかりしたリッジラインのおかげで、スマホケースをつるしてもびくともしない。
……最高!
しかも絶妙な位置にドリンク用のポケットもある。
端のジャマにならないところにある大きなポケットも、靴や服を入れるのにちょうどいい。
私が靴下を干そうとたくらんでいるポールも、なにか工夫すればもっと別の使い道があるかもしれない……! そんなことを考えている時間も楽しくて、ニヤニヤが止まらない。
地面から浮かび上がった自分だけの空間は、子どものころ、押し入れの中につくった遊び場に似ている。
某国民的アニメのキャラクターをまねて押し入れの中で眠るだけでなく、マンガを持ち込んだり、お菓子を持ち込んだり、どうにか灯りをつけられないかと考えてみたり、自分なりの快適な空間を模索しながら過ごしていた(最終的には叱られるのだが……)。ヘブンテントで寝ていると、妙に落ち着くあの空間を思い出すのだ。
ひと晩寝てみて、ドラ○もん気分が味わえた。
ヘブンテントは包み込んでくれる感じはない。それがふつうのバナナ型のハンモックとの大きなちがいではないだろうか。しかしその代わりに、押し入れで眠ったあの日の思い出に包み込まれたような、そんな気がした。
快適空間にカスタムするもよし、大名気分で浮かぶもよし、ときには地面で眠るもよし(その名の通り “テント” なので、じつは地面での設営も可能なのだ)! 気の利いたやさしさを感じながら、とにかくいろいろと遊べそうなハンモックであった。
ヘブンテント(Havent Tent)スタンダード
サイズ:L198㎝×W58㎝×H86㎝(展開時)
重さ:2.78㎏(パッケージ総重量)
耐荷重:129㎏
水圧:4000㎜
カラー:Frorest Green、Sky Blue
パッケージ内容:本体、フライシート、蚊帳、エアマットレス、ツリーストラップ、ガイライン&ペグ、収納袋
価格:49,980円(税込)