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折れたロッドを手軽に再生!プロックスの「手作りキット グリップV3」がいいぞ
2021.11.17 Wed
藤原祥弘 アウトドアライター、編集者
ある日、馴染みの釣具屋をのぞいてみると、ジャンク品の山に気になるものをみつけた。新品のボートロッドである。
この店は折れた竿や廃盤の竿を補修用のパーツとして投げ売りしているのだが、目にとまったその竿は明らかに新品だった。値つけはなんと800円。モデル名を検索すると、10年ほど前には2万円で売られていたようだ。
800円という価格には理由があった。この竿は本来2ピースだが手元側のパーツがないのである。しかし私には秘策がある。手元がないなら、別の竿の手元を着ければいいじゃない。
こんなときのために、わがやの納戸には海や川に散っていった愛機のパーツが山と積まれている。妻の小言に耐えながら守ってきたガラクタが活躍するのは、今だ。
ボートロッドを購入して帰宅し、ストックのなかからボートロッドのジョイントのオスに合うハンドルを探す。しかし、ポン付けできるハンドルは見つからない。それなら次の策だ。穂先側と手元側の隙間を埋めるスペーサーを作ろう。
まずはボートロッドのオス部の外径を計測する。続けて保管してあるものから適当な竿を抜き出し、内径がボートロッドのオスの外径と合う位置でカットする。これでパイプ状のメスパーツができる。
そして、このメスパーツを別のハンドルに挿入して樹脂で固定すれば、ボートロッドとぴたりと合うハンドルができあがる。3本のハンパを合わせて機能する1本を作るのだ。
ギコギコヌリヌリすること30分。25年前の竿と15年前の竿と10年前の竿が合体したサンコイチロッドが誕生した。樹脂が固まったあと振ってみると、なかなかの調子が出ている。カヤックフィッシングで活躍しそうな長さと硬さだ。
その仕上がりにたいへん満足したところで、ハタと気がついた。もしかしたら世の中には、自作用の既製品ハンドルがあるのではないか? 検索すると一発で出てきた。その名も「手作りキット グリップV3」。メーカーはニッチなアイテムを繰り出すプロックスだ。
V3ということは、2度はヴィクトリーをつかんだのだろう。これは性能を確かめねばなるまい。V3をネットで注文して私は再び馴染みの店へと走った。ジャンクの山には、まだ数本のボートロッドが混じっていたからである。ニコイチロッドを配って、釣友に恩を売r……もとい、恩に報いよう。
数日後、わがやにV3がやってきた。ボートロッドのオス部の外径は9mmだったので、メス部の内径が9mmのV3を発注したが、ぴったり合うだろうか。この手の工作をする人なら知っての通り、9mmのメスに9mmのオスは入らない。内径9mmのメスに収めるには、オスの外径をわずかに削る必要がある。
しかし、オスを削って済むならまだ簡単。問題はオスのほうが微妙に小さかったときだ。メスに入ってもガタがあれば竿として機能しない。こんなときはオスに樹脂を薄く盛って肉をつけなければならないが、オスを削る作業よりオスを盛る作業のほうが数倍めんどくさい。そして、できあがったジョイントの精度と耐久性も肉を盛ったときのほうが劣る。
どきどきしながらV3とボートロッドを合わせてみる。……よかった。ボートロッドのオスはV3のメスよりわずかに太い。これなら少し研磨するだけで挿入できる。
紙ヤスリと耐水ペーパーで慎重に削ること10分。ノギスで測っても違いがわからないレベルの研磨で、擦り合わせができた。できあがった竿を振ってみるとサンコイチロッドよりも断然一体感が出ている。釣友には、手間ひまと愛情をかけたサンコイチをあげることにしよう。
V3を手元に残したかったのは、嵌合の具合だけが理由ではない。V3はグリップがリールシート側と尻手側の2か所に配されているが、尻手側のグリップは抜くことができる。抜いた後に内部のパイプを切り詰めて再びグリップを被せることで、自分の好みの長さに調整できるのだ。私はカヤックで使いたいので、尻手が脇の下におさまる長さにしたかった。7cmばかり切り詰めるとちょうどよい塩梅になった。
フネを用意するのものもどかしく、V3によって再び息を吹き込まれたボートロッドを手に海へ行く。本来の設計より若干長くなっているものの、バランスは悪くない。40cmほどのスズキをかけるとボートロッドは小気味良い曲がりを見せた。中型の魚と遊ぶのに丁度よさそうだ。
V3のジョイントの内径は8〜14mmの間で1mm刻みで展開されている。ハンドルのタイプはスピニングとベイトの2種。リールシートは信頼のFuji製だ。パーツの供給が終了して補修できない竿をもつ人や、手軽に改造を楽しみたい人におすすめのアイテムだ。
プロックス/
手作りキット グリップV3
ジョイント内径8〜14mm(1mm刻み展開)
価格 オープン(実勢で3500円程度)