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オピネルのカスタムに新風が吹く…か!?「ステップロック加工」でブレードをカチッとロック
2022.10.26 Wed
宮原 悠 農園プランナー・発酵クリエイター
カスタムベースの雄・オピネル
誰かが言った…炭素鋼のオピネルには黒錆加工を施せ。
また誰かが言った…グリップをオイル漬けすべし。
こうした既製品のカスタマイズは、少なからず使用者に満足感や優越感をもたらしてくれる。一方、こうしたティップスには黒錆加工するよりきちんとメンテをすべきだ、オイル漬けは木を傷ませるからやってはいけない、といった反論もついてまわる。
私はそれを良いとも悪いとも評さない。どんなティップスにしろ、元は誰かが道具を使い込んだ末に生み出したアイデアであり、当人にとっては有用なものだったのだろう。大切なのは、それを使う当人のニーズに即しているかどうかだ。
……いらぬ前置きをしてしまった。というのも、私もまたオピネルについて新しいカスタマイズのアイデアを提供しようと思うのだ。その名も「ステップロック加工」。あなたにとって有用かどうかは、自身で試してほしい。
オピネルの長所にして短所はロックリング
アウトドアズマンでオピネルを知らない人はまずいないだろう。薄刃で軽量・コンパクト。抜群の携帯性を誇り、切る、削る、調理するといった用途ではとても重宝するナイフだ。
天然木の味わいを生かしたハンドル、薄くて切れ味の良いブレード、簡単なロック機構、そして手の出し易い価格。
かく言う私も最初に買ったアウトドアナイフはオピネルであり、数十年経った今も使用頻度は少なくない。しかし、どんな道具にも「これがもう少しこうだったら良いのに」と思わせる短所はあるものだ。
私が昔からオピネルに感じている不満はロック機能にある。オピネルの特徴であるロックリングは、非常にシンプルでわかり易いもので、斜めにカットされたリングを回転させて、ブレードのヒール(あご)を押し上げ、摩擦を起こして固定する仕組みになっている。
オピネルのロック機構は、きちんとロックリングを締め込めば、そうそう緩むものでもないが、グリップの持ち方や締め込みが甘いと緩むことがある。これにストレスを感じている人は少なくないはずだ。これを解決するのが、私が提案する「ステップロック加工」である。
これがステップロック加工だ!
この写真で全てを理解した人はここで解散! 今すぐオピネルを握りしめて工具箱へと走ってほしい。わからない人は、もう少しだけお付き合い願いたい。
ステップロック加工はロックリングに小さな切り欠きを設けてブレードをロックする機構だ。無加工のロックリングがブレードを固定するあたりにマーキングして、そこを少しだけ削りとる。この加工を施すと、ロックリングで固定した際にブレードが切り欠きのなかに保持されて緩むことがない。
フォールディングナイフに用いられるライナーロックやフレームロックなどに比べれば信頼性は低いが、リングに横回転の力がかかっても簡単に緩むことはなくなる。また、展開時にロックがかかったかどうかが音と感触で分かるので、安心感も高まる。それでは、次項から加工方法を紹介していく。
その① ブレードを展開し、ロック位置をマーキング
まずはブレードを開き、ロックリングをしっかり締め込んで固定する。リングがそれ以上回らない位置であることを確認したら、ブレードのヒール(顎)の真下、ロックリング側にサインペンで印をつける。正確に位置を把握するために、印はなるべく小さくつけることがポイントだ。
その② ロックリングを外す
ネット検索をすると色々なロックリングの外し方が載っているが、グリップを握ると先端が開く「スナップリングプライヤー」を使うのが最も安全で確実だ。しかし、多くの人の工具箱には入っていないだろう。
道具がないなら技術でカバーしよう。手指をうまく使えばプライヤーでもうまく使えば外すことはできる。リングの隙間にプライヤーの先を入れ、ゆっくり開いてボディを引き抜く。リングを傷めないように注意して作業しよう。
より作業の安全性を高めたい人は、リングを外す前にブレードのエッジをマスキングテープなどで覆っておこう。薄いテープを貼るだけでも作業中に手を切りづらくなる。
その③ ステップを削り出す
上から見てもわかり易いように、印の上にマスキングテープ貼り、平らな台の上に置く。テープに触れないギリギリの位置でゆっくりやすりを前後させて段差を作っていく。削り出しは小型の工作用糸鋸があればそれでも良いが、わずかに削るだけなので、手持ちの板ヤスリでも十分だ。
作る段差はごくわずかで良い。撮影に使ったオピネルNo7では、削る深さは0.5mmほど、幅は1.2mmほどでいい。
削るということは、ブレードとリングの間に隙間をつくることでもある。つまり、削った分を差し引いてなお、リングとブレードが密着する位置にステップを作ることが大切だ。
注意したいのは2点。ひとつは削る位置だ。手前すぎるとリングとヒールに遊びが生まれてしまう。もうひとつは深さ。深く削りすぎても同様に遊びが生まれる。 削り位置のコツは印の中心線がステップの角に合うようにすること。削り位置が遠すぎたり、浅い場合は修正ができるが、手前すぎたり削りすぎると元に戻せない。ブレードに遊びがある状態で使用するのはとても危険だ。作業は臆病なぐらいでちょうど良い。削り終えたら軽く紙やすりを当ててバリを取っておこう。
その④ 組み立てる、ステップロックの確認
ロックリングを戻して確認をする。繰り返すが、肝要なのは慎重に削ることだ。削りすぎてブレードに遊びができてしまうとナイフとしては不完全で使用には危険なものになる。
リングを回したとき、ググっと負荷がかかるのを感じた後に、ブレードがカチッとステップに落ちればOKだ。
一点だけ注意したいのが、ブレードの収納だ。ブレードをステップに落とし込んでいるので、元のロックリングのようにただリングを戻すことはできない。力任せに回せば戻らないこともないが、次第にブレードのヒールとステップの角が削れてロック機構の意味をなさなくなってしまう。仕舞う際は、必ずブレードを背面に引いてからリングを回そう。
ステップロック加工を施すとブレードのロックと解除を両手で行なうことになるので、ワンハンドクローズができなくなるが、私はブレードがロックさせるメリットのほうが大きいと感じている。
最後に蛇足をもうひとつ。ナイフとはもともと危険な道具だ。「絶対安全ナイフ」はこの世に存在しない。加工においても加工後の使用においても、自己責任で注意して臨んでほしい。