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冬を快適に走る! 雪道対応のランニングシューズ アシックス「SNOWTARTHER SG」

2023.01.31 Tue

林 拓郎 アウトドアライター、フォトグラファー、編集者

 ちょっとこの感動を共有させてほしい。

 そもそもの始まりはトレーニングとして渋々始めたジョギングだったのだ。夏前からポツポツと走り始めたのだが、どうしたわけかある秋の日、突然「走るの楽しい!」という回路が繋がってしまった。なぜそうなったのかはまったくわからない。が、とにもかくにも、自分のなかに新しい外遊びのチャンネルが増えたことだけはまちがいないようだった。

 しかし住んでいる北海道・旭川近郊は例年、11月の半ばから翌年4月上旬までは雪景色。常識的に考えて、走れるコンディションではなくなってしまう。けれどずっと、なんとなく走りたいという気持ちが消えないでいる。そこで走り好きな人たちはどうしてるんだろう?と、周囲のいろんな人たちに聞いてみた。そうして知ったのが「走る人たちはトレランシューズで走ってるね」という現状だ。が、それも「滑るもんだと思ってやってる」という返事。それじゃあなんとなく安心できないなと考えていた矢先に「雪上でもトレーニングするランナーのためのシューズがあるんだよ」という情報を掴んだ。そんなものがあるのか! と公式サイトをのぞいて即日購入。こうしてアシックス(asics)の「SNOWTARTHER SG(スノーターサー エスジー)」を手に入れたのだ。

「TARTHER(ターサー)」とはアシックスのランニングシューズの名称。タイガーとレーサーをかけ合わせた造語であり、力強く走るランナーに向けてつくられた製品に与えられる。「SNOWTARTHER SG」はその名の通り、雪の上を走るためのターサー。SGはSeparate Gripを表している。

 

■シューズを選べば、雪道は楽しい。それどころか、雪道ならではの楽しさがある!
 いきなり結論を出してしまったが、これが偽らざる印象だ。実際に走ってみると、雪は上質な土のようだった。適度に締まった雪はクッションがきいていて柔らかく、靴底をぎゅっと捕まえる独特のグリップ感がある。それが走る楽しさをブーストしてくれるのだ。

 という話を進める前に、言葉の精度を上げておきたい。まず、ここでいう雪道とは除雪された道のことだ。けっして新雪が降り積もった道ではないし、凍った道のことではない。走り始めて分かったのだが、この除雪された道こそ、冬の北海道を走る際のメインフィールドになるのだ。

走っているのはこうした道が多い。適度に除雪してあるので、深雪に足をとられることもない。ちなみに1時間走っても、車を見ることはほとんどないという状況。

 というのも、そもそも北海道の歩道は、都市部でない限りこまめな除雪はされない。コンスタントにスネまで埋まるなんてのは当たり前だ。そのため、歩道を走ることはかなり厳しい。そこで選ぶのは除雪がゆきとどいている車道の端っこ、ということになる。

 というわけでここでいう雪道とは、車通りの少ない車道、たとえば幹線道路から外れた農道など、という捉え方をしておいてほしい。

 さて、そうした路面を走る限り、SNOWTARTHER SGは、雪が滑るという不安感をまったく感じさせない。とにかくそのグリップ力は頼もしいばかりだ。足が雪面を捉えた際、アウトソールの細かなブロックがしっかりと雪を掴んでくれる様子が、ソールを通して足裏に伝わってくる。かかとからつま先へと体重が移っていくあいだ、衝撃を吸収しながらもブロックがぎゅぎゅっと雪に食いついていく。その様子がはっきり確認できるほどだ。

的確なグリップを生み出すアウトソール。足の動きにあわせて細かく分割されており、着地から蹴り出しまで、効率よく雪面を掴むことができる。ラグは3.5mmとじゅうぶんな深さ。ブロックは細かいものがびっしり並んでおり、スパイクのように尖ったものではなく、柔らかい面で雪面を捉える、という発想が伺える。

 しかも蹴り出しの際に、アウトソールが滑って空振りするようなこともない。ソールは適度にかたく、必要以上にねじれるようなこともない。おかげでつま先が離れるギリギリまで、ちゃんと力を雪面に伝えてくれるのだ。

 もちろん、氷のように固く滑りやすい路面では注意が必要なこともある。SNOWTARTHER SGはアウトソールのブロックが掴んでくれる圧雪こそが得意なのであって、なんでもかんでも、どんな路面でもグリップするというわけではない。というわけで、きちんと製品の得意な分野を理解した上で、走りながらの路面状況把握は怠らないことも重要なのだ。

ミッドソールにはアシックス独自の素材「FLYTEFOAM(フライトフォーム)」を採用。従来のミッドソール素材に比べて55%もの軽量化を実現しており、優れたクッション性と耐久性を発揮する。またソール底面には硬質樹脂プレート「プロパルジョンプレート」を配置。ソールが局所的に曲がることを防いで蹴り出し時の動作を安定させてくれる。

 

■軽く、濡れずに快適
 冬のランを楽しむ人のなかにはトレランシューズを使う人もいる。が、トレランシューズの多くは濡れることを許容しており、防水性を備えていないものがある。また、高い通気性も備えている。

 こうした装備は夏場の快適さを演出するものだが、冬のランでは仇となる。なにしろ寒い。いや濡れて足先が冷え、そこに寒風があたると痛いのだ。その点、SNOWTARTHER SGはアッパーに撥水機能を備えており、雪がついても染みてくることがない。

EVAのアッパーは撥水がきいており、この程度の雪であればしみることもない。また適度な防風性も備えており、厳冬期でも冷えすぎることはない。足首部分はゲイターのような構造になっているため、雪の侵入も最小限に抑えることができる。新雪のなかを走っても、とくに不満も不安もないのが嬉しい。

 ちなみに、走っているコンディションは気温マイナス10度前後。雪がシューズについたとしても解けることがないため、厳冬期であればシューズに高い防水性は不要なのだ。

 また、このアッパーは通気性をほぼ備えていない。これは冷たい風を遮り、足を保温するためだ。またシューズの吐き口には雪をガードするしくみが設けられており、こちらもシューズ内への雪の侵入を妨げてくれるのだ。

 さらにランニンシューズとしてはじゅうぶんな270g(26.5cm片足 実測)という軽さ。こうして細かく見ていけば、このシューズがいかに冬場のランを見据えてつくられているかがよく分かる。

 街なかで履くようなスニーカーは、雪道を歩くだけでもひと苦労。走ることなど望むべくもない。しかし、きちんと雪のことを考えたシューズを履いていれば、雪であってもまったく、なんの問題もなく、むしろ楽しさをもって走ることができる。

 夏と違って暑さに悩まされることもなく、空気は澄んで冷たく心地よく、景色も遠くまで見通せる。お天気さえよければ、ずっと走っていたくなるほど快適。それが雪道のランニングだった。しかし、この楽しさはまだまだニッチなものに違いない。けれど、そうした楽しさを支えてくれる製品がちゃんと存在していることに、感動さえ覚えたのだった。

■アシックス/SNOWTARTHER SG
雪上での走行効率を追求したスノーレーシングモデル

サイズ 23.0〜29.0(0.5㎝ピッチ)
ラスト WIDE
カラー French Blue/Electric Red
価格 15,400円(10%税込)

製品についての詳細はこちらへ。
https://www.asics.com/jp/ja-jp/snowtarther-sg/p/1013A076-411.html

林 拓郎 アウトドアライター、フォトグラファー、編集者

スノーボード、スキー、アウトドアの雑誌を中心に活動するフリーライター&フォトグラファー。滑ることが好きすぎて、2014年には北海道に移住。旭岳の麓で爽やかな夏と、深いパウダーの冬を堪能中。

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