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【インタビュー】モンベル「わんパック」「ポケッタブルベビーキャリア」開発ストーリー。子ども製品も「Light & Fast」を忠実に
2023.02.20 Mon
まつだ しなこ 子連れハイカー
「抱っこ紐はかさばる」というイメージを覆した、携行性にすぐれた抱っこ紐「ポケッタブルベビーキャリア」。2022年に発売され大きな話題となった、軽量で高機能な通学用バックパック「わんパック」。
なぜモンベル(mont-bell)はアウトドアウェアやギアの枠をこえ、ヒットするキッズ製品を開発し続けることができるのか。
自身も3人の子どもの父である代表取締役社長 辰野岳史さんに、子どもたちの将来を見据えたキッズ製品開発へのこだわりを聞かせてもらった。(後編)
キッズウェアにこだわるモンベルのこだわりと未来への希望
一歩外に出れば、そこはアウトドアフィールド
── モンベルはアウトドアアクティビティ用の製品以外にも、タウンユースなベビー/キッズ向け製品もつくられていますね。
子どもにとっては公園で遊ぶことすらアウトドアフィールドなんです。だから登山やキャンプだけじゃなくて、外遊びのときは全部快適に過ごして欲しい。アウトドアフィールドを広くとらえて考えたときに、われわれのノウハウを使えばもっと子どもたちのウェアをアップデートできるなと思ったら製品が増えていきました(笑)。
── 子どもが使うもの、ということでとくにこだわっている点はありますか?
やはり安全性でしょう。安全性を確保するためにどんな機能を優先するかを考えています。
たとえば防水性。防水機能を高めることは、体温維持という安全性の確保につながります。レインウェアは防水の生地を使えばいいということではなくて、縫い目にシームテープを貼って水が入ってこないようにしないといけないんですね。そういうことは大人のウェアと同じで、丁寧に取り組んでいます。
コンパクトにシンプルに。「ポケッタブルベビーキャリア」
── 大ヒット商品「ポケッタブルベビーキャリア」が生まれた経緯を教えてください。
基本的なコンセプトとしては、ある程度よちよち歩けるけど疲れたら抱っこする、という成長の一時期に特化したシンプルなものをつくろうというのがスタートでした。一般的な抱っこ紐は、成長の多数のステップをカバーするためにたくさんの機能が必要になり、結果としてつくりも大きくなり、価格も上がっていく。モノづくりの場合、範囲を広げて汎用性のあるものにすればするほど、付加的な機能って増えていきます。
モンベルの場合、もっと使用するシーンをグッと狭めて機能をフォーカスする。そうすると、コンパクトにシンプルにしていけるんです。そこは「ライト&ファスト」を掲げるモンベルの得意分野ですよね。
── とくにこだわられた点は?
使い方はできるだけシンプルにしたいと思いました。脱着の動作をいかにシンプルにしながらも安全性はしっかり担保する、というバランスですね。子どもがしんどかったらイヤなので、快適さも大事でした。
企画部にも小さいお子さんがいるスタッフがいたし、社内のいろんな世代のスタッフにも試しに使ってもらったりして形にしていきました。
── まさにアウトドアフィールドでのバッグパックのコンセプトですよね。
快適な素材のチョイスに関するノウハウは持っています。外れてはならないバックルに関しては、バックパックやクライミングのハーネスをつくってきた技術があります。そこを組み合わせて商品をつくっていきました。アイディアと、われわれが持っている技術の組み合わせですね。
通学用バッグ「わんパック」に生かされたバックパック開発ノウハウ
── 2022年に新発売された通学用バックパック「わんパック」の開発のきっかけを教えてください。
富山県立山町の町長から、「軽くて機能的だけど、経済的に負担にならないランドセルをつくって、子どもたちのために寄贈したい」という相談を受けました。
もともと立山町とは包括連携協定を結び、エリアとして仲良くさせていただいていたご縁もあったので、ふたつ返事で「やってみよう」と公募審査に挑戦することになりました。
ランドセルもカバンですからね。長年登山用のバックパックをつくってきた、われわれのノウハウを生かして、いいカバンをつくることができるんじゃないかって思ったんです。
── ランドセルの代用品ということで、これまでにない開発になったのではないでしょうか?
わんパックは開け口がダブルジッパーになっていて、ワンハンドで一気に大きく開くんです。これは子どもでも開け閉めがしやすいよう、わんパック開発にあたりこだわった点です。
あとはトップ部分をあけっぱなしにしても自立すること。奥のほうにあるものを出し入れしやすいように工夫しました。最近ではタブレットを持ち歩いたりもするから、内部にクッションをつけたりといったところも工夫しましたね。
── モンベルのアウトドアギア開発のノウハウが生かされている点はどこでしょうか。
ショルダーベルトの部分ですね。子どもの荷物も重くなっていますから、肩への負担が少なくなるような型にするにはどうしたらいいか、というところはモンベルの得意分野です。
それから、防水対策の考え方です。生地自体に防水機能を持たせて、レインカバーはすべてを覆うようにはせず、上のファスナー部分だけにしてあります。これも軽量化ですね。使わないときはサイドポケットへコンパクトに収納できます。
── 通常のランドセルの平均購入額が50,000円をこえるのに対し(*1)、わんパックは14,850円とかなり価格が抑えられていますね。
(*1) 一般社団法人日本鞄協会ランドセル工業会。2022年購入金額平均56,425円。
いまのランドセルはだいぶ高額なものになってきていますよね。われわれとしては、安くつくろうというより、先ほどの抱っこ紐と同じように、バックパックとしての目的を絞って考えていくと、モンベルではこの価格でつくれた、ということです。
ただ、機能をフォーカスしていくなかでも、反射板のような絶対につけて欲しい機能は付加するようにしています(*2)。わんパックには、背面やショルダーベルトといった光を反射しやすい部分に、大きく反射板をつけています。
(*2) 一般的なランドセルは反射板を別途購入して貼り付けるタイプが多い。
── 実際に使われた方の反響はいかがでしたか?
「軽くなった」という声が多いですね。軽くなった分、動きやすくなったとよろこんでくれています。900g程度しかありませんからね。
うちの子どもたちにも使わせているんですが、一般的なランドセルとは形がちがうので、1日目はみんながジロジロ見てきたそうです。でもニュースにもなっていたので、ほかのクラスの先生が見にきたりして、翌日からは自慢げに背負っていきましたよ。
大人用の販売はないのかという問い合わせもあります。正直、こんなに反響があるとは思わなかったのでおどろいています。
子どもにアウトドアフィールドを好きになって欲しい
── 最後に、ベビー/キッズ製品の開発に込めた思いを教えてください。
「自分が欲しいものをつくる」というのが基本なのですが(笑)。
最初にお話ししたように、子どもにとって公園遊びもアウトドアフィールドなんですよ。そう考えると、アウトドアメーカーとしてのノウハウを生かした製品はもっといろいろつくれるはずです。
アウトドアのウェアは耐久性が大事ですよね。子ども用のウェアだってもちろん耐久性が高いので、一度買ったら長く使ってもらいたい。サイズアウトしたら、だれかに譲ったり、下の子におさがりで使ってもらったり。
商売としては利益と相反する部分もあるような気もしますが、そうやっていい機能のものをたくさんの人に使ってもらって、外遊びを好きになって、大人になったらモンベル商品に帰ってきてくれれば、こんなにうれしいことはないです。
辰野岳史・たつのたけし 1976年生まれ。00年モンベル入社、コンシューマ営業部所属、関東の店舗などでの販売経験が長い。その後、バイヤーや教育担当、商品企画に携わり、07年専務、17年9月から社長。
■モンベル/ポケッタブル ベビーキャリア
ショルダー・ウエストハーネス:210デニール・ナイロン・リップストップ[ウレタン・コーティング]
肌面:ポリエステル・メッシュ
フード:ポリエステル・メッシュ
■わんパック