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バイオエタノールを燃料に! おうちで使えるフェーズフリーなFISHBONEストーブ
2024.06.12 Wed
『フェーズフリー』とは、いつも使っているモノやサービスを、もしもの時にも役に立つようにデザインするいう考え方。いざという時にも使えるアウトドアギアは、まさにフェーズフリーそのもの。そんな日常使いから、アウトドアでの使用まで、安全に楽しく使えるストーブが、クラウドファウンディングGREEN FUNDINGを通して先行発売された。しかし「フェーズフリー」はともすれば、どちらでも使えない中途半端なものになりがちだ。そこで、さっそく商品を手に入れて、本当に使えるのかどうか編集部で試してみました。
現在、日本では卓上コンロを囲んで鍋をつついたり、焼き肉をしたりと一家に一台くらいはガスボンベを使ったカセットコンロがあるだろう。しかし、このカセットコンロが原因による火災や事故は毎年必ずどこかで起きている。これらの事故は何らかの理由によって漏れたガスに引火したり、コンロ内のカセットボンベが高温になって爆発したりと、原因はガスボンベを使った機器の不具合や取り扱いによるものがほとんどだ。日本ではガス機器を安全に安心して使ってもらうためにも、販売するには国に登録された第三者機関の適合性検査と認証を受けなければならない。いわゆる「ガス検」と呼ばれるもので、日本は世界で最も厳しい基準を設けているので、海外で発売されているモデルでも日本では認証が受けられずに発売ができないというケースもある。
ここで紹介するフィッシュボーンストーブは、そんなカセットコンロが日本よりも普及している台湾で生まれた。台湾では烏龍茶や紅茶など、世界有数のお茶の産地でもあり、お茶を楽しみながら点心を食べる飲茶も人気だ。しかし1995年に台中のレストランで起こったガスコンロが原因による事故をきっかけに台湾の発明家ジャンリン・ウー氏が、屋内で安全に使えるアルコール燃料を使ったストーブを開発。当初はメタノールを燃料とするものだった。メタノール燃料は安くてどこでも入手ができ、爆発の危険がないため、誰にでも簡単に扱える。このストーブは改良を重ね、長年にわたって台湾で販売されてきたが、北欧フィンランドのジャンポート・オイ社が、このアルコールストーブの洗練された独自の技術に注目した。北欧のスウェーデンでは低温下でも使える液体燃料を使ったストーブをプリムス社が100年以上前からつくり続けている。ジャンポート・オイ社はウー氏に連絡をとり、メタノールには毒性があり人体や生命を脅かす危険があるので、より安全でクリーンなバイオマス燃料でもあるエタノールを燃焼できるように再設計されれば、世界のストーブ市場でこのような新しいタイプのストーブが多くの人に使用される可能性があることを提案。台湾の新しい技術と北欧のストーブ開発の長い歴史の両者の提携によって、エタノールを燃料としたストーブの開発に成功し、屋内と屋外の両方で使用できるように設計された市場で唯一のエタノールストーブが誕生した。
バイオエタノールは地球の未来を明るく照らすことができるのか
「Fishbone」ブランドで販売されるこの新しいストーブは、すでに台湾で特許を取得し、両社はストーブに関する共同国際特許出願を提出している。現在、イギリス、ドイツ、スウェーデン、フィンランドで発売されているが、日本でも発売が開始されるというので、さっそく現物を手に入れて実際に使ってみた。
パッケージの側面にはBIOETHANOL STOVE(バイオエタノールストーブ)との文字がはっきりと書かれている。グローバル展開を念頭に日本語表記では「アルコールストーブ」、そして中国語表記では「酒精爐」と書かれている。アウトドアで使用される液体燃料にはアルコールのほか、ホワイトガソリンや灯油(ケロシン)などが使われているが、おもに燃料用アルコールとして使われているのは、石炭や天然ガスなどの化石燃料から工業的に作られるメタノールである。また、このコロナ禍で消毒用アルコールとしてドラッグストアなどで販売されていたのは、サトウキビなどの糖質とジャガイモなどのでんぷんを発酵させて作られる植物由来のエタノールであり、わたしたちがお酒として飲用しているアルコールも科学的にはエタノールである。ではバイオエタノールとは何なのか? バイオエタノールとは、大麦やトウモロコシなどの植物や樹木などを原料にバイオマスを発酵させて蒸留して作られた純度の高い燃料用エタノールのことである。バイオエタノールは、ガソリンに添加して使用することで化石燃料の使用量を減らす有効な手段と考えられているが、日本では原料となる食用や飼料作物を輸入に頼っているため、コスト面や燃料生産のためのL C A(ライフサイクルアセスメント)などの費用対効果を考えると、実効性に欠けると言われている。しかし、私たちがアウトドアや普段の生活のなかで、化石燃料を使わずに植物由来のバイオ燃料を使うのは身体にも安心で安全なことのように思える。キャンプなどで、ときどき卓上でアルコールストーブの炎でマシュマロを焼いて食べている人を見かけるが、燃料用として販売されているアルコール燃料のほとんどは、毒性の高い添加剤が含まれたメタノールであり、それが気化したガスの炎で炙ったマシュマロを食べるというのは、危険極まりない。アルコールとひと口に言っても前述したように、石油由来の毒性の強いものと植物由来の身体に害のないものがあるということを覚えておきたい。
前置きが長くなったが、このフィッシュボーンストーブは、オーガニックコットンを着るように環境にも身体にも気持ちの良い燃料を選ぶことができる、革新的な次世代のストーブともいえる。箱から出てきたストーブは、鮮やかなカラーリングとメカメカしいゴールドのバーナーヘッドが輝くスタイリッシュなデザイン。思わずそのフォルムからクリスマスケーキを連想する。付属の取り扱い説明書にも日本語が併記されているので、とてもわかりやすい。今回テストしたのはFB-02Eと呼ばれるモデルでバーナーヘッドにあるガトリング砲のようなジェット孔が8つあるタイプだ。そこで、まず気になるのは基本スペック。サイズは直径155 mm×高さ114mmで重量は600g。出力は1400W(1300Kcal)、タンクの容量は380ml。満タンからの最大火力で95分間の燃焼とある。
今回用意した燃料は無水エタノールだ。薬局に売っている消毒用エタノールと無水エタノールはどこが違うのかというと、無水エタノールは99.5vol%とアルコール濃度が非常に高く水分がほとんどないのですぐに揮発してしまう。それを77.0vol%から82.0 vol%程度に水で薄めたものが消毒用エタノールと言われるもので、燃料としては揮発性の高い無水エタノールの方が適している。それを付属のシリコン製のじょうごに入れ、ストーブ本体のタンク上部にある燃料口のキャップを開け、専用の漏斗をバーナーヘッドに被せて注いでいく。燃料を入れ終わったらキャップを戻し、ストーブ本体を燃えにくい平らな板や皿の上に置き、付属の制御ピンを中央のバーナーヘッド下部に挿して目盛を最大出力に合わせていよいよ点火する。アルコールは揮発しやすいので、もし本体に燃料がこぼれてしまっていたら引火の危険があるので乾くまで待ってから点火する。
点火は点火棒が先についたターボライターで制御ピンのあるバーナーヘッド下部を10秒から20秒ほど炙るとバーナーヘッドから炎が立ち昇る。ガスバーナーのような燃焼音はないが、耳を澄ますとアルコールストーブにはない心地のよい燃焼音が聞こえ、頼もしい火力の強さを感じることができる。鼻を近づけても、メタノール燃料特有の鼻をつく匂いはまったくしない。
ガソリンストーブのようにポンピングをしてタンク内に圧力をかけて液体燃料を噴出させるのではなく、タンク内から毛細管現象によって運ばれた燃料が気化パイプを通り、空気と燃料の量を制御することでエタノールの燃焼を最適化して完全燃焼させる仕組みだ。これによってススの出ないクリーンで強い火力が安定的に得られる。画期的なのは火力調整が指一本でできることだろう。火力の調整はバーナー中央にある制御炎を調整する制御ピンで行なう。制御炎のサイズによって、バーナーの気化パイプ内でのエタノールの気化速度が決まり、エタノール蒸気の量が増減するとストーブの火力が増減する。ススが出ないバイオエタノールのクリーンな炎と爆発の危険性がない圧力がかかっていない燃料タンク、そしてさまざまな調理に必要な火力調整機能と、アウトドアで使うことよりも、インドアで使うことを前提に開発されたストーブだということが理解できる。
アルコールストーブの弱点は、ガスストーブなどに比べて火力が弱く、野外で使用する際に風の影響を受けやすい。しかし、ヘッド周りに装備された風防と安定的な強い火力によって、アウトドアで使用する際でも問題ない。特に気温が低くなるこれからのシーズンのキャンプなど、低温化でも安定した出力を維持できるフィッシュボーンストーブは心強い味方になるだろう。
では実際に従来のアルコールストーブと比較してどのくらいの火力なのか、スウェーデンで100年近くアルコールストーブを生産しているトランギア社のストームクッカーと比較して調べてみることに。トランギアのアルコールストーブTR-B25は軽量コンパクトでシンプルな構造をしており、故障のリスクが低く、メンテナンスもラクで燃料の入手も全世界どこでも容易なので、世界中のアウトドアズマンから長年にわたって愛されている。ストームクッカーは、そのアルコールバーナーに風防とゴトク、そしてクッカーがセットになったクッキングツールで、ゴトクを兼ねた独自の風防が燃焼に必要な空気を効率的に取り込み、風に弱いとされていたアルコールストーブの欠点を逆手にとった、世界的なロングセラーを続けるストーブ界の名選手といったところ。それに対してフィッシュボーンストーブは時代が生んだ新たなスター選手として、どこまで実力を見せることができるのか。
風が吹けば吹くほど火力のアップするストームクッカー独自の構造に対しては太刀打ちできないので、風のない屋内で500mlの水が何分で沸騰するかを競ってみた。まずはストームクッカーにアルコールバーナーをセットして付属のケトルでお湯を沸かす。燃料は同じ無水エタノールだ。セットしたアルコールバーナーに火をつけるとオレンジ色の炎がメラメラと燃え上がり慌ててゴトクをセットして、ケトルを乗せた。3分半が過ぎ、せっかちな私は恐る恐るケトルのふたを開けてみると小さな泡がポツポツとしてきている。完全に沸騰しているという状態ではないが、みるみるうちにフタを元に戻すことができないほどグラグラと湧いてきたので、ここで終了! ストップウォッチを見ると4分10秒だった。無風の状態でもこのくらいの時間で沸騰するストームクッカーはかなり手強い。
そして、いよいよニューフェースのフィッシュボーンストーブである。使い込まれたトランギアに比べて、ピカピカの新品ということもあって、見た目ではすでに勝負あり! と言いたいところだが、実際にどのくらいの実力があるのか、点火する前からこちらが緊張してしまう。ケトルを冷ましてから水を入れ、バーナーに点火する。すぐに青白い炎がジェット孔から出たのを確認してケトルを乗せて計測を開始する。トランギアよりも早く沸くに違いないと予想して3分ほど経ってフタを開けてみると、もうすでに白い小さな泡がポツポツと見える。バーナーの火力が最大になっているのを確認している間にグラグラとしてきたのでここで試合終了。沸騰時間は4分を切って3分35秒だった。これが風の吹いているアウトドアの条件下であったらこの結果は違うものになっていたかもしれないが、インドアで使うのなら、フィッシュ・ボーンストーブに軍配が上がることがわかった。
ところがである、最後に片付けをしようととなりにあった、ストームクッカーを見ると、クッカーの径がフィッシュボーンストーブの大きさと著しく近いことに気がついた。思いつきで収納してみると、これがまた偶然にもピッタリ! 新旧の対決から融合という意外な結末に感動! しかし注意したいのが、ストーブから鍋を下ろした後に、タンクの上面に触れると火傷をするくらい熱くなっている。またタンクの底面もかなり熱くなっているので火を消した後は注意が必要だ。
化石燃料からの脱却という意味でも、温室効果ガスの削減という意味でも、新たな時代に向けたストーブ界のニューウェーブとなる予感さえする。これで、あの煩わしいガスボンベのガス抜きや、ややこしい缶ゴミや金属ゴミや危険ごみの分別からも解放され、かじかむ手で冷えたガスボンベを温めながら使うことも、ビクビクしながらカセットボンベのガス缶を取り付けることもなくなるかと思うと、安心して安全にみんなで鍋を囲む日もそう遠くない気がする。人類が火を使うようになってから100万年以上が経つとも言われているが、いまだに人類は、この原初のテクノロジーの利用にほとほと手を焼いている。現代のアウトドアシーンでも火の取り扱いに関しての道具や書籍などが毎年のようにアップデートされているのも、私たちはまだ人類進化の途上にあるということなのだろう。
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BIOETHANOL STOVE
*このFB-02EよりもコンパクトなFB-05Eもある。
*商品の価格や販売について、詳しい問い合わせ先などについては続報をお待ちください!
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