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報道やSNSでは伝わらない、フジロック2019 キャンプサイトの真実。
2019.08.03 Sat
渡辺信吾 アウトドア系野良ライター
「一週間前は苗場に居たんだよな~」とフジロスもひとしおの今日この頃。キャンプよろず相談所の一員として、フジロックのキャンプサイトで業務をしていた筆者がどうしても伝えたいことがあったので、ここに報告しようと思う。
フジロックの現場から帰宅して、改めて知ったのだが、報道やSNSで拡散された情報と現実との乖離に愕然とした。
土曜日の夕方から深夜にかけての雨量はすごかった。過去最大の雨量だったことは間違いない。会場内も冠水した箇所があったし、キャンプサイトではテントが雨漏りしたりインナーに水が溜まった人たちもいた。辛い思いをした人たちも数百人いたと思う。しかし、キャンプサイトをパトロールした我々の印象としては、大半の人がしっかりとテントを張り、豪雨をしのいだのだと認識している。
7月28日21:33。キャンプエリア内の一番ベースにあるキャンプよろず相談所の裏。早い段階で最底辺のテントは移動させ、常に水量の動向は気にしていたのだが、排水溝のオーバーフローにより突然の水の噴出。あっという間に、想像以上の高さまで水が押し寄せテントが水没していった。
SNSのまとめサイトや報道で拡散された「テント水没」の写真は、実はキャンプよろず相談所裏のスタッフと関係者が張っていたエリアなのだ。冠水の可能性が高いからこそ一般には解放していない。実際、私たちのテントエリアには一気に増水して泥水が押し寄せた。深いところでは腰の高さまで水位が上がった。しかし、お客さんのテントエリアまでは至らなかったのだ。ヒドい場所の写真だけが取り上げられ、フジロック全体が悪いように報道されるのが悲しかった。
確かに、キャンプサイトの一部の場所では水の通り道になった場所もあったし、窪地では水も溜まっていた。ピラミッドガーデン のエリアでも水が入ったテントがあったと聞いた。しかし件の写真ようなテントの半分まで水没するような箇所はなかったのだ。
一部の人が面白がって投稿したよろず裏の数枚の写真が、現場に来てもいない人たちによって拡散され「フジロック最悪」「難民続出」とか「行かなくてよかった」だのでリツイートされ、あたかもフジロックのキャンプサイト全体が難民キャンプ扱いのように広まったのだ。報道が必ずしも真実を伝えていないということを改めて実感した。
7月28日22:13。キャンプサイトをパトロール中に見つけた倒壊テント。風ではなく、溜まった水の重みで倒壊している。テントがピンと張られていればこのように水が溜まることはない。
7月28日22:22。ほとんどのテントがしっかり立っている。「何人かに大丈夫ですか?」と声をかけたところ「テントの中にさえいれば大丈夫」と頼もしい声が。
SNSには「安全管理はどうなっているんだ?」「中止にしろ」などの声もあったが、これもまた現場を知らない少数の声だ。運営本部を含め、全ての部署が安全に気を配り、危険な箇所をチェックし、アナウンスもした。危険な箇所は入場が規制され、一部のコンテンツは中止になったし、出店ブースがクローズしたところもあったが、安全が担保できるコンテンツはできる限り開演された。困った人たちをどう助けるかを協議し、キャンプサイトでは我々もそれらに対応した。会場にいたオーディエンスの中に「フジロック自体を中止にしてほしい」と望んでいた人がどれだけいただろうか? むしろ「明日も無事開催されますように」と望んでいた人の方が圧倒的に多かったはずだ。
昨年の強風ではテントが倒壊して行き場を失った人がいた。今回は風の影響はほとんどなく、風によるテントの倒壊はほぼ皆無。それでも、浸水や豪雨の中テントで寝ることに不安を感じた人たちもいた。昨年同様に本部とプリンスホテルの配慮により、ホテル内の施設が一時休憩所として確保され、困った人たちをそちらへと誘導した。キャンプサイトに宿泊していた人たちが約2万人。休憩所に避難した人は約300人。わずか約1.5%だ。もちろんその方々を見捨てることはしない。そのために我々キャンプよろず相談所が困った人たちに寄り添っている。
ある女性と月曜日に立ち話をしたときに
「テントの中に雨漏りの水が溜まったんですけど、コップで掻きだしました。でもここまでくると開き直っちゃって。寝袋湿ってても、眠れるもんだなぁって、身をもって実感しました」と土曜日の夜の話をしてくれた。
フジロッカーの大半は、ポジティブで、タフで、優秀なのだ。そのことを現場にいたひとりとして強く訴えたい。
7月29日08:20。豪雨を凌ぎ切った翌朝。元気にラジオ体操に参加してくれたキャンプサイトのみなさん。