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朝霧高原「ふもとっぱら」は、なぜキャンパーの聖地となったのか!?
2019.09.21 Sat
滝沢守生(タキザー) よろず編集制作請負
朝霧JAMのオートキャンプサイトとしてだけでなく、シーズンを問わず、毎週のように、全国から多くの人を迎えている「ふもとっぱら」は、富士山の迫力ある景観を心ゆくまで楽しむことのできるキャンプ場だ。いまやキャンパーのあいだでは「聖地」とまで言われている、この場所のことを、果たしてどれだけの人が知っているだろうか? 朝霧JAMを間近に控えた「ふもとっぱら」が、これまで歩んできた歴史をひも解いてみよう。
まだ原野の残る昭和初期の朝霧高原。
「ふもとっぱら」とは、この集落の地区名である麓(ふもと)と広大な草原を表す原っぱをかけて名付けたキャンプ場の名称である。もともと、麓という地名は、戦国時代から散見され、背後にそびえる毛無山地で金が採掘されていたことから、古くから麓金山と呼ばれていた。金山は近世初頭には廃坑になったが、麓という地名は残っており、この金山の経営に深く関わりのあった竹川家が、いまもこの一帯の山々を所有し、「ふもとっぱら」もその一部である。
「ふもとっぱら」のある富士山の西側、朝霧高原一帯は、古くは源 頼朝が、巻狩りを行なった地としても知られ、広大な原野が広がっていた。その原野に1932年(昭和7)、造成のクワを入れたのが、現在も「ふもとっぱら」に隣接する東京農大だった。満州の開拓が叫ばれた当時、標高837mに位置するこの一帯で寒冷地の農作業を体験実習させる、富士修練農場と称する実験農場が拓かれた。しかし、火山特有の岩石が多く、強い酸性土壌は、一般作物の生産には向かなかった。
ふもとっぱらの代表、竹川将樹さんは、じつは今川時代から金山奉行を務めた家系のご子孫である。この茅葺の立派な門は金山奉行所の跡といわれている。もとっぱらのある麓集落は、かつて金山経営で大いに賑わった場所。いまは、まほろばという宿泊施設になっている建物は、明治期に創設されたかつての小学校跡。
戦時の空襲で渋谷・常盤松の農大校舎が焼失した際には、学生たちが身を寄せたり、軍用グライダーの試験滑空場としても利用されたりと、戦後20余年間、そのままの状態だったが、67年から畜産学科を中心とする畜産実習を行なう農大富士農場として、農大にその一部分が貸与されていた。
それから40年近くが過ぎようとする2004年、農大から借地部分が返還され、毛無山の多様な森林と、富士山を望む美しい景観に恵まれた広大なキャンプ場をベースとした体験型宿泊施設「ふもとっぱら」として、新たな歩みを始めた。
時を同じくして、フジロックの公式フリーマガジン『フェスエコ』が刊行されたのが、ちょうど2004年。現在のように、野外フェスティバルが、アウトドアの重要なコンテンツとしてマーケットになる以前の話である。90年代のファミリーキャンプブームが去り、アウトドア業界も新たなマーケットとして、野外フェスティバルに注目した。アウトドアとロックは、そもそも異母兄弟のようなカルチャーだったので親和性は高く、フジロックを筆頭に、朝霧JAMをはじめとした本格的な野外イベントが、ムーブメントの牽引車となった。野外フェスがユースカルチャーに向けてアウトドアを今日のようにファッションにまで昇華させ、キャンプブームが活性化したのである。
いまや、さまざまなCMロケ地として使われているが、農大から返還されたあと、最初にロケを行なったのは、『フェスエコ』だった!
そのなかで、「ふもとっぱら」の果たした役割と存在は、とても大きく、日本ではかなり貴重な場所であった。日本を代表するランドスケープと圧倒的な収容能力、さらには、降雪も少なく安定した天候と通年の稼働力、そして、東西両都市圏にも近いロケーションなど、全国的な規模のイベントを開催するための条件がここまで整った土地は、全国津々浦々を探しても、他にはないだろう。
なかでも、特筆に値するのが、前述したように、この広大な場所は、先祖代々、竹川家が所有する私有地であるということ。日本の国土の7割を占めるという山岳地や森林は、小規模の地権者が複雑に絡みあい、何かイベントを行なうにしても、許認可の届けが煩雑で、すべてに了解を得ることはむずかしい。とくに日本の場合は地権者の管理責任が重く、人が多く集まり、不測の事態が起こりうるアウトドア・アクティビティの場として利用することに及び腰の地権者が多く、荒廃した登山道の整備や新たなトレイルの整備や利用促進などが進まないのも、そのためである。しかし、現在の事業継承者でもある、株式会社ふもとっぱら社長の竹川将樹氏は、農大に学び、これまでの木材生産の場としての林業と、キャンプ場やアウトドア体験施設を統合した、森林資源の総合活用サービスを柱にした、新しい林業経営に未来を見据えている。
「キャンプの聖地」と言われるまでになったいまの「ふもとっぱら」。週末ともなると所せましと、色とりどりのテントの花が咲き乱れる。
地域の振興と林業の振興のため、「ふもとっぱら」という場を提供し、多くの人々の財産になるよう、竹川氏がこれまで数々の英断を下してきた結果、「ふもとっぱら」は、キャンパーの聖地と呼ばれるようになったのである。かくいう朝霧JAMだけではなく、2009年から毎年、春と秋には、アウトドアファッション誌『GO OUT』によるキャンプインフェスも開催、毎回1万人近い、おしゃれキャンパーたちが全国から集まってくる。そして、2015年には「長渕 剛10万人オールナイトライブ」も開催、また、最近ではアニメ『ゆるキャン』の舞台ともなり、ある意味、「ふもとっぱら」の聖地化は加速した。
ふもとっぱらが管理する森林面積はおよそ719ha、草原キャンプ場だけでも、東京ドームの12倍の面積を誇る。2018年度の来場者は、イベントを除き、一般来場者だけでもおよそ20万人! 草原だけでなくMTBやSEGWAYなどのコースとして、森林内の作業路も活用し、アウトドアレジャーのほかにも、修学旅行や企業研修会など、さまざまな自然体験活動の場として山を開放している。そうして多くの人々に向け、山や森が近くにある希望ある未来の可能性を、ここから発信し続けているのだ。