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フジロックフェスティバル’20 開催延期発表の真実。 ここから、みんなでもっと楽しい場所を作っていこうぜ!
2020.06.05 Fri
滝沢守生(タキザー) よろず編集制作請負
2020年6月5日(金)午前11時、フジロックフェスティバル’20の開催延期が発表された。全世界の人々の多大なる努力と叡智をもってしても、いまだ新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大を終息させることができないなか、日本国民と世界各国から訪れる来場者の幸福を最優先に、アーティストをはじめとしたフジロックの開催に携わるすべての人々の安全と健康を考慮した末の最善の判断であり、苦渋の決断でもあったことだろう。
フジロックフェスティバルの開催が順延されたのは、開催初年度、いまや伝説ともなった97年の2日目、台風の直撃による中止以来2回目のこと。そのときのことをSMASHの代表、日高正博はフジロック開催20年目のインタビュー(『FESTIVAL ECHO16』に収録)のなかで、こう振り返っている。
「二日目を中止するという判断は、もっとも簡単な方法なんだ。それしか道はないとしても、ダメだから諦めます、というだけじゃ、やった意味も残せないし、そこから何も学べない。これからもフェスを続けるためにはどんな道筋があるのか、そのために全力を尽くしたかどうか。朝4時くらいに撤退と決めた時に、スタッフのみんなが非常に悔しそうな表情をしていた。その光景をよく覚えていて、みんなが悔しがったことが俺はうれしかった。次につながると思った」
というように、今回の発表も、ここに至るまで、開催に関わるどれだけの人と、どれだけ議論と検討を重ね、開催の可能性を探ってきたか、その労苦をうかがい知ることができるだろう。そして、ここから得られる学びの大きさもまた計り知れない。
国内で予定されていた野外フェスの延期や中止が次々と発表されるなか、フジロックの動向と沈黙は、音楽業界だけでなく、アウトドア産業界をはじめ、海外からも注目されていた。その沈黙すら、来場者といっしょに考え、作り上げるフェスティバルであるフジロックからのメッセージでもあったのだ。
今年は8月21日から23日までの予定で、新潟県苗場スキー場で開催される予定だったが、緊急事態宣言が解除されたとはいえ、夏を目前に控えた現時点においても、諸外国の渡航禁止、対象地域の拡大など、厳しい制限措置はいまだに解除されていない。地域とともに、アーティストと来場者が、これまでいっしょになって作り上げてきたフジロック。夏になったら、まるで故郷にでも帰るような感覚で、地元のお祭りの担い手のひとりとして、毎年、参加を続けてきた人も多いことだろう。
フジロックフェスティバルは、そのような人と場所のつながりにより、人間性の回復が感じられる、多様性に満ちた大切な「場」でもあったのだ。苗場の緑豊かな山々の稜線の向こうから湧き上がる夏雲、会場を流れる清流と高原の爽やかな風、それら自然の豊かさは、ときに自然の厳しさとなり、世代や性別、人種、国境を超えて、その場所では、だれもが平等に自然の洗礼を受け、感動を分かち合ってきた。
キャンプサイトひとつとっても、天国と地獄を平等に味わえるのもフジロックの魅力
COVID-19の感染拡大を防止するために、世界が一丸となってソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)を保つ努力を続けるなか、ウイルスの不安や恐怖が、偏見や差別、対立などの分断を招き、世界が悲しい事件や困難に直面していることも事実だ。自然や地域とのつながりを感じ、民族や文化の多様性に満ちたフジロックは、お互いの存在や関係を見直すきっかけともなる場所でもあったのだ。それがフェスティバルというものなのかもしれない。
だからこそ、今、自分たちひとりひとりができることは何なのかを考え、次回のフジロックをこれから、みんなで作り上げて行けばいい。そういう意味でも、今日からが本当のスタートになる。回数を重ねることではなく、次は何ができるか、そんな人の思いとつながりで成り立っていくのがフジロックなのだから。
(写真=宇宙大使スター、sumi☆photo)