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自分たちの歩く道は、自分たちの手で作る!フジロックの森、 ボードウォークキャンプに参加してきました
2021.07.12 Mon
河津慶祐 アウトドアライター、編集者
フジロックの会場内には全長約2キロにもなる、だれでも森の中を歩くことができる「インディペンデンス・ボードウォーク」という木道がある。この木道は重機をいっさい使わず、地元の有志やフジロッカーたちの手だけでコツコツとつくりあげ、グリーンステージからはじまって、ホワイトやヘブンを抜け、最奥のエリアまでつながっている。途中には木道亭と呼ばれるステージがあったり、アートの展示や、幻想的なインスタレーションも施され、参加者は必ず歩いているはずだ。
毎年、当たり前のように歩いているこのボードウォークだが、苗場は日本でも有数の豪雪地帯でもあり、定期的なメンテナンスをしなければ、安心して安全に歩くことはできない。そこで、開催の前にボランティアを募り、ボードウォークの点検とメンテナンスのために、毎年開催されているのがボードウォークキャンプだ。参加費は無料、誰もいないグリーンステージやオアシスなどでキャンプをすることもできる。
「FUJI ROCK FESTIVAL ’21」を2ヶ月半後に控えた6月3日(土)、フジロックの会場で「ボードウォーク・ボランティアキャンプ -Boardwalk Don’t Run Vol.66-」が開催された。
2002年から地元の有志やボランティアにより整備が始まり、現在は、会場内の森に親しみ、森を利用することで、森の保全にもつながる「フジロックの森プロジェクト」の一環として行なわれている。フジロックを愛するオーディエンスをはじめ、過去には来日アーティストまでが参加、古くなったボードウォークの撤去や敷板の張り替え、廃材の処理などを行なう。
「フジロックの森プロジェクト」は主催のSMASHと会場がある苗場、湯沢町、そして新潟県の三者が協定を結び活動している。
昨年はコロナ禍により、開催することができなかったが、今回は感染症対策を徹底し、事前申し込みの上、人数を制限しての開催となった。
朝9時半、オアシスにある苗場食堂の前で開会式がはじまった。フジロックの森プロジェクト実行委員会の委員長である佐藤高之さんや主催の挨拶のあと、作業の説明が伝えられる。
行なう作業は大きく分けて5つ。
・木道となる木材を作業箇所へ運搬
・ボードウォークへ新しい敷板の設置
・廃材の釘抜き
・廃材の整理
・ボードウォークの清掃
開会式が終わると参加者たちは、それぞれ各所に分かれて作業に取りかかる。
「FUJI ROCKERS FOREST」のロゴが入ったツナギを着る常連の姿や、ファミリー、カップルなどさまざまな参加者。話を聞くと、古くからフジロックに参加している人もいれば、今年はじめてフジロックに参加する予定の人まで、参加者は50人ほど。共通するのは 今年はなんとか開催してほしいという願いだろうか。
1日での開催ではあるが、前泊や後泊してキャンプを楽しむことができた。
フジロックは3日間で12万人もの人がボードウォークを歩く。そのため、朽ちはじめて踏み抜く危険のある木道は、新しいものに取り替え、当日に向け万全な状態に整えなければならない。
「フジロックの森プロジェクト」は年に4回ほどボードウォークキャンプを実施。フジロックを愛するボランティアたちとともにボードウォークの整備にあたっている。
グリーンステージの広場を抜けボードウォークをめざす。フジロック中の熱気はなく、静かで豊かな自然が広がっている。
今回、整備したのはグリーンステージからボードウォークに入り、浅貝川にかかる「みどり橋」を渡った少し先の箇所まで。ちょうどミズバショウの群生地へ向かう分岐点のあたりだ。ところ天国の橋のそばに積まれている材木を整備箇所まで運び、設置していく。
ボードウォークの案内マップ。じつはこれ、フジロックのマスコットキャラ「ゴンちゃん」の生息地(?)にもなっている。
みどり橋は雪によって毎年新しい丸太の仮設橋にしていた。昨年秋、仮設の橋から、頑丈な常設なものに架け替えた。
クラウドファンディングで、みどり橋設置の資金を出資した人の名が刻まれた看板。橋のそばに建てられている。
「フジロックの森プロジェクト」のメンバーがイベントの数日前から作業に入っていたのだという。整備箇所は古くなった木材が取り除かれ、新しい根太(ねだ)が敷かれている。敷板を剥がされ、その下の地面が見えているさまは新鮮だった。フジロックに来ているだけでは見ることのできない光景だろう。
木道の土台となる根太は新しいもの。端に積まれているのが廃材となる古い木道だ。
力のある男性は台車で一気に運んでしまう。
女性だってこの通り。200〜300mの距離を、軽くはない木材をかついでいく。
運んだ木材は根太の上に。このあと釘を打って敷設していく。
今年、はじめてフジロックに参加する予定の女性。まずはボードウォークキャンプから、とイベントに応募したという。
老若男女の参加者が集まり作業を行なっているなか、とくに目を引いたのは子どもたちだった。「大人の男性に」とアナウンスされた木材の運搬にも積極的に参加。大人たちが真剣に作業する姿を見て、子どもたちも感化されたのだろう。これもフジロックのもつ魅力のひとつかもしれない。
通行しやすくなるよう、ボードウォークの落ち葉や枝を払い落としていく。
フジロックを支える一員になろうと、小さな子どもも作業に励む。
敷板に打ち付けられたままの釘を、裏からカナヅチで叩いて抜いていく。
ボードウォークキャンプで作業中に仲よくなったという姉妹と男の子。
昼食は苗場スキー場の周辺で採れたネマガリダケを使ったタケノコご飯に舌鼓をうつ。
午後も作業は続くが、並行して希望者は、自然共生や生物多様性に向けた活動を行なっているオカムラによる自然観察のワークショップに参加。講師はインタープリターの川崎きみおさん。ボードウォークの整備だけではなく、フジロックの森の生物の多様性を知るいい機会と、参加者の大半が、このワークショップに参加していた。
「この木はミズナラだね」「それはハナアブ。刺さないから大丈夫だよ」そんな解説をしながら双眼鏡を片手にグリーンステージまで歩いていく。タカなどの猛禽類を探すのだという。広場に到着し、空を見上げていると、参加者のひとりが「いた!」と声を上げた。すぐに川崎さんは双眼鏡で指差すほうを覗く。すると「あれはノスリだね。足にヘビを捕まえているよ」と説明をしてくれた。
次に「めずらしいものが見れるよ」とミズバショウエリアに移動する。ここではクマ棚や、木に登ったときのクマの爪痕、キツツキがつついた跡などを発見!
自然に触れる機会はあっても、解説をしてもらうことは少ない。子どもだけではなく、大人までもが童心に返り、フジロックの森を満喫したワークショップとなった。
まずは、さまざまな鳥の羽を観察する。子どもが持っているのは、クマタカの羽。高価な矢羽根になると教えてくれた。
ノスリを発見し、みんなで観察する。
「この木の実はクマの大好物なんです」。ウワミズザクラに登ったクマの爪跡が見えるだろうか。
表皮が剥がれ、たくさんの穴が空いた木。聞けばキツツキがつついた跡だという。
自然観察をする人間を「観察」しにきたのだろうか?
フジロックの森プロジェクト実行委員会・委員長であり、苗場観光協会・協会長の佐藤高之さんに話を聞いてみた。
フジロックの森プロジェクト実行委員会・委員長であり、苗場観光協会・協会長の佐藤高之さん。
── 「フジロックの森プロジェクト」について教えてください。
きっかけはボードウォークの維持のためにはじまりました。SMASHの日高さんがいろいろと苦慮してくださって、新潟県と湯沢町とSMASHで「フジロックの森プロジェクト推進協議会」を設立しました。そして「フジロックの森プロジェクト実行委員会」をつくり、この「ボードウォークキャンプ」を含む、さまざまな活動を行なっています。設立から10年が経ちました。調印は3年ごと、ボードウォークの敷板を使ったプレートに署名してもらうんですよ。
── ボードウォークをつくりはじめたのは2002年からと聞きましたが?
全国にあるボードウォークを整備する詳しい人に教わりながら、まず構造をつくり、敷板を1枚1,000円というかたちでフジロックで寄付を募りました。そのとき、フジロックとしても敷板を大量に購入していただき、かなり距離を伸ばせましたね。その長くなったボードウォークの維持を目的とした流れが、「フジロックの森プロジェクト」や、この「ボードウォークキャンプ」につながっているんです。ちなみに、ボードウォークキャンプは協定を結ぶ前から行なっていて、日高さんがボランティアでキャンプやろうというところからはじまりました。フジロックの3年目の年くらいだったかな? そのとき川原でキャンプしたのですが、そのときのメンバーが「ところ天国」の初期メンバーなんですよ。
── 前回のフジロックのときから、ボードウォークにある「みどり橋」が変わりましたが?
去年秋にやっと、仮設のみどり橋から、通年使える自然災害にも強い安全な橋に変えることができました。最初、資金をどうやって集めようかと考えていたら、日高さんにBOOSTERというクラウドファウンディングを教えてもらい、目標金額以上の1200万円くらいが集まりました。
──「FUJI ROCK FESTIVAL ’21」については、どのように思いますか?
コロナ禍の影響もあって去年、フジロックが開催できなかったのはとても残念でした。今年はなんとかして開催してほしいと思っています。観光協会としても経済的に大きいのもありますね。いちばんは気持ちでしょうか。ずっとフジロックをやってきているので、ないとヘンな感じというか……。祭りをやらない感じです。フジロックの森プロジェクトも、ボードウォークキャンプも、フジロックを継続していくために行なっている意味もありますしね。開催すると忙しくて大変なんですが、ないと寂しいかな。
── 今後「フジロックの森」ではどのようなことをやっていくのですか?
地元の住人で、ライフワークとして毎日のようにボードウォークを歩いている人もいるんです。その方たちのためにも保全は行なっていきます。利用者がケガをしないようにしてもらいたいので、保全がいちばん大事ではないでしょうか。それにプラスして観光要素を足していきたいと思っていて。今回のような自然観察ワークショップですね。今年の春からはガイド事業もやりたいなと、今回一緒に歩いてみて、どんな花が咲いているとか勉強させてもらいました。苗場スキー場も歩いて登ってチェックしましたよ。
フジロックの森に行くならと、この日はKEENのトレッキングシューズ、フジロックモデル「TARGHEE EXP MID “SP” WP」を履いていった。トレッキングシューズなので濡れた木道でも滑りにくく、かつ防水なので草の朝露にも強い。フェスのような長距離を歩くシチュエーションには、スニーカーよりもトレッキングシューズのほうが足が疲れにくくオススメ。
すべての作業が終了すると、手伝った証として「ボードウォークペイント」ができる。このために参加したという人も少なくないだろう。画材を持参すれば、自分たちで設置した敷板に好きなメッセージやイラストを書くことができるのだ!
「FUJI ROCK FESTIVAL ’21」は、8月20日(金)〜22日(日)に開催される。ぜひ参加して、これらのペイントをぜひ探しにいってほしい!! そこは、フジロックを愛する大人から子どもまで、みんなの力を合わせてつくり上げた道なのだ。