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【FUJI ROCK FESTIVAL’23 GENRE DIAGRAM】傾向と対策はこれで完璧。 音楽ジャンルがひと目でわかるフジロック出演アーティストの音楽位置。
2023.06.20 Tue
音楽のジャンルは細分化され、しかもクロスオーバー&ボーダーレス化している。様々なジャンルがアーティストたちにも内包している。それがもしかしたら音楽の「フェス化」なのかもしれない。
「今年の出演アーティストをジャンルで可視化して欲しい」というお題が来た時に「ずいぶん無理難題を…」というのが正直な感想だった。
10年近く前からフジロックのバラエティに富んだラインナップを紹介する際に「ジャンルという概念が決壊しつつある」と繰り返して言ってきたし、コロナ禍を抜け、海外アーティストの本格招聘が可能となった「2023年のフェスカルチャーの現在地」は、ますます従来のジャンルでは語り尽くせないものとなっている。
とはいえ「今年のフジロックはどんな風に3日間楽しめばいいだろう?」「どんなジャンルが楽しめ、どのような新たな発見があるのだろう?」と考えている人たちの疑問に応えるべくフェスエコ編集部と相談しながら作成したのがこのダイアグラムだ。
制作中に壁としてぶち当った問題として顕著だったのが「昨今のシンガーソングライターの定義」。クラシック・ロック/ポップスのファンがイメージするものとは完全にかけ離れてしまい、その範囲は自作自演で個人名義、もしくはプロジェクト名義のアーティストたちで、音楽はオールジャンルに及ぶ。そこはアーティストの核となるジャンルになるべく寄せる形で可視化してみた。
なかにはアンビエントもロックもR&Bも内包した作品を生み出している全方位型のアーティストも少なくない。このダイアグラムもひとつの提案であり明確な答えではないと自分たちで理解しつつも、フェスを楽しむナビゲーション・ツールとして楽しんでもらえれば幸いだ。
ジャンル配分解説
Alt-Rock(Alternative Rock)
誤解を恐れず言うと、フジロックも含めここ30年の音楽フェスはオルタナティブ・ロックが牽引してきたと思う。メインストリームの商業的な音楽のカウンターとしての「オルタナティブ=代替」という本来の意味合いは薄れたが、ヨ・ラ・テンゴや坂本慎太郎のように黎明期からその精神性を脈々と表現してきたレジェンドでありグランジのアイコン=ニルヴァーナが起源のフー・ファイターズ、よりメジャー化したシーンを代表するウィーザーやアラニス・モリセット、00年代のインディ/ガレージ+ポスト・パンクの文脈から出てきたザ・ストロークスなども含まれる。
Shoegazed/Dream Pop
シューゲイザーとドリームポップはオルタナティヴ・ロックのサブジャンルとして2020年代に入り益々拡張しつつある。ディストーションやリバーブなどエフェクターを駆使したギター・サウンドがインスピレーションの源となっているシューゲイザーと浮遊感があるソフトロック&サイケデリックポップ。オリジネーターのスロウダイヴを筆頭に、羊文学や、オルタナティブ/ガレージロックとシューゲイザーの間に位置するドミコなど、日本のロックカルチャーのなかで醸成されたグループ。そして今年の目玉のひとつに挙げたイヴ・トゥモアのようなアンビエントという斜めから転向を遂げた異型にまで及ぶ。クローゼットでスマホ1台で録音しTikTokでブレイクしたd4vdのようにドリームポップの解釈はより広範囲に及ぶ。
J-ROCK/Rock'n Roll、J-POP
コロナ渦で海外アーティストの供給が途切れ、様々な成約があるなかで行われたフェスやイベントで、日本の音楽を再発見した人も少なくないと思う。個人的には洋楽/邦楽という旧来の分類法の形骸化を年々肌で感じつつも、矢沢永吉やスターダストレビュー、YUKIといったアーティストたちのオリジナリティを1枚のダイアグラムに配置する際に、日本の音楽シーンという特異性を無視できなかった。
City Pop/Future Funk
動画サイトやサブスクの普及により、AORやディスコ、ファンクなど、様々な音楽が次々と掘り起こされるなかで、丁寧で質の高い日本のポップスが世界的に発見されたのは必然のようにも感じる。シティ・ポップ的な音楽は、一過性のブームではなく過去30年間も浮き沈みは有りつつも日本で作られ続けてきたし、ヤング・ベーやジンジャー・ルートのようにサンプリングネタとして使う派生ジャンルのフューチャーファンクなど世界に広がりつつある。
Avant/Hardcore/Punk
ポスト・パンク/ハードコア、ノイズなどオルタナティブ・ロックに分類するにはエッジなバンドを主にこのゾーンに集約した。複雑なリズムや転調、不協音など全方位的な表現を追求するブラック・ミディのようなバンド(ジャンル的にはアヴァン・プログに該当する)やGEZANなども前衛的で攻めた音楽という解釈となった。
SSW
今回のダイアグラム最大の課題が「世の中にシンガー・ソングライター多すぎ問題」。取り敢えずソロ・アーティストで作詞、作曲をする人は取り敢えず「SSW」というカテゴライズに押し込められるのが2020年の現実で、サブスクを開いて再生してみないとどんな音楽をやってるのか理解不能なのである。クラシック・ロックの愛好者の考えるSSW=独演歌手でフォークっぽいヤツみたいな感覚は、個人的肌感では15年くらい前を境にどんどん薄まっていったように感じる。ひとつの指標としてGラヴやドノヴァン・フランケンレイターのようなルーツ寄りの人と、アウスゲイルやルイス・キャパルディのようなメロディメイカーなどを選んだ。
Dance/Pop、R&B/Hiphop、Electro/Ambient
リゾのようにポップフィールドとR&Bやラップの境界が曖昧なアーティストと、ノー・ウォーリーズ、ダニエル・シーザーやデンゼル・カリーなど明確に活躍するシーンが特定できるアーティストは差別化を図り、上に行くほどエレクトロに近く、左に行けば行くほど電子音楽および実験性が高いサウンドというイメージ。なおシンガーソングライターでダンス/R&B志向の高いアーティストもダンス/ポップにカテゴライズした。
World Afrobeat、Funk-JAZZ
フジロックのファンは「旧オレンジコートやフィード・オブ・ヘブンでやってそうな音楽」で通じるかと。ワールドミュージックの持つ「非西欧諸国のポピュラー音楽」という定義も形骸化しつつあるが、ジャズやファンク、即興演奏などを得意とするライブバンドが多い。現世最強のミニマルファンク・バンドのヴルフペックのギタリスト、コリー・ウォンやルイス・コールなど最高峰のライブパフォーマンスを楽しめるだろう。なおストリートピアノのスター、菊池亮太 & ござもライブ・ミュージックという観点からこちらに配置した。
Text = Hideki Hayasaka
Construction = Hideki Hayasaka、 Fes Echo editorial staff
Photo = 宇宙大使☆スター
●『FESTIVAL ECHO』 配布場所 各地で予定されている FUJI ROCK DAYS 開催会場(渋谷/大阪/京都)、岩盤、TOWER RECORDS、KEEN、CHUMS、LOGOS、OSHMAN’S、アルペンアウトドアーズ、WILD-1など販売店 ※一部店舗を除く/随時配布