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「レストランの味をトレイルでも」人気の携行食ザ・スモールツイストとは?
2019.06.24 Mon
山歩きの楽しみのひとつ、「食」。これを読んでいるあなたは、フィールドでなにを食べているだろう? 定番の鍋? レトルトを温めてる? それとも調理はしない派? 外での食事はちょっとした特別感がありながらも、普段と同じものが食べたい……と思うこともしばしば。普段と変わらない食事、しかも簡単でおいしいもの。そんな思いから誕生したトレイルフードが「ザ・スモールツイスト」だ。
「これは自分で作るんだよ」
ジョンミューアトレイルでの衝撃
山梨県小淵沢インターチェンジからほど近い場所にあるレストラン「DILL eat,life.」。旬な選りすぐりの食材を使った料理が評判だ。緑に囲まれた山小屋風の店の脇には小川が流れ、遠くではカッコウが鳴いている。この店を営むのは山戸浩介さんとユカさん夫妻。春から秋にかけては登山やクライミング、雪が降ればパウダーを求める根っからの野遊び夫婦でもある。
ふたりは7年前にアメリカのジョンミューアトレイル340kmを21日間歩いた。ウルトラライトな人びとを横目に、「毎日おいしいものが食べたい」と綿密な食糧計画を立てて大きなバックパックを背負って歩いたという(このときの詳細はこちらから→「DILL流 21日間で340kmを歩いたロングトレイルでの食事情」)。
あるとき、キャンプ指定地で一緒になったアメリカ人男性の食事に目が留まった。
ユカさん「おせんべいみたいなシート状のものを鍋でグツグツ煮ていたから不思議でした。食べさせてもらったら、イモ! マッシュポテトみたいなもので。どこで売っているのか? とたずねると、自分で作ったんだと。そのとき初めてディハイドレーターについて知りました」(→米国ロングトレイルで知った「ディハイドレーター」なるマシンとは?)
ディハイドレーターとは食品乾燥機のことで、日本の家電量販店などでも販売しており、数千円から数万円のものまである。
ユカさん「これならば、自分たちが家で作ったカレーやスープを持って行けると思いました。乾燥させてお湯で戻せば食べられる。コレは凄い!と。普段から添加物が入っているものはあまり口にしないので、山に行く時だけ添加物入りの加工食を食べるのもなんだかなぁと。なによりいつもと同じ、おいしい食事を食べられる!と思ったんです」
しかし、ちょうどジョンミューアトレイルを歩き終えて帰国したときは、DILLの開店準備まっただ中。追求して作ることはできなかったという。それでも店営業の合間をみては試作品を作って、自分たちで食べたり、クライミング遠征やコロラド川をカヤックで下りにいくという仲間たちに渡したりしてフィードバックをもらっていた。
じつに構想6年……
そんなにかかった理由は、山と雪??
ジョンミューアトレイルを歩いてから数年が過ぎていたが、ディハイドレーターを使って作る携行食のことはずっと頭のなかにあったという。
店の休業は週に2日。その休みをみっちり使えば、もっと早く商品化はできたのかもしれない。だがしかし、ここは八ヶ岳の山麓だ。甲斐駒をのぞみ、車で1時間も走れば小川山(クライミングゲレンデ)があり、冬は雪が積もる。休日にどっぷり自然に浸かりたい山戸夫妻にとって、その自然環境を無視することはできないのだった。
ユカさん「ずっとやりたかったけど、なかなかできなかった。休みを全部つぎ込むなんて……できない! それで一昨年くらいにこのまま私たち夫婦ふたりだけだと一生実現しないかも(笑)と思って、まゆこさんに一緒にやらないか?って声をかけて本格的に始まったんです」
友人で工作家のしみずまゆこさんが東京から長野県上田市に引っ越してきたのは数年前。山戸夫妻とは旧知の仲だ。飲むたびに「あれ(ディハイドレーター食)やりたいんだよね〜」と、こぼしていたのもよく知っている。
まゆこさん「上田に引っ越してきた当初は、まだ東京との行き来が頻繁にありました。東京に拠点がなかったので、自炊できず外食ばかりになって体調もいまいちで……。ああ、やっぱり食って大事だなぁと実感していたんです。山でもおいしくて栄養があるものが食べられるのはすごくいい!と思いました」
そして、昨年の2018年7月に九州で開催された「ハッピーハイカーズ」というイベントでユカさんがゲストスピーカーに呼ばれたこともあり、そこでの試作販売を決意! 本腰を入れて動き出した。
なぜ6年もかかったのか? そこに魅力的な山と雪があったから……。なんとも山戸夫妻らしい答えなのだった。
イベント用に作った100食はあっという間に完売。
浩介さん「リアルに山を歩いている人たちが集まっていて、そこでの反応はとてもよかったです。なによりやる気が出ました」
手応えを感じ、昨年9月から店の中でいよいよ販売を始めた。初めはミートソース、カレー、ミネストローネの3種という、誰もが馴染みのある味からスタート。
え!これしか入ってないの?
少数精鋭の原材料たち
行動中の食事ということでは私たちにとってフリーズドライ食品も馴染みがある。ディハイドレーターもフリーズドライもお湯や水で食品を簡単に元に戻せるものだ。
ディハイドレーターは温風で水分を蒸発させ食材を乾燥させている。一方、フリーズドライは食材を凍結させ真空状態にし水分を昇華させ乾燥させている。
加工方法としてディハイドレーターを選んだ理由については、「家庭で作れる手軽さ」というのが一番の理由だ。フリーズドライは特殊な機械が必要で工場などに頼まなくてはならない。その点、ディハイドレーターは試作品もキッチンで手軽に作れる。なにより小ロットで手作りする規模に合っているという。
ザ・スモールツイストの原材料は、家庭で作るようなラインアップでかなりシンプルだ。例えば、ミートソース。
フジリ(パスタ)、玉ねぎ、ひき肉(牛豚)、にんじん、ホールトマト、セロリ、にんにく、赤ワイン、ケチャップ、ウスターソース、醤油、塩、ハーブ、スパイス。
これに季節のローカル野菜がゲストとして追加される。パッケージ表面の丸いシールに手書きされた食材がゲスト野菜。
ザ・スモールツイストの食材は、基本的には店で出しているものと同じ。できれば地元産の旬なものを多く使いたいが、(ザ・スモールツイストを)生産できる時季が限られてしまうことがあるので、県外産のものを使うことも。産地はどこであってもおいしくて、なるべく減農薬やオーガニックのものを厳選している。
素材だけで味がしっかり出る、それはひとつひとつの素材がおいしいからこそ。野菜をちゃんと作っている農家のものは、おいしいという。なにより素材ありきなのだ。そこに、料理研究家であり「DILL eat,life.」のオーナーシェフであるユカさんの「ひと手間(スモールツイスト)」が加えられる。
ザ・スモールツイストは、個々の食材を調理して乾燥させている。調理している、そこが特長だ。多くは素材そのままを乾燥させてパッケージされている。
ユカさん「塩ひとつとってみても、そのまま舐めた塩と煮込まれた塩って違うんです。ほかの素材と結び付くことで合わさったときに塩味が変わる。角が取れて全体をまとめるバランスが良くなるんです。素材が馴染んでおいしさになっていくんです」
個々だった素材が絡み合って、旨味や香りが生まれるのが本来の食事。
安価に売られている加工食品は、そうした旨味や香りを化学調味料で補っている。われわれは、ちょっとそのフェイクな味に慣れすぎているかも?
おいしい!早い!
むしろ失敗するほうが難しい?
ユカさん曰く、これまでさまざまなレシピを世に出してきたが、家で料理をしない(できない)人にとっては自分のレシピはなかなか作れないと話す。
ユカさん「私自身は調理が好き。だけど、料理をしない人にとってはわざわざ食材を持ってフィールドに出かけるって……ないかもしれない。でも、そういう人もおいしいものは食べたいんですよね。旦那がいい例で(笑)」
浩介さんは、普段料理はしない人なのだとか。
浩介さん「ある意味自分自身のために(笑)、ザ・スモールツイストはあるのかもしれない。普段食べているものをフィールドでも食べたいんです」
まゆこさん「私は普段から断然お米派! ザ・スモールツイストは初めはパスタ類だけだったのですが、お米を使ったラインアップが加わりました」
そう、ザ・スモールツイストは作り手が食べたいものがベースになっている。そしてなにより調理法が簡単。現在5つの味があるが、どれも手順はほぼ一緒だ。
❶鍋に具材を入れ、水(分量はそれぞれ)を入れ火にかける
❷時々かき混ぜて沸騰したら火を止める
❸フタをして10〜15分置く
これでできあがり。推奨は上記の方法(しっかり食材が戻るため)だが、パッケージは耐熱仕様なので、お湯を袋に入れて混ぜるだけでも戻るし、時間をかければ水でも戻るのだ。
そして「Restaurant Quality On The Trail.」レストランの味を手軽にトレイルでも食べられる。
ザ・スモールツイストが発信するのは、
「おいしさ」だけに留まらない
ザ・スモールツイストは、1袋税込で1,188円。量は大盛りの一人前といったところ。ほかのジフィーズ食を見ると1食あたり数百円というのが相場で、正直……少々高価に感じる。
物の値段は、原材料や作り手の手間賃、流通で人を介した分、あとはブランドの付加価値などが加わって付けられている。安い原材料で大量に効率良く生産できれば、その分売値が下がるものだ。
ユカさん「外国産の原材料を使えばもっと原価は抑えられるかもしれないけれど、私たちがそれをやっても意味がないと思っています」
レストランでパスタを食べたら1,000円くらいは払っている。プロの料理人が作った食事、1食分の対価としてはけっして高くはない。その料理人が選ぶ食材には、生産者がいる。丹精込めて作り育てられたものは無条件においしい。それに妥当な対価を支払うのは当然のことだ。
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小さなパッケージに詰まった食材の向こう側には、まぎれもなく人がいる……。これは食に限らずなににおいても同じことではあるのだが、ザ・スモールツイストはそれをダイレクトに感じられるのだ。おいしさと思いがつまった小袋が、八ヶ岳の山麓から各地へ旅すると思うとなんだかわくわくしてくる。
「食べることは生きること」。DILL eat,life.と掲げた彼らが放つトレイルフード、ザ・スモールツイストは、スモールレボリューションともいえるのではないだろうか。
私たちがザ・スモールツイストを
好きな理由
スモールツイストが発売されて約1年。早くも"The Small Twist Lover"が出現している。普段から愛用しているみなさんにその魅力を聞いてみた!
ハイカーズデポ店主 土屋智哉さん
長期間にわたり山を歩いていると、担ぐ重量の問題、補給できる食材の問題、さまざまな理由から食事で我慢をすることが少なくない。山での食事が質素なのには慣れているけれども、日が暮れてヘトヘトになるまで歩いた夜には自分へのご褒美がやっぱり欲しい。海外のロングハイク経験者は、おいしいけれども高価でなかなか手が出せないアウトドア用フリーズドライ食品を自分へのご褒美として一食くらいはバックパックにしのばせていたはず。ザ・スモールツイストは私にとって、そんな山での美味しいご褒美。とにかく自分の舌にあうのがうれしい。有名レストランの料理だからではなく、手間暇かけた料理だからこその美味しさ。JMTを夫婦で歩いた時から構想していたという食材の味を活かした山での携帯食。シェフとしての経験、山での経験、そのすべてが詰まったザ・スモールツイストはこれからも山のご褒美として欠かせない一品になるでしょう。ちなみに私のイチ推しはミネストローネ!
アルパインクライマー 横山“ジャンボ”勝丘さん
パタゴニア遠征の足慣らしとしてボルダリングのために訪れたピエドラ・ブランカ。真っ青な氷河を従えたフィッツロイ山群を眺めながら巨大な岩小屋の下で過ごす夜はそれだけでも贅沢だったけど、ジェットボイルでお湯を沸かして注いだだけのスモールツイストにぼくたちは驚愕。
普段のクライミングにおける食事なんて、軽さとカロリー、それに調理のしやすさだけにしか気が回らないのだけど、それらをしっかりと備えていて、加えてこれまでに食したどの高級ジフィーズよりも美味いなんて反則じゃないか。
今回は手持ちが少なく山の中でのクライミングのために持参することはなかったけど、一日かけてアプローチした壁のベースでは、夕食用に満を持してスモールツイストを投入。本番前夜のちょっとした贅沢がぼくたちの定番となった。次回は本番にも持参して、ぼくたちのクライミングの支えになってくれたらと願っている。
ライター&カメラマン 大森千歳さん
山頂直下にテントを張って、よさげな斜面ぜんぶスキーで滑り倒すぞー! という計画で今年の4月に登ったのは、越後の名山・巻機山。山中2泊、食事は朝夜計4食すべてザ・スモールツイスト。軽量で簡単に調理できる商品がほかにもあるなかで、私が全食ザ・スモールツイストにした理由は”美味しい”から。私にとって、これ以上に大事なことなんてない。
1日目の夜に食べたのは、いちばんのお気に入り”ムング豆のダル&ライス”。ネパール料理の豆のスープで、味付けはクミンなど少量のスパイスと塩のみ。細かく刻まれた大根の漬物やゴボウのコクがザ・スモールツイストオリジナルの隠し味。豆と野菜の旨味たっぷりスープとターメリックライスが絶妙に絡んでもう最高。ああ、エンドレスで食べ続けたい。
どのメニューにも感じたのは、「生野菜入ってる?」と思うほど野菜の味が生き生きしていたこと。2日目の夜に食べた鶏ガラスープの雑炊”K-HAN”はショウガが効いていて、雪上キャンプで冷えた体がじんわり温まった。朝食に食べたミネストローネに入っていたのは、大好きな野菜ケール。トマトベーススープにほろ苦いケールのアクセントが絶妙~。早朝から食欲全開でした。ただ、ひとつだけ問題なのは、家でも食べたくなる美味しさだということ。だから私は多めに買いだめしているので~す!
(文=須藤ナオミ、写真=山戸浩介)
朗報!来たる2019年7月6日(土)、
ザ・スモールツイストの試食販売会が開催予定!!
■場所:ハイカーズデポ 店前テラス
(東京都三鷹市下連雀4−15−33 日生三鷹マンション2F)
■時間:13〜17時
※詳細は、ハイカーズデポのホームページをご覧下さい。 https://hikersdepot.jp/info/8404.html/