中島英摩が行く! 新たな相棒とゼロ泊5日のスノーワーケーション

2022.03.18 Fri

中島英摩 アウトドアライター

 雪だ! 雪だ! 雪だ!
 いや、もう春めいてニュースでは夏日だなんて言ってる。
 今年は年始早々、周りの友人達がえらく騒がしかった。なぜって、めちゃくちゃ雪が降ったのだ。

 スノーシーズンは長くない。特にいいコンディションの期間は案外短い。なのに、ここ数年は本当にしょっぱかった。「あるところにはある」なんて言うけれど、冬山登山でさえ積雪が少なすぎてかなり微妙なシーズンが続いた。それが今年は、数年分貯めていたんじゃないかってくらい降った。

 スキーは幼稚園くらいから16歳まではわりとがんばって滑っていた。両親が“ワタスキ(私をスキーに連れてって)”世代なのでよく私をゲレンデに連れて行ってくれた。大学時代には世間は「スキー行こうよ!」ではなく「スノボ行こうぜ!」になっていて、すっごく好きだったスキーがダサく感じてスノボを始めてはみたものの、ヨコノリの才能ゼロでまったく上達しなかった。

 で、10数年ぶりにスキーをやってみたら……。
 誰が「身体が覚えてる」なんて言ったんだ! ボーゲンもできんやないかい! 初心者状態からやり直し、3シーズンかけてやっとなんとか滑れるようになってきた。とにかくいまは上達したい。上達するにはとことん滑るしかない。

バックカントリーも滑れるビンディング&ブーツにしたもののまだ山を滑るにはほど遠い。

クロスカントリースキーの体験もしてみたが、このザマだった(楽しそう)。

 そこで、ワーケーションなんていう最高に都合の良い言葉を利用して、一昨年から白馬に1週間ほど滞在して滑るという裏ワザを覚えた。昨年はGO TOトラベルを使って激安で白馬に1週間滞在。今年も! と思って宿を探すと、そこそこ高い。スキーって高貴(?)な趣味で、ウエアもギアも高い上にリフト代もゲレ食も宿も高い。とにかくめちゃくちゃお金がかかる。

 実は昨年末にアラフォーにして人生初の車の免許を取得した。いままではバックパックにテントと寝袋をねじ込んで、えっちらおっちら全国を歩き回っていた。スキーの時は新宿までスキーバッグを引き摺って高速バスに揺られて白馬まで……、登山よりも大変だった。車なら、なんでも積めるし、屋根も壁もあるじゃないか。ついに最強の足を手に入れてしまった。最高だよ。

 そうだ、車中泊をすればいいじゃないか。ビンボーフリーランス、宿無しで白馬に向かうことにした。

 えっ? 雪国で車中泊? 寒くない? 寝れる?
 周りからは止められたが、それが寝れるんだな。なぜならわたしの愛車はちょっと特別だから。

マイ・ファーストカーは旅する車。エマちゃんらしいとか勇気ある選択だねとかマジかよとか言われがち。

 軽トラに箱がドーンと載った軽トラキャンピングカー「トラベルハウス」だ。燃費ヨシ、小回り抜群、車体価格も維持費もリーズナブルな軽トラの定番「ダイハツハイゼットトラック」に、小屋っぽい箱を乗せちゃった新種のちいさなキャンピングカー。いままでの免許のない人生では「まぁ、エマちゃんが車持ったら家に帰らなくなっちゃうよね」と言われてきたけど、帰らないどころかこの際、部屋ごと移動しちゃいますからね。

トラベルハウスの箱の中。ひと部屋増えた感がある。ワンルーム気分。

 高速道路の週末割引を利用して、日曜日のうちに安曇野あたりまで移動しておき、月曜朝から白馬に向かった。北上すればするほど道路の両端は雪の壁が高くなり、一面は雪景色。去年とはまるで違う景色だった。さすが雪国、国道はきれいに除雪されていた。雪の溜まる交差点で時折地元の車がタイヤを滑らせながら走っていた(滑る前提の地元民のドライビングテクニックすごい!)。

安曇野はまだ雪が少なくて運転しやすかったが、白馬方面はいち面の雪だった。もちろんスタッドレス&四駆。

 初日は白馬五竜&Hakuba47。早朝組からはやや遅れたものの、駐車場のまんなかあたり、ベスポジをゲット。コロナ禍で外国人がほとんどおらず、平日はなおさら人が少なく、滑り放題だった。いい歳なんだからそこそこで上がるよね、なんて言っていても結局ギリッギリまで滑ってしまった。

こんなドピーカンなんだから仕方ない。

あの麓にわたしの“部屋”があるのだ。

 チェックイン? 夕食の時間? 夕暮れに差し掛かっても問題なし。ゲレンデを一番下まで滑って、スキーを脱いで3分で、はい、マイホーム。

憧れの「家の目の前が山」ってこんな感じかな。

“部屋”に入れば、ウエアを脱ぐのも寒くない。ちょっと屈まなきゃいけないけど、狭い車内のシートに座ってモゾモゾ着替えるよりはずっと快適だ。

身長155cmのわたしは立っても天井に頭が当たらない。

 次は、スーパーへ夕食の買い出しだ。旬のホタルイカと鍋の材料、白馬のクラフトビール、明日の朝ごはんを調達した。

 その足で温泉へ。身体がポカポカしているうちに移動して、車を停めたらいざ宴会! 鍋の熱気で小さな小屋は一気に暖かくなり、ほろ酔いのまま夢の中へ。

車なんだから山で使うシングルバーナーの必要はなし。カセットコンロって偉大!!!

静かに夜が更けていく。毎晩あっという間に眠りについた。

 翌朝目が覚めるとフロントガラスが凍りついていた。そこそこ冷え込んだらしい。車内に入れていた水もさすがに凍っていた。朝ごはんは鍋の残りにうどんを入れる。そうすれば着替える頃には“部屋”はポカポカ。

食材を積み放題。そんなことでさえも車なし生活とは雲泥の差だ。

うっかり結露させてしまった天井。木を張り合わせているので冬は気をつけなきゃ。

 たいしてスキーが上手くないわたしは、緩斜面や中級斜面で練習すべく2日目も五竜、3日目には栂池、4日目は岩岳とスキー場を転々とし楽しんだ。朝早くにスキー場の駐車場に行けばゲレンデ近くに停められて、昼はすぐそばまで滑って下りて“部屋の中”でラーメンやカレーを作って食べる。

毎日良い天気でサイコー!(時々、部屋に籠って仕事をした)

オートキャンパーじゃなかったわたしにとって縁遠かったホットサンドなんていうオシャレなランチにも挑戦。

 毎日しつこくリフト終了時間のギリギリまで滑っては、毎日違う温泉を堪能して、鍋で温まりビールで酔っ払って寝る。お金もかかってないけど、人との接触もかなり少ないから、結構時代に合っているのかもしれない。

 おそらく-5〜-10℃くらいだったか、毎夜ドアが凍りつくくらいには冷えたけれど、雪上テント泊に比べりゃ天国だ(比較対象が一般的ではない)。冬用シュラフにUSBタイプの電気毛布や湯たんぽで暖かさをブーストすれば完璧。寒さを感じることなく毎日ぐっすりだった。

たぶん夜の鍋の蒸気がドアの周りについて凍っていた(鍵周りの解氷スプレーを購入)。

上部もベッドになるけど面倒な時は下で寝る。足を伸ばせるし、雪上泊よりうんと暖かい。

 理想を言えばRVパークに泊まりたかった。そうしたら電気ヒーターだって電気毛布だって使えてよりいっそう快適になる。でも白馬には冬に使える安価なRVパークやオートキャンプ場がほぼない。栂池に近い温泉「倉下の湯」の横に新しく車中泊専用スペースがオープンしたという情報に行き着き、飛び跳ねて喜んだものの、急な除雪機トラブルで今シーズンはクローズしていた。倉下の湯カーステイパークが使えるようになったら人気になること間違いない。

 最終日は荒天予報で、早めに切り上げて急いで帰ったものの、みるみる天気が荒れていく様は初心者ドライバーにはかなり怖かった。パーキングエリアになんども立ち寄りながら、なんとか大雪を免れて帰宅した。

 白馬の旅のあと、よっしゃこれはいけるぞと地方出張のついでに近くのスキー場まで車を走らせては時間を見つけてスキーの練習に励んだ。雪が少なく除雪がされていれば休み休み運転できたが、なにせ雪の多いシーズン。寝て起きたらタイヤが半分雪に埋もれて、朝イチの運動に30分の雪かきなんてこともあった。

夜中に降ったらしい。降雪予報ではあったものの熟睡していてどのくらい積もったか気付かなかった。

ほかの車中泊組もみんな埋もれている。車中泊マスター達はどんな風に快適な空間を作っているのか気になる。

除雪車が入ったらしく、きれいに車の周りだけ削られ、朝起きて外に出たらマイカーがチェスの駒みたいになっていたのには笑った。

 極寒のなかのキャンピングカーライフ、ひとまず完遂。ファーストカーのファーストトリップが氷点下。これが基準となるなら、もはやなんでもいけんじゃないか。ここからプラス要素しかない気がしている。

 よし、相棒よ、旅に出よう!

(文・写真=中島英摩)


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