- 旅
瀬戸内海でアウトドア系歴史紀行。海こそが町の玄関だった時代に想いをはせる旅へ。
2024.08.06 Tue
大村嘉正 アウトドアライター、フォトグラファー
町の玄関といえば鉄道駅やバスターミナルなどだが、かつての瀬戸内海沿岸では「海」が玄関だった。明治時代初期から遡ること約千年間、大量輸送は船が頼りで、人も物も海から来たのだ。高松藩(現香川県)の高松城など、海から船で入城できる城郭もあった。
高松城。堀は海水で、タイやボラが泳ぐ。奥に見えるのは瀬戸内海の島々。
そんな「われは海の子」だった時代を伝えるのが、海を玄関にした寺社仏閣。その代表格は世界遺産・厳島神社(広島県宮島)だが、他にも知る人ぞ知るスポットがある。瀬戸内海沿岸をカヤックや自転車で旅する人が体感できる「海が玄関」を紹介しよう。
●床浦神社(とこうらじんじゃ)/広島県竹原市
干潮と満潮の潮位差が最大で4m前後ある瀬戸内海。どの潮位でも船荷の積み下ろしが容易になるよう、階段状になった波止場「雁木」が古くから造られてきた。浮桟橋が普及した現在ではあまり見られなくなった港湾施設である。
鞆の浦(広島県福山市)の港にある雁木。床浦神社。雁木の上に立つ鳥居。
この雁木に横づけなのが床浦神社の大鳥居。海から船で参拝する人がどれだけ多かったかを物語っている。そばには水軍の拠点だった賀儀城跡がある。その基部、海辺に空いた洞窟は水軍の船隠しで、潮が大きく引けば中に入れる。
波止場の先に灯台、ではなく石灯篭なのが味わい深い。床浦神社の港にて。
場所/広島県竹原市忠海床浦1丁目12‐27
アクセス/JR 忠海駅から約850m
●岩子島厳島神社(いわしじまいくつしまじんじゃ)/広島県尾道市
厳島神社の鳥居のミニバージョン。
この神社で出合うのは、大潮の満潮時に海面に立つ朱色の鳥居── と、厳島神社の大鳥居(広島県宮島)に似た景観。この神社は厳島神社と同時期の建立らしい。一説には、平清盛が厳島神社の創建をここにするか宮島にするかで迷ったとか。
海上の標、石灯篭。
もうひとつの見どころは、鳥居の少し沖にある石灯篭。船の参拝者の海上標識だったのだろう。しまなみ海道をサイクリングするならぜひ寄り道を。
場所/広島県尾道市向島町岩子島1944
アクセス/JR尾道駅から向島に渡るフェリー経由で約7.7㎞。
●阿伏兎観音(あぶとかんのん)/広島県福山市
断崖にあるが、かつては海からも参拝していたようだ。
海ゆく人に感嘆してもらうための寺社建築。この下の海を行き来する舟人は、海上から賽銭を奉じる習わしがあったという。よく知られた観光地だが一見する価値あり。江戸時代の港湾施設や町並みを残す景勝地「鞆の浦」も近い。
欄干が低くて、大変怖い。
カヤックで海から参拝するなら、速い流れを漕ぐ経験が浅い人は要注意だ。付近の海域「阿伏兎の瀬戸」は、干満による潮流が速い。
場所/広島県福山市沼隈町能登原1427‐1
営業時間/8:00~17:00
入場料/100円
アクセス/JR福山駅から鞆鉄バス新川線「阿伏兎観音入口」下車、徒歩15分。
●亀石神社(かめいわじんじゃ)/岡山県岡山市
由緒ある景観だが、今では訪れる人はまれ。中央に見えるのが亀石。
知る人ぞ知る海辺の神社。渚には巨石が祭られていて、その形はまさに亀だ。伝説では、神武天皇をこの地へ水先案内した亀が石になったらしい。海上に張り出した舞台もあり、他にない瀬戸内風景になっている。旧暦6月15日夜には神社前の海を屋形船で巡る神事があり、その始まりはなんと1818年から。
忘れられた瀬戸内の風景がここに。
この神社から県道233号を南に2.6㎞の「正儀港祠」付近に小さな浜があり、そこからカヤックを浮かべて海上から亀石神社参拝も可能だ。干拓地の湾の奥まった場所にあるため、海は沼のように濁っているが……。亀石神社近くの、住居群の小島(川の河口にあり、水門と水門に挟まれている)もかなり珍しい景観。
場所/岡山県岡山市東区水門町833
アクセス/JR西大寺駅から約7.1㎞。