望んだ自然体験って、これだったかな? 登山に何か満たされないネイチャー派に提案

2024.10.02 Wed

大村嘉正 アウトドアライター、フォトグラファー

「野生動物との出逢いも期待して、登山を趣味に」という人、満足していますか?
イワヒバリは山でいちばんのフレンドリーバード。北穂高岳山頂にて。
 山域によってはライチョウやイワヒバリに近づけたり、カモシカやツキノワグマなどを目撃するけれど、遭遇するのはおおむね人間ばかり。登山では、「人間たちの空間に、たまたま野生動物が入ってくる」がほとんどだ。
駅前広場みたいに人がいる自然。ここに野生動物は来る?
 ではその逆、「野生動物の領域へ、人間のほうから、気軽に、そっと入る」は可能だろうか? 答えのひとつは「カヤックで水に浮く」だ。
次の町まで約200㎞。キャンプ道具や1週間分の食糧を積んで出港!
 激流下りや航海など冒険にいざなうカヤックだが、その原点は狩猟道具。約2000年(一説には約5000年)前から極北の人々はカヤックを漕いでアザラシやクジラを追い、銛を投げて狩ってきた。水面上に見える姿が小さく、音もなく漕ぎ進めるカヤックは、人の存在感を最小にして野生動物の世界に侵入できるのだ。
一度に6頭のザトウクジラに囲まれた。南東アラスカにて。
 私の場合、アラスカの海では潜水中のトドの背中をパドルで突っつき(水面下の岩だと思って)、ネズミイルカやゴマフアザラシの群れと共に海を渡り、カヤックの下をザトウクジラがくぐっていった。
カヤックを怖がるどころか、興味を持つアザラシ。
 そんな大型哺乳類との出合いは地域限定だが、鳥との接近遭遇なら日本の海や川でも簡単だ。カワセミやヤマセミ、ミサゴが川にダイブして魚を獲るなど、動物ドキュメンタリーみたいな瞬間に立ち会うことは珍しくない。河畔林の高い枝で休んでいるオジロワシを驚かさず、その下を漕ぎ抜けたこともある。河原にいるシカやニホンザル、干潟のカニなども、そっと水面に浮かんでいれば簡単に観察できる。
浜にカヤックを乗り上げて待つと、シギが目の前を横切った。空高く静止し、急降下、水面にダイブして魚を掴むミサゴ。カヤックで干潟に接岸して約5分、用心深いシオマネキが泥の巣穴から登場。
 だが、そんなポテンシャルゆえにカヤックは取扱注意。「追いかけない、無理に近づかない、野生動物にストレスを与えない」が、まともなカヤック漕ぎの暗黙のルールになっている。川の流れに乗ったなど、意に反して動物に接近したら、忍者のごとく気配を消す。うまくいけば野生動物に対して無になり、同時に無限になれる。それは、自分の意識が大自然に広がっていくような、得難い感覚でもある。
これはうかつな例。知らぬ間に巣に近づき、ハクチョウに怒られた。
 野生動物にストレスを与えない、となれば、決定的瞬間に遭遇しても撮影できない、撮影する気にもならないことは多い。SNS界隈のあくなき承認欲求派は、カヤックでの動物ウォッチングに適応しにくいだろう。「感動は自分だけのもの、シェアなんか知らん」というエゴイストのほうが、「野生動物の領域を乱さない」と相性はいいのだ。

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