自然・工芸・伝統・産業を「食」で紡ぐ 南会津から届ける新たな風土旅

2025.02.28 Fri

藍野裕之 ライター、編集者

福島県南西部に位置する南会津地域

福島県の南西部に位置し、地域全体の面積の 90%以上を森林が占める南会津地域。広大な森林は四季によって色を変え、風光明媚な里山の原風景は見る人を惹きつけます。

豊富な森林資源は多種多様な生態系を支え、長い時間をかけて育まれた清らかな水は地域の生活や産業にとって欠かせないものとなっています。

これまで南会津地域では豊かな自然環境中で農林業によって地域は支えられてきました。しかし、 社会構造の変化による一次産業の低迷や、 高齢化、人口減少の進行は深刻であり、南会津地域の町村は「消滅可能性自治体」とされています。

大規模開発とは無縁で育まれた風土

移住者や関係人口の創出など様々な手法を用いてチャレンジしているものの、特効薬がないというのが現状です。こういった中において、新たな人流を生み出し、観光産業を活性化させることは一つの有効な取組みであると分析しました。

南会津地域は、新幹線や高速道路、大型リゾート等の大規模な開発とは無縁であったがゆえに、風光明媚な里山の原風景は守られ、風土に根ざした伝統文化や生活様式は今もなお受け継がれています。これは、日本人には「ほっとできる」、外国人には「体感したことのない」観光資源であると誇りに思っています。

認知度も低く、移動手段も限られる南会津地域ですが、歴史や伝統・豊かな自然環境の中で大切にされてきた地域資源を観光コンテンツとして丁寧に磨き、ここでしか体験することのできない「特別なストーリー」を創造することの実践に取り組みました。

南会津地域は下郷町、檜枝岐村、只見町、南会津町で構成されますが、一括りにできないほど地形・環境・気候、伝統文化・生活工芸、ライフスタイル、方言・訛りに至るまで、それぞれの地域で違いがあります。

このような異なる背景を持った地域のコンテンツを用いて、 新たな人の流れを作るためのツーリズムを創るにはどうしたら良いのか考えました。認知度、関心度を高めるには南会津地域でしかできない感動体験を創造する。今回は、 個性ある文化や風土、伝統を「食」で紡ぎ、ストーリーのある旅を創造しました。


実例1 お弁当の旅



旅の目的地は奥会津・檜枝岐村と只見町。南会津の旅の記録を詰め込むための「器」 、 伝統工芸品「曲げわっぱ」を手作業で作り上げることから始まる旅です。お弁当の材料を自分で収穫しながら、檜枝岐村の地産地消の伝統食・山人料理や南会津町の伊南川料理、 只見町のソウルフードであるマトンを堪能する郷土食のツアーとしました。



また、只見町を象徴するブナの森や清流の中で心身を整え、 ローカル線(JR 只見線)に揺られながら、風光明媚な景色と共に旅を振り返る。旅のクロージングは帰路の特急リバティ会津。

自分で作った曲げわっぱに、自分で収穫した食材が丁寧に調理されお弁当となって届く。「次の季節はどんなお弁当が食べられるんだろう?」そんな想いを馳せる、身体と心を満たすお弁当を目的としたウェルネスツーリズムです。


実例2 お蕎麦の旅



蕎麦を堪能する旅。旅の目的地は下郷町と南会津町。 南会津地域を代表する食文化「蕎麦」。南会津地域内でも場所によって蕎麦の品種や打ち方、食べ方が異なるなど個性に溢れています。


一般的な十割蕎麦や二八蕎麦だけでなく、外二蕎麦、蕎麦を布を裁つように切り分ける裁ち蕎麦、長ネギを箸代わりにして食べる高遠蕎麦や、塩で食べたり刺身のように食べる蕎麦。そば粉ともち米粉を練った「はっとう」や蕎麦の実の汁椀などバラエティは際限がありません。


この旅では蕎麦を食べるだけではなく、蕎麦との親和性が高く、その魅力をさらに高めることのできる伝統的なものづくり文化に欠かせない「ろくろ」を取り入れました。

陶芸窯で蕎麦皿をつくり、また木地師職人と蕎麦猪口のろくろ加工と箸削りを行うことでふたつのものづくり文化と蕎麦を織り交ぜる。好奇心と食欲を満たすガストロノミーツーリズム です。

自然だけではなく、また文化だけでもない。自然と自然に寄り添いながら続けられてきた地域の人々の暮らしそのものを、静かに、だけど深く体験するのが風土旅だと思っています。

旅人の方々もそれぞれご自身に心と体にしっかり生き続けているご自身にお馴染みの風土があろうかと思います。それとは違う風土を南会津地域で見つけていただけますと幸いです。

この南会津地域の食を紡ぐ風土旅は、福島県南会津地方振興局の主催で行われました。今後も、多種多様な地域資源を、体験する人を惹きつけることができるコンテンツとして磨き上げ、皆様にも来訪いただけるように取り組んでいきます。

五感で感じる自然と文化、南会津youtubeチャンネルはこちら
https://youtube.com/@oideyominamiaizu?si=a1vhtfTSwjmeyTaT

藍野裕之 ライター、編集者

(あいの・ひろゆき)1962年、東京都生まれ。文芸や民芸などをはじめ、日本の自然民俗文化などに造詣が深く、フィールド・ワークとして、長年にわたり南太平洋考古学の現場を訪ね、ハワイやポリネシアなどの民族学にも関心が高い。著書に『梅棹忠夫–限りない未知への情熱』(山と溪谷社)『ずっと使いたい和の生活道具』(地球丸刊)がある。

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