福島県・南会津地域が行う「お試し移住」は 保育もフォローし始めて子育て世代の参加も期待!

2025.03.14 Fri

藍野裕之 ライター、編集者

大規模な開発をまぬがれた自然と文化

南会津地域とは福島県の西端から南西部に位置する南会津郡3町1村のことだ。下郷町、檜枝岐村、只見町、南会津町である。

日本三大祇園祭に数えられる南会津町の会津田島祇園祭、江戸時代の山間の街道宿場を今に伝える下郷町の大内宿は知る人も少なくないだろう。ゆったりと流れる只見川沿いを走る只見線に憧れ続ける人もいると思う。

目立った観光施設があるわけではない。都心からのアクセスが便利とはいえない。そのうえ豪雪地帯。大規模な開発は行われず、自然が色濃く残った。

この地域の南西端には尾瀬があり、その北にはマタギが活躍する広大なブナ林が広がる。その他の地域の森も深い。そのためか他の田舎と同様に都会への憧れを抱く若者が多く、進学や就職を機にふるさとを離れる者が多くいる。

「お試し移住」に「保育」を加えて地域が支援

南会津地域は、急速な人口減少・少子高齢化による地域の担い手不足や地域活力の低下が課題となっており、関係・交流人口の拡大や移住・定住の促進に取り組む必要がある。

福島県南会津地方振興局では令和6年度に「お試し移住」事業である「ミナミアイヅライフ」を実施した。お試し移住の希望者に「オーダーメイド」の生活体験プログラムを提供するほか、体験期間中の宿泊料を一部支援する制度だ。

この「お試し移住」事業を活用して、滞在期間中、南会津地域内の保育園で1歳児から預かる保育プログラムを試験的に実施した。移住の可能性を見据えながら地域の子育てをリアルに体験できる。ワーケーションの拠点として南会津地域を考える場合でも、子育て世代にとって心強いプログラムである。

埼玉県川口市に在住の植井健太朗さんは都内のIT関係企業に勤めている。結婚3年目で1歳になったばかりの娘さんがひとり。奥さんは小学校の先生だが育休中だったこともあり、昨秋さっそく保育制度を使って4泊5日の南会津滞在を体験した。

子どもたちは保育園で地域に馴染む?

「ちょうど会社では、IT技術を地方創生に役立ててもらおうという新規事業の立ち上げを目指し準備していました。ようやくコロナが収束していった時期で、今の生活環境(都心での在宅ワーク)や将来的なライフプランのことを考えると移住への興味が強く湧いた時に、今回の「お試し移住」事業を知り、仲間とともに体験することにしました」

両親はワーケーションをお試し

「南会津地域で広葉樹林を歩くとか、地域の方々とのふれあいがコロナ禍での外出禁止令でたまったストレスを癒してくれました。「お試し移住」事業で一番よかったのは地元の人たちと知り合えたことです。帰宅してからもSNSを通じて、地域が抱える様々な問題を知らせてくれました。事業化を前提にするわけではなく雑談のようなやりとりを重ねていくうちに、南会津地域が僕の中で特別な場所になっていったんです」

植井さん夫婦はともに都心周辺で育った。それぞれの両親は今もそこで暮らしているので、帰省先が地方ではない。そんな要素も影響したのかもしれない。奥さんも南会津地域を気に入ってくれた。そして娘さんが生まれてライフスタイルが変わっていった。

「我が家では犬を2頭飼っているんです。南会津地域を知る前は、ペットも同宿できる宿を取るなどして旅行を楽しんでいました。会社の同僚にキャンプ好きがいて、そのうちに僕もやろうと思いテント、テーブルとイス、バーナーなど一通り買いました。でも、娘がまだ小さいですからファミリー・キャンプはまだしたことがありません」

「自宅に狭いですが庭があって、そこにテントを張って、簡単な料理を作ったりはしました。アウトドアは、都市での暮らしがリフレッシュされるのでいいですね。娘がもう少し大きくなったらキャンプに、と思っていた矢先でしたので今回の保育プログラムはうってつけでした」

はじめは泣いちゃったけど・・・

試験的に始まった南会津地域での一時預かりは、まず、ひとつの保育園で子どもひとりを預かるところからスタート。植井さん一家は、2歳の娘さんがいる会社の同僚一家とともに参加したが、お子さんたちは別々の保育園となった。

「実は、まだ自宅の近所で保育園が決まっておらず、うちの娘は保育園そのものが初めてだったんです。だから泣いちゃったらしい(笑)。それでも、少しずつ慣れていったみたいで半日預かっていただきました。その間に妻はひとりであちこち回っていたようです。滞在中、僕は宿でひとり仕事をしていました(笑)」

「でも、目の前に深い森があるだけで気分が違いましたね。豊かな自然の中に身を置いているってことだけで、こうも違うのかと驚きました。同僚の娘さんは2歳になっていましたので一日保育を体験。昼食もいただいて楽しんだそうです。彼らも共稼ぎで、お互いに宿で仕事をしていましたが、奥さんのほうが先に目処が立ったので晩秋の南会津地域をめぐりながら、3時には娘さんを引き取りに行ったそうです」

わずかな時間ではあったが、「旅する」ではなく「暮らす」を味わったようだ。そんな体験をして、植井さんの心境の変化はあったのか?

この制度で子育て世代も二拠点生活が可能だ!
「僕は今の仕事が面白く、会社に勤務し続けるつもりですし、妻も育休が明ければ職場復帰する予定です。そのため、今のところ完全な移住は夫婦の間で話し合うことはありません。でも、ふたりとも南会津地域を気に入っていますので、職場での状況を見ながら今後は二拠点生活を充実させていけないだろうかと考えています。時間調整が大きなネックですが、望みはあるだろうなと思っています」

「今度は僕や妻の両親、娘にとってはジージとバーバたちも連れて行って、三世代で二拠点生活の可能性を探ってみようと思っているんです。そう思うようになったのも、南会津地域の自然、それから人が魅力的だからです。いろいろな試験的、実験的な取り組みを実践して僕たちを迎えてくれる方々がいるのは、本当にうれしい。そんな気持ちに応えられるよう、南会津地域で暮らしていると見えにくいような問題点を見つけ、一緒に解決できるようになりたいと思っています」

南会津地方振興局ホームページ
https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/01250a/

藍野裕之 ライター、編集者

(あいの・ひろゆき)1962年、東京都生まれ。文芸や民芸などをはじめ、日本の自然民俗文化などに造詣が深く、フィールド・ワークとして、長年にわたり南太平洋考古学の現場を訪ね、ハワイやポリネシアなどの民族学にも関心が高い。著書に『梅棹忠夫–限りない未知への情熱』(山と溪谷社)『ずっと使いたい和の生活道具』(地球丸刊)がある。

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