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<奥山英治の野遊び暦・啓蟄> 熱い抱擁を体験せよ! ヒキガエルの「蛙合戦」
2016.03.04 Fri
奥山英治 日本野生生物研究所主宰
「日本でいちばん野山で遊べる男」との呼び声高い、日本野生生物研究所の奥山英治さんがAkimamaに寄稿! 海山川の動植物に通じ、生き物との遊び方を極めた「歩く野遊び図鑑」が季節の自然の楽しみ方を紹介します。
夏の夜に水気のない街中で、大きなカエルを見つけて驚いたことはないでしょうか? あのカエルの正体はヒキガエル。ほかのカエルよりも乾燥に強いので、水辺を離れて電灯に集まった虫などを食べに出て来ているのです。
ちょっとした緑地があれば生きていけるので、東京都内の渋谷や新宿のような思いがけない場所でもその姿を見かけます。あるいは、これを読んでいる人のなかにも「うちの庭にも住んでる!」なんて人もいるかもしれません。
そんな乾燥に強いヒキガエルも年に一度、水辺に大集合します。それが3月の上旬、二十四節気の「啓蟄」(2016年は3月5日)のころ。冬眠から一度目を覚まし、すみかの近くにある水辺に産卵のために集まるのです。
小さな池に数十匹、ときには数百匹も集まることがあり、その様子は「蛙合戦(かえるがっせん・かわずがっせん)」と呼ばれて、日本人に親しまれてきました。
啓蟄とは「冬ごもりしていた虫が外に這い出てくること」。昔はカエルも虫の類いだと考えられていましたから、昔の日本人は、池に大挙するヒキガエルを見て「まさしく啓蟄!」と思ったのではないでしょうか。
地域ごとに産卵の時期には差がありますが、関東〜関西の平地は今が最盛期。郊外のちょっとした池や、オフィス街の公園の池でも、きっとその姿を目にすることができるはずです
池にやってきたオスのカエルは、今どきの人間の男子が及びもつかないほどアグレッシブ。動くものに我ものにせんとつかみかかります。毎年、春先にコイに抱きついたカエルがニュースになりますが、そのカエルの多くがヒキガエルです。
池のコイに恋するほどイケイケですから、もちろんオス同士で抱きしめ合うこともしばしば。しかし、今の時期のヒキガエルのオスは、脇を抱きしめられると「グ、グ」と泣いて自分がオスであることを相手に知らせます(これを「リリースコール」といいます)。
しかし、メスにはこの性質がないので離されることはありません。そして、みごとカップル成立となるわけです。もちろん、コイも鳴きませんから、いつまでもオスガエルに抱きしめられっぱなし、となるわけです。
オスにしっかと抱きしめられたメス。こんなふうにオスを手でつかむと,さも迷惑そうにグ、グ、グ、と鳴く
コイだけでなく、今の時期のオスは動くものになんでも飛びつきます。最近、だれからも熱い抱擁を受けてない! なんて人は、静かに池に近寄って手を細かく震わせてみましょう。あぶれているオスが熱烈に抱きしめてくれますよ!
「もう、君のこと二度と離さないよ!」とばかりに熱烈なハグ。最盛期は昼でも産卵に集まっていますが、夜の方が数は多い