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<奥山英治の野遊び暦・清明>花見で鳥見! 鳥の花見も花より団子
2016.04.07 Thu
奥山英治 日本野生生物研究所主宰
「日本でいちばん野山で遊べる男」との呼び声高い、
日本野生生物研究所の奥山英治さん。
海山川の動植物に通じ、生き物との遊び方を極めた
「歩く野遊び図鑑」が季節の自然の楽しみ方を紹介します。
今年の二十四節気の「清明」は4月4日。冬の重たい雲が払われていよいよ暖かくなり、日差しの透明感が増す今頃の気候をよく表していますね。
このころになると野山では一斉に芽吹きがはじまり、日一日、緑の濃さが増してゆきます。そして、この芽吹きとときを同じくして花を咲かせるのがサクラです。
和歌から童謡、歌謡曲までサクラを歌ったものは数多くあり、ニュースでは毎日各地の開花状況が放送されます。花の中でも、とくに日本人と関係の深い花であるのはみなさんの知るところ。
そしてこのサクラ、開花を楽しみにしているのは私たちだけではありません。何本かサクラが植わっているのを見つけたら、サクラの枝先を目で追ってみましょう。すると……そこにはきっと、小さな鳥がとまっているはずです。
たまたまとまっていた、ということもあるかもしれませんが、多くの場合、彼らはサクラの花をゴソゴソいじっているはずです。そう、なんと彼らはサクラを食べに来ているのです。
彼らの目当てはサクラの蜜。サクラの花のめしべの付け根には蜜があり、ここから出る甘い蜜を狙ってサクラに集まっているのです。
サクラの断面。めしべの根元の周囲で玉になって光っているのが蜜。舐めると甘い。この蜜をめざして虫などが花に潜り込むと、花粉が付いてほかの花へと運ばれる
よく見てみると、鳥ごとに花の食べ方が違うのに気づくはずです。緑色の体に白いアイリングが目立つメジロは、花の正面から顔を突っ込んで長い舌で蜜を舐め取ります。
メジロ。細い嘴から長い下を伸ばし、花の奥にある蜜を舐めとる
細い嘴をもつメジロに対し、太い嘴をもつスズメはメジロのように舌を伸ばして蜜を舐められません。そこでスズメはサクラの花を根元でブチリ! 蜜のあるあたりを噛み潰したり、飲み込んだりして蜜を手に入れます。
ちょうど蜜があるあたりをちぎりとったスズメ
そして、メジロのように蜜を吸ったり、スズメのように花をちぎったりして蜜を手に入れるのがヒヨドリ。ときには花びらまで飲み込んでいる姿もみかけます。ヒヨドリはセルロース(植物繊維の主成分)を分解できるそうなので、こんな多様な食べ方ができるのでしょう。
あらゆる方法でサクラを食べるヒヨドリ。美食家かただの悪食か!?
今ではどこでも見かけるようになったヒヨドリですが、私が子供の頃は山の中まで探しに行かないと見られない鳥でした。それがどんどん都市部まで進出し、いつの間にか街なかで見られる鳥の代表選手になってしまいました。
そして、私たちがよく目にするサクラである「ソメイヨシノ」は江戸時代に作られたサクラとされ、こんなにも盛んに植えられるようになったのはこの100年程度です。
つまり、都市部にこんなにたくさんサクラがあり、そこでヒヨドリが花を食べている光景は、ごく最近になって見られるようになったものなのです。
かつては日本の野山にポツリ、ポツリと咲いていたサクラ。またその開花を楽しみにしていただろう小鳥たち。そんな時代に思いを馳せながらサクラを見ると、花見がちょっとちがったものになるかもしれません。
清明のころの里山。手前のピンク色の花をつけた木と、ところどころで赤っぽい新芽を茂らせているのがヤマザクラ。最新の研究では、ヤマザクラとオオシマザクラが交雑したサクラに、さらにエドヒガンが交雑したものがソメイヨシノだとされている