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アウトドアの達人が信越自然郷を遊ぶ! JR飯山線でアクセスする 千曲川SUPツーリング
2017.09.20 Wed
滝沢守生(タキザー) よろず編集制作請負
学生のとき、3か月分のバイト代を叩いてカヤックを買った。
折りたたんで背負えるフォールディングカヤックってヤツだ。そのカヤックとキャンプ道具を持って電車に飛び乗り、まず向かったのが長野県の千曲川だった。
長野県の北部、長野市から中野市、飯山市、野沢温泉村、そして栄村にかけて流れる千曲川中流域は、川幅が広く、流れも緩やかでリバーカヤック初心者でも楽しめる川である。しかも、川沿いにはJR飯山線が走っているから、好きなところまで下って、電車で戻るという自由な川旅ができる。まさに本州におけるリバーツーリングの聖地と言っても過言ではない大河なのだ。
5年前、その千曲川の畔にたたずむ古民家を借り、移り住んだ。千曲川流域に暮らすアウトドアズマンのひとりとして、ぼくが川下りにオススメしたい区間は、JR飯山線の替佐駅から上桑名川駅へと下るジャスト30㎞のセクションである。
2015年に北陸新幹線が開業して以来、関東、北陸、関西方面からも、ずっと近くなった信越自然郷。注:信越自然郷とは長野県北部と新潟県南部に跨がる9市町村(飯山市、中野市、妙高市、山ノ内町、信濃町、飯綱町、木島平村、野沢温泉村、栄村)の総称。
東京駅から信越自然郷の玄関口にあたる飯山駅までの所要時間は約1時間50分。始発の東京駅6:28発に乗れば、飯山駅に8:19に着き、飯山線に乗り換え、スタート地点の替佐駅にはなんと9:06には着いてしまう。関東から十分に時間的余裕を持って下れる日帰りリバーダウンコースである。今回はカヤックではなく、より持ち運びがラクで、セットアップがスピーディーなインフレータブル式SUPで下ってみよう。
スタートは北陸新幹線とJR飯山線が乗り入れる飯山駅。駅構内にはコンビニ、駅そば、カフェが併設し買い出しや待ち合わせにも便利な駅である。
飯山駅の1階にある信越自然郷アクティビティセンター。
まずは川の増水、河川状況、エントリーポイントなどの川情報をゲットできる信越自然郷アクティビティセンターへ。ここはカヤックやSUP、ラフティングで千曲川を下るガイドツアーの受付、予約手配が可能なアウトドアの拠点でもある。リバーツーリング未経験者はまずここでツアーに参加し、経験を積むことをおすすめする。またテントやバックパック、トレッキングシューズ、自転車などのレンタルも行ない、ちょっとしたアウトドア用品も購入可能だ。
さて、いよいよ出発。240円の切符を買って10:02発の飯山線長野行き列車に乗る。しばらくすると左手の車窓から千曲川が見えてきた。その手前には稲穂が頭を垂れ、黄金色に輝いている。
飯山線は単線で、かつ電化されていないディーゼル車両。時間によっては4両の場合もあるが、長野・飯山は基本2両。戸狩から先は、2両または1両で運行する。
中野市替佐駅のホームに降り立つと唱歌『故郷(ふるさと)』のメロディーに包まれた。『故郷(ふるさと)』を作詞した高野辰之氏はここ中野市出身で、この千曲川流域の原風景をイメージして作曲したと言われている。旅情をくすぐるJRの奥ゆかしい演出である。
替佐駅すぐ横の踏切を渡り、千曲川へは徒歩約5分の距離。
旅のパートナーは同じく飯山市在住の浅野慧さん。信越自然郷アクティビティセンターのメインスタッフとして、観光客をアウトドアの世界へ導くことを生業とする一児の父だ。
リンゴやブドウが間もなく旬を迎える果樹園の中を通り河川敷へ。これらの果樹は信越自然郷の名産品だ。
付属ポンプでシュポシュポ膨らませたSUPに飲み物や弁当などをくくりつけて出発用意完了!
インフレータブル式のSUPはこうして片手で軽々持てる。さらに空気を抜いてクルクル丸めればコンパクトに収納できる。公共交通機関を使っての川旅にもってこいの移動手段だ。風は南から吹いていた。つまり追い風だ。風に背中を押され、SUPを川面に浮かべると、われわれはまさに水を得た魚のように下流へと飛んでいった。
スタート地点の替佐駅から蓮駅の間は、1〜2級の瀬が次々とでてきておもしろい。川は細かく蛇行し、山が迫り、テントを張れる広い河川敷はない。渇水のときは、隠れ岩に要注意。
唱歌『故郷(ふるさと)』が生まれた中野市の千曲川流域を行く。農作業をしている人がたくさんいると思ったらすべて案山子であった。
信越自然郷のシンボルとなる高杜山。標高1,351mの独立峰で、山頂は中野市、山ノ内町、木島平村の境界にある。奥の赤い橋は、飯山市と中野市を繋ぐ古牧橋。
古牧橋下の瀬へ突入する浅野慧さん。ただ水に身をまかせ流れていくだけでは波に翻弄されてしまうので、なるべく力強く漕ぎながら瀬に入る。数日前の雨で川は少々濁り気味。本来はもうちょっと青く、クリアだ。
古牧橋下の瀬を漕ぐ著者、森山。体とSUPを結ぶリーシュは必須アイテム。リバーツーリングでは、すぐに外せるよう腰にクイックリリース機能のついたモデルが推奨される。このあと横からの流れをうけてSUPが傾き、ついに座ってしまった。屈辱のSDP(シット・ダウン・パドル)である。
飯山市街地の中央橋から少し下流にある飯山カヌーポートでランチ休憩。このように千曲川には複数のカヌーポートが整備され、テント泊やエントリー、エスケープが可能となる。川のうえから見ても、千曲川はやはりリバーツーリング初心者に優しい川なのだ。
飯山市に入ると川幅も空も広くなる。風を遮る山がなく、瀬もないため向かい風になるとツライポイントだ。だがこの日はうれしい追い風。奥の峰は、山ノ内町北志賀高原の山々。中央の赤い橋は大関橋。
今回のコースでもっとも迫力がある瀬、湯滝の瀬。日帰り入浴施設、いいやま湯滝温泉の下にある。沈するか?それとも座るか?の判断を迫られている瞬間。おとなしく座りました。ちなみにツーリング後、温泉に入るならこのいいやま湯滝温泉が、おすすめ。交通の便がよく、JR上境駅から徒歩2分。
ツーリング後、職場の飯山駅へ戻るため「沈だけはしたくない」と意気込み、湯滝の瀬へつっこむ浅野慧さん。さすがスキーもMTBもトレランもこなすアスリート。バランス感覚がすばらしい。
湯滝の瀬(上境駅)を越えると両脇から山々が迫り、川幅は狭くなる。左岸に旧国道が沿って走っているが、上陸できるポイントは少ない。
風がやむと川面は、鏡のように穏やかに。瀬はなく、流れもない。西大滝ダムが近づいてきた証だ。
JR上桑名川駅の数百m下流、左岸にゴール! 車が河原へ下りられるよう、広いスロープが整備されているので、川からでもわかりやすい上陸地点だ。
毎年、季節を変えながらこのルートを下っている。雪解け水が流れ込む春は、流れも速く、瀬が消えて、田が青く輝く。汗ばむ夏は、ジャボンと落ちながら、新緑の山々をみながら深呼吸。長い冬へと続く秋は、紅葉や秋の味覚を噛み締めながらのんびりと。山登りと同じように川にも四季、それぞれに楽しみがある。
浅野慧くんは荷物をまとめると、歩いて上桑名川駅へ。17:22発の飯山線に乗り、職場の飯山駅へ戻って行った。見送る森山は歩いて帰宅。
ちょうど距離にして30㎞、時間にして5時間のツーリングだった。
バイバーイ! 飯山線上桑名川駅からの上り列車は、15時、16時台が1本もないので、タイムスケジュールを確認しながら下ろう。飯山駅へは所要時間約40分。
田舎生活には車は欠かせない移動手段だ。だからどこへ行くにもついつい車でアクセスしてしまう。だが、若かりし頃の旅のはじまりは、誰もが電車やバスなどの公共交通機関だった。自分で持てるだけの生活道具、食料を背にして歩きはじめる。道具がミニマムになると、旅がシンプルに、そして濃くなる。千曲川は20年前も、20年経ったいまも、同じことを教えてくれるフィールドだ。
(文=森山伸也 写真=大森千歳)
信越自然郷アクティビティセンター
信越自然郷エリアで四季を通じて楽しめるアクティビティやアウトドア情報を発信するインフォメーションセンター。サイクリングや登山、カヌーやラフティングといった様々なアクティビティツアーのご紹介や手配、道具のレンタルなども行なっている。
■営業時間
8:30 ~ 18:00
■所在地:
長野県飯山市大字飯山772-6 飯山駅1F
■電話:0269−62−7001
森山伸也(もりやましんや)
5年前に北信の山村へ移り住んだアウトドアライター。北欧のロングトレイルを日本にはじめて紹介したひとりで、著書に『北緯66.6° 北欧ラップランド歩き旅』(本の雑誌社)がある。
Twitter:@moriyamashinya
Instagram :@shinya_moriyama