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雪山の異種格闘技戦!? 十勝岳アドベンチャーレース参戦レポート

2018.05.17 Thu

伊藤大輔 ライター、編集者

 はじめまして。ライターの伊藤大輔です。もともと音楽系を専門にしていた身ではありますが、ランニングやスキーなどのスポーツ、アウトドアが好きなこともあってAkimamaにも書くことになりました。

 いま、ぼくは東京と北海道東川町の二拠点生活をしています。東川町はウィンタースポーツが好きで、旭岳を滑るついでに寄った場所。大雪山系の山々が一望できる景観に加えて水もおいしい。それでいてカフェや洋服屋さんもあって住みやすそうだなと、なんだか気に入ってしまって、翌年にはアパートを借りて、わりとノープランで住み始めました。

 東川に拠点をつくってちょうど5ヵ月、車に生活道具を積んで北海道をめざしたドタバタの引っ越し劇、旭岳ロープウェイで憧れのスキーヤーと出会っていっしょに山にいく話……などなど、生活がガラっと変わるタイミングはおもしろいエピソードも生まれるもの。そのなかでも、“これは濃かった”話を書いてみます。

前日の夜は雪がちらついた十勝岳温泉付近。翌日は快晴で気温もあがり、朝からから雪もザラメ状態に。写真はアドベンチャレースのスタート地点、横断幕が渋すぎです。

 4月29日に十勝岳の麓で開催された十勝岳アドベンチャーレースという大会に参戦しました。去年からはじまったという、まだそんなに知られていないマニアックなレースを知ったのは、東川に移住して間もないときのこと。

 上富良野町・十勝岳温泉の凌雲閣という温泉宿に行ったときがきっかけでした。凌雲閣は十勝岳連峰への入り口として登山・山スキー客に愛される、歴史のあるお宿。ぼくはそんなことも知らず、東川から車で行ける範囲でいい温泉を探しているときに、たまたまこの場所にたどり着きました。そのときに最近、東川に引っ越してきたことや、スキーやトレイルランニングが好きだという話をするうちに仲よくなり、このレースに誘われたのでした。

レーススタート前の様子。クロスカントリースキーからテレマーク、山スキーとスタイルはさまざま。スタートが近づくにつれてみなさん真剣なまなざしに。クロスカントリースキーで参加する選手の足元と、山スキーの選手の足元。この日は気温も上昇したのでTシャツ&短パンで参加する人も。

 最近は雪上を駆け上がったり、駆け下りたりする、ヴァーティカル・レースもありますが、このアドベンチャー・レースは十勝岳連峰の一角、三段山を舞台に雪山を登って下るタイム・トライアル方式で、登り・滑走の道具はなにを使ってもOK(もちろんモービルとかは自力じゃないのはダメです)という、これまでにみたことのないルール。

「え、めっちゃおもしろそうじゃないですか、出ます!」と、即参加表明を出しました。当日、スタート地点にはクロカンスキーヤー、テレマーカー、山スキーヤーと、さまざまなジャンルの人々が集まりました(ぼくは一般的な山スキー道具で参戦)。開会式の挨拶でも、登りにアドバンテージのあるクロカンが逃げ切るか、それとも下りでスキーヤーがクロカンを刺すのか……なんて話題がある、加えて救護体制も本格的で、救護班のリーダーのかたが「行く手を阻む人がいたら倒してもらってかまわない、もしケガをしたら私がピステンで助けに行きます!」という台詞を聞いて、あ、これはある種、雪山の異種格闘技的なガチンコ徒競走なんだ……と、今更ながらに分かったわけでした。

 肝心のスキーの腕前は月並みだし、得意なことといったら一般の人と比べたらちょっと足が速いくらいなものなんだけど、このレースに出て大丈夫なんかいな……なんて考える間もなく、レースはスタート!

レースのコースマップ。スタートからしばらく緩斜面を登り、CH1に向けてグッと直登、その後もCH6までは延々と登ったら、ここから下りポイントなので山スキー組はシールを剥がし、CP7へ向けてトラバース。そうしたら一気にダウンヒルというコース。全長3kmちょっと、標高差は300m程度。

 コースは三段山の入り口でもある白銀荘の駐車場前をスタートして、8つあるチェックポイントを通過し、ふたたび白銀荘前に戻ってくるというもの。事前に標高差や距離のアナウンスはないものの、手持ちのGPSウォッチで計測したところ、距離が3kmちょっとで、標高差は300mといったところ。この数値だけを見たら、たいして辛くないのではと思うかもしれませんが、選手の方々はかなりの本気モードでついて行くのに必死。けっこうペース早くないですか?……と思って腕時計を見ると、ふだん、自分がBCでハイクアップするの倍以上のペース。それに加えて当日は気温も高くて、登りはじめて200mくらいで、額から汗がしたたり落ち始める。“あれ、このままだと脱水になりそうでマズいな”と思いながらも、先を行くスキーヤーに遅れたくない一心で、ひたすら登る。

スタート直後。緩斜面の登りをリードするのは、もちろんクロカンスタイルの選手。CP1(写真右手)に向けての斜度もキツくなるポイント。各チェックポイントにはスタッフがいて、そこから次のポイントが見えるように配置されている。

 6つ目のチェックポイントまで、ひたすら登り続けるうちに、身体のコンティションが落ちついてきて、下りのポイントでシールを剥がして滑走モードに切り替えました。剥がしたシールにていねいにシートを貼っていたら、後続の選手に先を越されてしまう。ああ、シールなんて適当にザックに突っ込めばよかったと、チョッカリで追いかけるも、その後にチェックポイントを見失いそうになり、痛恨の減速。。。

 その後は最低限のターンだけしつつ、ぶっ飛ばす。そのあまりに必死な姿に、ゆっくりと山登りをするグループに「いけいけ! がんばれ兄ちゃん!」なんて、ありがたい応援をいただき、その後はひたすら直滑降。友人が急遽大会のカメラマンをやっていて、声をかけてくれたらしいのですが、まったく耳に入りませんでした(笑)。

CP6に向けてのハードな登り。ここからは下りなので、あと一息。ペースを上げて汗が噴き出る。一位の選手を追い、クロカンスキーを脱いで斜面をダッシュで駆け下りる、まさに韋駄天スタイル。アドベンチャーレースの真骨頂だ。シールの脱着に時間を取られ、必死で先を追う筆者。写真を撮る友人が声をかけてもまったく無視。顔が真剣過ぎて、いま思い返すだけでも、笑えてきます。

 結果、37分48秒でブービー賞。

 このタイムが早いのか遅いのかよく分からないけど(今年はハイレベルだったらしいです)、40分弱の運動とは思えない(10,000mの全力走くらい疲れた!)疲労困憊っぷりに驚きながらも、必死で頑張ったレース後にしか得られない充実感に満たされる。これまでこんなにハイペースでシール登行をしたこともなかったし、登った標高を直滑降でぶっ飛ばすなんて贅沢過ぎる滑り方をしたことがなかったから、とっても新鮮な体験でした。

 しかも救護班がレース後に、マッサージをしてくれるという嬉しい特典もあり、かなり充実したレースでした。ちなみに今年の一位はクロカンの選手で22分17秒(昨年は超軽量のBCスキーヤーが優勝したそうです)。来年はどのスタイルの選手が勝つのでしょう。クロカンスキーヤー、テレマーカー、山スキーヤーと大人同士がガチで競いあったこの大会、ゆっくり楽しむファンなレースもいいけど、こういうマジの徒競走も楽しいものですね。

 ちなみに来年は三段山のピークまで登って下るチャレンジャー向けのコースとファンレースのふたつのコースが用意されるとのこと。この記事を読んでおもしろそうだなと思った人は、ぜひ出場してみてください。

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