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夏休み本番! 川の事故から子供を守る7つの鉄則
2019.07.30 Tue
藤原祥弘 アウトドアライター、編集者
野外活動を生業にしていると、否が応でも見聞きするのが水の事故。フィールドで目にしたり、友人や知人が遭遇することもある。今のところ自分は深刻な事故の当事者にはなっていないものの、水際に立つたびに「次は自分の番かもしれない」と考える。
自分の行為の危険性を認識しつつ野外に出て、事故に遭うのはある程度仕方がない。野外活動は自分の行為にわが身で責任を負うことに醍醐味がある。しかし、危険性を認識せずに事故に遭うのはもったいない。とくに自身の安全を自力で確保できない子供には、危ない目に遭ってほしくない。
夏本番を前に、元・リバーガイドで一児の父として、子供を水の事故から守る鉄則をシェアしておきたい
1.何はなくともPFD(ライフジャケット)を着せる
最近ようやく一般にも広がってきたのがPFD(パーソナル フローティング デバイス。いわゆるライフジャケット)の装着。よほどの白波が立つ場所でない限りPFDを着ていれば水面より上に頭部が出るので、呼吸が確保される。家族づれが遊ぶ環境での溺水事故のほとんどは、PFDを着用していれば防げるだろう。
PFDを着ていれば荒波に引き込まれて深みにとらわれることがなく、救助にあたる側からずっと視認できる。これは大きな安心だ。何より呼吸が確保されると、流された本人も周囲も冷静さを保てる。指示も聞こえれば、声もあげられる。
おすすめは、名の通ったアウトドアメーカーの子供用モデル。無名メーカーでは浮力やパーツの強度が足りないこともある。
小児用は必ず股の下をくぐらせる股紐があるものを。小学生の高学年以上は大人と共用できるモデルもあるが、肩口を強く上に引き上げてもすっぽ抜けないものを選びたい。
価格はアウトドアメーカーのものが6000〜8000円程度。子供が成長したらネットオークションで売ってしまえば2〜3割は取り返せる。実質の出費が4000〜5000円で子供の命を守れるのだから、安いものだ。
2.足元は泳げて走れるサンダルを
足元は水切れがよく、かかととつま先が保護されているものがベスト。サンダルでもシューズでもよいが、ウォーターシューズやウェットブーツはソールが薄く、いざという時に踏ん張れないことがある。強い水流に揉まれると脱げることがあるので、足首が絞れるものを選ぶこと。
3.服装はショートパンツ&ラッシュガード
体を保護することを考えれば、薄手のウェットスーツの上下が理想だが、まずは水切れの良い化繊のショートパンツとラッシュガードを用意しよう。体の線に沿ったデザインなら、化繊のロングTシャツでもラッシュガードと同様の効果が得られる。ラッシュガードを身につけていると、岩などに当たったときに緩衝され、強烈な日差しも遮れる。ラッシュガードとショートパンツは、安いものでも問題ない。
写真では紺色のラッシュガードを着ているが、本当は身につけるものは蛍光色の黄色やショッキングピンクのほうがいい。万が一、水中にとらわれたときに発見しやすい。
また、濁りが強い日に水中にとらわれると、視認性が高いウェアでも目視で探すことができなくなる。濁っている日は川に入らないようにしたい。
4.子供と川を確認し、保護者がまず泳ぐ
川に着いたら子供と一緒に川を確認する。危険な場所、流された時に上がれる場所を子供と共有し、子供を遊ばせる前に保護者が先に入って状況を確認する。
水温や水流の強さ、水中の危険物などは入ってみないと実感ができない。そのときに自分の体調や装備、能力に不安を感じたら、子供を遊ばせる準備ができていない。大人が不安を感じるような場所・状況で、どうして子供を安全に遊ばせられるだろうか?
そのため保護者の装備も本気で水に入れるものにしたい。泳ぎやすい化繊のシャツとショートパンツを身につけ、足元はしっかりホールドできるサンダルを履き、水に自信がない場合は、大人もPFDを身につけたほうがいい。
夏に起きる水難事故のうち、事故に遭った子供を助けようとした保護者が亡くなるパターンは相当数を占めている。
5.流れてもすぐに確保できる場所で遊ぶ
川遊びをする前にチェックするべきは遊び場の安全性。「他にも人がたくさんいるから」は、その場所の安全性を担保しない。
上の写真で見て欲しいのは、左奥にいる家族づれと右奥の瀬。家族づれが遊んでいるのは、瀬のすぐ上流側だ。
一見、この場所は川幅が広くて浅いので子供を遊ばせやすいように思えるものの(実際にここでは数十人が遊んでいた)、子供の居場所から5mも本流側に出れば、大人でも足を取られる水流がある。そして、その先には50m程度の荒瀬が続いている。保護者がほんの数秒眼を離した隙に子供が本流側へ踏み込めば、子供は浮力体なしで瀬に揉まれることになる。
瀬や堰堤の上流側には流れの緩やかな淀みや浅瀬が形成されるが、こんな場所は遊び場所としては適切ではない。その場所は緩やかでも、ひと度流れ出したら、ピックアップの猶予もなく強い流れや大きな落差に揉まれてしまうからだ。
「危ないところまで入らせないから大丈夫」はいくらか確率の低いロシアンルーレットをするようなもの。子供を遊ばせるなら、流れに取られない場所か、流れにとられても危険な場所にさしかかるまでに引き上げられる場所がいい。
ここだけは避けろ!その1 水制の上流側 水制とは水の流れを減衰させる河川中の構造物。川がカーブして川岸を削る場所や、堰堤の下流側などに入れられている。この構造物の隙間に水を通すことで流れを弱めるが、流れに乗った人にとっては、川の中に巨大な茶こしがあるようなもの。運が悪ければ、水制の隙間に吸い込まれてしまう。
ここだけは避けろ!その2 増水時の堰堤 河川のなかの構造物で危険性が高いのが堰堤。増水時には、堰堤の下には上流へと逆巻く循環流が生まれる。
堰堤は川を同じ高さで横断するため、堰堤の下流側には均一な循環流が生み出され、一度とらわれると自力での脱出が難しい。また渦巻く白泡はPFDから浮力を奪うので、泡から顔が出せず溺水することもある。そのメカニズムは以下の動画わかりやすい(11:44のあたりから)。
https://youtu.be/XsYgODmmiAM
6.低体温症に注意 夢中で遊ぶ子供は自分の体が冷え切っていることに気づかない。体が冷えると体がこわばり、息も続かなくなる。いざというときに体が動かないと溺水につながる。晴れている日でも水温が低い川では容易に低体温症になるので、定期的に子供の顔色と体温を確かめたい。
体が冷えていたら、ラッシュガードを脱がせて水気を拭き取り保温する。速乾性に優れる化繊は、風を受けると気化熱で体温を奪っていく。体温を上げたいときは化繊のシャツは脱がせたほうがいい。
晴れた日は、地面に寝っ転がって岩の熱で体を温めるのも効果的。保温するよりも早く、体温を取り戻せる。
7.ボディラフティングで水に親しむ 一生涯水に入らなければ、水難事故に遭うことはない。しかし、ひとりの人が一度も海にも川にも入らずにいられるだろうか? 積極的に水と交わって水への対処法を身につけることこそ、いちばんの危険回避術だと思う。
水と交わる道具として活躍するのがPFD。PFDは身を守るだけでなく、川遊ぶ道具としても優秀だ。ある程度水深があり、流れもゆるやかな瀬では、PFDを浮力体にした川下り(ボディラフティング)が楽しい。
ボディラフティングでは、下流側に足を向けてつま先を水面にだし、両手でバランスを取るのが基本の姿勢。障害物が目の前に来たら、足で蹴って回避するか、そのままくるりとうつ伏せになり、積極的に泳いで避ける。
水中には複雑に積み上がった石や流木が沈んでいることもある、体を縦にするとこれらの障害物に足がとらわれる危険性がある。流れの中では体を起こさないことが鉄則だ。
ゆるやかな流れで練習しているうちに、流れを読んで、泳いで危険を回避する力が身についていく。水面に現れる波の様子から水流の強さや川底の地形を想像できるようになる。
人の力と比べて水の力は圧倒的だ。打ち勝つことはとてもできない。しかし、流れを読めるようになれば、水の力をうまく利用して危険を回避することができる。
※編集部注:ボディラフティングは挑戦する場所によってはたいへん危険。子供と実践する前に、保護者がまず技術を身につけましょう。
おまけ
一連の撮影をした日、川は台風一過で普段よりも増水していた。撮影現場の川に遊びに来ていた約40人の家族のうち、PFDを着ていたのは4人。両親たちの足元はみなビーチサンダル、という状況だった。誰かの子供が水流にとらわれ、瀬で数十m揉まれ、下流の淵に沈んだときに対応できる人はいなかっただろう(あなたは、秒速2mで川を流れる子供を追いかけ、ビーチサンダルでゴロタの川岸を走り、3m潜って確保する自信があるだろうか?)。
川のような死亡事故に直結するフィールドでは、用心しすぎるということはない。その場で起き得る最悪の事態を思い描き、それに対応できる装備と能力があるかを常に考える癖をつけたい。
「ま、俺ぐらいになるとこんぐらいの瀬はPFDなしでも華麗に泳ぎきるけどね!」と息子を泳がせるまえに見本を見せたら、川底の石に右膝を強烈にストライク。慢心、ダメ、絶対!