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気候危機から「私たちの冬を守る」には。POW JAPAN 小松吾郎さん、高田翔太郎さんに聞く。明日からすぐにできること。
2020.04.01 Wed
「Protect Our Winter(私たちの冬を守ろう)」というメッセージを掲げ気候変動に対する警鐘を鳴らすこのムーブメントは、スノーコミュニティを中心に賛同者が増え続け、今や世界各国にも関連団体が発足し、活動の幅を広げている。
日本でも昨年2月にPOW JAPAN(一般社団法人 Protect Our Winters Japan)が発足。1年間の草の根的な活動を続け、ストレートなメッセージは、さまざまな形で、危機感とともに確実に広がりを見せている。そこで、代表を務める小松吾郎氏と事務局長の高田翔太郎氏に、これまでの活動の経緯や手応えなど、ウインターシーズンも終盤となる3月、直接インタビューする機会をいただいた。POW JAPANの活動の狙いや、活動に対する反響や効果など、「私たちの冬を守るため」に、誰にでも、すぐにできることなど、今回はフィールドからのリアルな声として、インタビューのほぼ全文を紹介する。
POWの成り立ちなどについては、POW JAPANのウェブサイトにも詳しく書かれているので、以下をご参照ください。
POWとは
またAkimamaでは以前もPOW JAPANの活動を紹介しているのでそちらもご一読いただきたい。
冬がなくなったら、あなたはどうしますか? POW JAPANが起こす、気候変動を解決するムーブメントとは!?
左)事務局長高田翔太郎さん、右)代表の小松吾郎さん(画像提供:アンテナ白馬)
Akimama(以下「A」) POWは2007年にアメリカでプロスノーボーダーのジェレミー・ジョーンズが中心となって立ち上がった団体と聞いていますが、発足以降、世界ではどのような広がりを見せているのでしょう?
小松 スノーボーダー、スキーヤーを中心に賛同者はどんどん増えているのはもちろん、アウトドアのつながりの中でスノーボードやスキーをしない人たちにも飛び火して、トレイルランナーやクライマーといった人たちが立ち上げたPOW TRAIL、POW CLIMBという団体もあります。
高田 POW CLIMBは昨年、POW TRAILはもっと前から活動しています。アメリカのトレイルランに関して日本と状況が違っている点は、公有地が火力発電のための石炭や石油などの採掘などで接収されてしまい、それによってトレイルが失われ、フィールド自体が無くなる、という状況が起きているそうです。地球温暖化、気候変動の一因でもある火力発電からの脱却という意味でも、トレイルランナーにも密接なつながりがあったので、POW TRAILは割と早く発足したそうです。
A つまりフィールドの保護運動は、脱炭素(カーボンオフセット)につながると。なるほど、興味深い広がりですね。現状、POWの活動は世界中で何ヶ国ぐらいに広がっているんでしょう?
小松 日本が13番目で13ヶ国ですね。
A 賛同者の人数というのは?
高田 サポーターは約14万人ぐらいと言われていますが、正確な数は発表されていません。ただ、参考になるのはPOW USのSNSフォロワー数がFacebookで11万人、Instagramで19万人。アメリカだけでもそれだけの数の人たちがPOWの活動に関心を持ってフォローしています。
A POW JAPANを立ち上げた経緯というのは?
小松 もともと僕自身、POWが発足するずっと以前から環境問題には関心があって、何とかしたいという想いはありました。ただ、プロスノーボーダーとして、そのことだけを前面に押し出して発信しても、うまく伝わらないなと思っていて……。そこで自分の活動の中で、少しずつ発信していくことから始めました。例えば自分たちでスノーボード関連のフリーペーパーを作るときに、環境のことに触れた記事を入れるとか、リフトを使わないで遊べるイベントを開催して、そこで楽しさを伝えながら、それが実は環境の負荷を下げることにつながってるんだよと伝えたり。そんな活動をしていたので、周りからも少しずつ(吾郎は環境問題に取り組んでいると)認知されるようになっていたようです。5、6年ぐらい前に白馬のガイドカンパニーで働いていたイギリス人が、彼も環境問題に関心があって、いろいろ調べていたらPOW USを見つけ、「POWを日本でも始めたい」という想いから、一緒に始めてくれる日本人のパートナーはいないかと探しているときに、僕の名前が挙がったというのがきっかけですね。
僕自身も、ジェレミーと交流があったので「日本で吾郎がやるなら」と後押ししてくれました。そこから数年は、実際にどうやって運営しようかと模索したり、立ち上げの中心人物だった彼が、イギリスに帰国しなければならなくなったりと、いろいろ難しいハードルはありました。本当に手探りで、数年が経過していくうちに、話がつながり、人脈が広がっていくなかで、(高田)翔太郎に出会い、仲間が増え、サポートしてくれる人も増え、そして昨年の2月にPOW JAPANを立ち上げることができました。
A 白馬のローカルの人たちが中心になって?
小松 結果的にそうですね。もちろん他のエリアにも賛同してくれる人たちがいるんですが、事務局として活動しているのは、白馬・大町エリアの人がほとんどですね。実際、エリアを広げれば、広く活動しているように見えるかもしれないですが、有効な活動実績にはつながらない。白馬には世界中からお客さんが来はじめているということもあり、白馬に活動を集中して、白馬が変わることに意味があると思っています。同時に白馬の町もスキー場もいい方向に変わらなければという意識があります。そこと一緒にやっていくことで、カタチを作るということに集中しています。モデルケースとしてのカタチが、他の地域にも広がっていけばいいなと。
A 白馬村が昨年、長野県に先駆けて気候非常事態宣言を発表したというのも、POW JAPANの影響があったのでしょうか?
小松 そういうふうに言っていただいています。昨年5月に気候変動に関するシンポジウムを白馬村で開催しました。それが大きなきっかけになったのかもしれません。白馬村の村長もお招きしていたんですが、シンポジウムに登壇してくれたアメリカのベイルリゾーツで環境サステナビリティ部門のマネージャーとして活躍されたルーク・カーティンさん(現アメリカ合衆国ユタ州パークシティ環境サステナビリティ部門マネージャー)という方が、マウンテンタウンが集まる環境サミットへの招待状をステージで白馬村の村長と県知事に渡してくれたんです。そこからすごく意識していただいたようです。白馬がそうなっていかなければというのは、村長さんだけじゃなく、村全体の流れとしてもあったので。実際に気候非常事態宣言を出してくれました。
A 行政を動かしたっていうことですよね? 活動として素晴らしいことですね。
小松 流れがうまく合致したということでしょうね。僕らが思っていることを行政も思っていたし、POWに賛同してくれている地元の高校生たちの力もあったし、みんな感じていたんですね。「雪が無くなったらヤバイ」っていうのは、彼ら高校生自身の近い将来の話でもあり、町の共通認識です。それには異論がなかったということですね。
高田 実際、POWだけじゃなくて、地元の高校生たちだったり、地元住民、スキー場、いろんな角度からの大小のプレッシャーがそうさせたんだろうなとは思います。POWのシンポジウムがきっかけだとは言ってくれてはいるんですけどね。
A 自分たちの未来のために、高校生が活動に参加しているっていうのがいいですね。
小松 9月に開催されたグローバル気候マーチの時に、僕らは東京でのマーチに参加することになってたんですが、地元の高校生たちが白馬でもやりたいということになって、事務局メンバーが半分残って高校生たちと一緒に白馬でも開催しました。
白馬村でのグローバル気候マーチは、地元の高校生を中心に老若男女多くの人たちが参加した
A その他の具体的な活動として、白馬のスキー場を対象とした勉強会などもされているとか。具体的にはどのようなことを?
小松 シンポジウムの後に、いろんなスキー場の経営者の方とか索道のトップの方々とルークさんとの交流会を開いたんですが、彼が実際にやってきた具体的な事例を語っていただきました。僕たちも聞いていて面白かったのは、大規模な設備投資をしてということではなく、細かいことの積み重ねがあればすぐにできるということでした。例えば照明をLEDに変えるとか、から始まり、圧雪車にGPSを搭載してどのオペレーターがどの場所を圧雪したらどのくらい燃料を使ったかなどをデータ化して効率を改善したり、リフトの暖機の効率を見直したり、お金をかけなくても、もともとあるリソースを、いかに改善するかという施策なんです。
高田 これらの施策はスキー場にとって、コストの削減につながることになる、というのが大きいんですよ。「環境にいいことしましょうよ」だと動かないんですが「これがコスト削減につながりますよ」「お客さんが応援してくれますよ」「PRになりますよ」というと動いてくれるんですよね。
A そこですね。環境施策と経営改善が両輪になっているから経営サイドも興味を持ちますよね。
小松 ちなみに、先ほどの圧雪車やリフト暖機の効率改善で実際に30%のコスト削減しているらしいんです。これってけっこう大きな数字ですよね。ほとんどのスキー場が80年代のバブルの頃のやり方と変わっていないと思います。データを蓄積して精査することで、さまざまな効率化の余地が見えてくることに気づいていない。あと、圧雪の効率化の成績をオペレータたちに公表したら「オレはもっとできるはずだ」というふうに自然に競争意識が芽生えて、さらにうまく回っていったそうです。
高田 ルークさんが言っていたことですが、サスティナビリティの取り組みのメリットは3つあって、ひとつはコストの削減と、ふたつ目は働く人のエンゲージメント、つまり「この会社は環境にいいことをしているから私はもっとここで働きたい」という意欲が高まるということと、あともうひとつはゲストのエンゲージメントが高まるということ。この3つを重要視しているそうです。
A 結局、ユーザーがスキー場を選ぶ際に、そういう選び方をするようになりますよね。
小松 実際そうみたいで、マーケティングには一切お金をかけずに、環境に配慮した取り組みを打ち出すだけで、お客さんが増えているというスキー場がいくつもあるそうです。
高田 あと自然エネルギーで電力を完全に賄っているスキー場もいくつかあるんですよね。
A これからのPOWの活動は多岐に渡ると思うんですが、まずはスキー場のサスティナビリティデベロップメントの方向づけがあるということでしょうか?
小松 そうですね。それがひとつの柱ですし、それができれば町自体を変えていく動きになっていくんじゃないかと思います。まずは白馬で。スキー場だけが変わるんじゃなくて、町の人たちがそれを誇りに思ってやっていこうという動きが重要なんじゃないでしょうか。海外のスキーリゾートの場合、ビジネスの力が非常に大きいから、スキー場が変わるっていうことは、町が変わるというのと同義なんです。でも日本の場合は、スキー場だけが変わったとしても町自体は同時には動かない。だからこそみんなを巻き込んで、みんなでやっていくことが重要なんです。それがPOWが媒介となってできることなのかなと思います。スキーヤー、スノーボーダーから、そして雪に携わる町の人たちに、もちろん雪に携わっていない人にも、ちゃんと伝えてみんなで変わっていくことが大切だと思っています。
A 気候変動に対してアクションを起こすっていうことは勇気もいるし、今の自分たちの行動すらも変えていかないと、ただのお題目になってしまう。これを読んでいる読者の人たちにも、気候変動に危機感を感じている人はたくさんいると思いますが、まず私たちが明日からでもできるアクションってありますか?
小松 例えば、今は自分で電力会社を選べます。再生可能エネルギーだけの会社もあるので、まずはそれに切り替えること。これって実はすごく簡単なんですよ。すぐに誰にでもできて、重要なこと。影響力があることなんですよね。
高田 再生可能エネルギーへの切り替えって、すごくいいことだと思います。手続きは10分~15分でできて、シミュレーションしてみたら料金が高くなる人もいるんですが、安くなる人もいて、概ねそんなに変わらない。だったら変えたほうがいいし、それによって使う電力でCO2は排出されないので、これは一番効果的かもしれないです。
このようなフライヤー、パンフレットも用意されている
A スキー場に車で来る際、乗り合いで来ることを推奨したりというのもありますよね? 白馬のいくつかのスキー場で、乗合専用の優先パーキングがあるとか…。
小松 カープールですね。1台に3名以上で乗車してスキー場に来場する方優先の駐車場で、ゴンドラのすぐ前に駐車できる。
高田 「みんなで乗り合いで来ましょうよ」って提唱してもなかなか実行できないんですけど、3人以上で来るとメリットがあるという仕組みを用意することによって、自ずと環境にいいことになる。意識に働きかけるのも大事なんですけど、それ以上に仕組みを用意してあげることで変わっていく。こういうことはどんどん考えていきたいですね。
A POW JAPANオリジナルですか?
小松 POWのUSでもやっていることで、それを日本でも紹介して導入していただいたものです。意外とすんなり導入されてびっくりしたくらいです。
A まずはできることからひとつずつでもってことですよね。
高田 他にも色々とできることはあると思うんですが、POWの活動をSNSなどでフォローしていただくこともひとつのアクションです。自分が環境のために何をすべきかって、常に意識していることってむずかしいんですよ。でも定期的にそういう情報が入ってくる接点を作ってもらえると、その都度気づいてもらえる。僕らはSNSは運用してるんですけど、今後はメールニュースなど定期的に接点を持てる場を増やしていく予定です。
A ここ数年の気候の変化って、実際どのように感じていますか?
小松 正直なところ、ここ5年くらいは気候変動を実感するような天候が続いています。2015/16シーズンが今年に近いような小雪で、「こんなの50年に1回だ」って言われてたんです。その翌年、翌々年はシーズン初めこそ雪が少なかったものの、中盤から降雪があってそこそこいいシーズンになったんですけど、また今シーズンがこんな状況で「あれ? 50年に1回じゃないじゃん」みたいになってるんですよ。
雪だけで見てもそうですけど、去年、一昨年と甚大な被害をもたらす台風が2年連続とか1年に2回とか来ていて、もちろん広島や長野であったような大雨の被害も毎年のようにあって、もはや何の気候変動がないなんて言えない状況ですよね。僕ら雪の視点で見てもそうだけど、それ以外の視点から見ても「違うよね?」ってわかると思うんです。
高田 僕はサーフィンもするんですけど、今まで日本海側で冬にサーフィンする時、ブーツ、グローブとキャップ着けるんですが、今年はグローブ使ってないです。これは僕の体験ですけど、他のエリアのサーファーたちもみんな水温が高くなってるって言うんですよ。実際にサーフショップでブーツ、グローブっていうアクセサリーが売れなくなってるとか……。そういう自然の中で遊んでいる人たちは、水だとか雪だとかの変化をリアルに肌で感じていると思いますね。アイスクライミングしてる人なんかもっと強烈に感じてるもしれませんね。
A POWはたまたまそれが雪・冬っていう視点なだけで、実際はつながってるんですよね。
高田 こうやって体感で感じていることもそうなんですけど、POWに関わるようになって科学的なデータとかも調べるようになって、それが一致してることが一番の危機感ですね。ただ自分が感じているだけだったらこの先どうなるかはわからないですけど、地球の平均気温が上昇傾向にあるという状況は、科学的なデータの裏付けでわかる。正直怖いですね。そういうデータは、NASAや日本の気象庁も公表しているので誰でも見ることができるんですよ。
世界の冬(前年12〜2月)平均気温偏差の経年変化(1892〜2020年:速報値)
出典:気象庁ホームページ (https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/win_wld.html)
高田 僕ら雪の視点から気候変動の問題に取り組んでいるんですけど、もっと大きなことを心配してるんですよ。別に滑るために“冬を守ろう”って言ってるわけじゃなくて、災害のことも心配だし、食糧のことも心配だし、そこは繋がってくる。僕らは雪を見ててそれに気づいたから行動しているんです。
A まさにそこが重要ですよね! 今後、白馬以外での広がりなど、教えていただけますか?
小松 こちらが選ぶというものではないと思うんですが、やはり雪の町がキーになると思っていて、北海道のニセコ。ニセコは環境モデル都市になっていて、色々ないい取り組みをしていて、お互い連携が取れることをやりましょうといった話はしています。やはりスノータウンのメッカという点では影響力があると思います。ただ、ニセコにこだわってるわけじゃなくて、西の方のスキー場など、もっと切実なところもあるじゃないですか。そういうところといくらでもこの先、活動が広がっていくことはあるんじゃないかと想像しています。
高田 エリアとかリゾートっていうところもそうなんですけど、僕らは、まだまだスノーコミュニティで仲間を増やさなければいけないなと感じています。白馬である程度具体的な成果は出てきてはいますけど、全国のスノーコミュニティに浸透しているかというとそうでもなくて……。仲間を増やすことが、今後、政治的な意見を社会に発信していく時に、強さが変わっていくと思っています。コミュニティの啓蒙活動とか、仲間を増やす活動も並行してやっていかなければいけない。
A Akimamaもアウトドアメディアとして、いろんな角度で皆さんの活動を応援して行きたいと思います。本日はありがとうございました。
今回のインタビューを通してあらためて感じたことは、当事者意識を持つことの大切さだ。雪不足は雪を観光資源としている町やスキーやスノーボーダーだけの問題ではなく、大きな気候変動のいち現象にすぎない。気候変動に起因する気象災害、食糧難といった危機は、私たちのすぐ身近なところまで迫っている。だからこそ、自然と向き合う最前線にいる私たちが、それに気づき、当事者意識を持って少しずつでも行動を変えていくことに意味がある。
現在、世の中はCOVID-19の影響で未曾有の危機に直面しているが、人類の叡智で乗り越えられると信じている。じわじわと迫り来る気候変動という危機も、必ずや乗り越えられると信じたい。
ぜひ、Akimama読者の皆さんも、身近なことから少しずつでも動き始めてみていただきたい。私たちが遊ばせてもらっているフィールド、愛すべき自然、そして地球を守るために。
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