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【特別企画】知られざるアウトドアの楽園・台湾 第二の高峰「雪山」に登ってきました<下山編>

2017.01.18 Wed

宮川 哲 編集者

 雪山主峰、3,886m。われらがYorozu alpine clubの登頂日時は、12月5日の午前10時36分だった。 

(山頂までの詳細は<登頂編>以前の記事を参照)

 山頂直下3,800mの最後の稜線を登っているときに、前を行く地元の若者たちの後ろ姿に出くわした。まだ距離はあるものの、彼らのテンションはかなり高いのがわかる。空気も薄いこの標高だというのに、ハシャギ方が半端ない。台湾の言葉が矢継ぎ早に飛び出している。

 しばらくすると、頭上から彼らの大歓声が降ってきた。ということは、山頂はもうすぐそこだ。ほどなくして3,886mの高みへ登ってみると、彼らは20代と思しき男3人女1人の4人パーティだった。しかもイケメンぞろいで、女の子もかなりカワイイ。

「雪山主峰」と彫り込まれた山頂の石碑に立ち、思い思いのポーズを決めている。ヨロコビが大爆発している具合だ。そして、人のヨロコビとは伝染するようで、登頂成功の気分も相まってか、こちらもテンションが急上昇していく。そして、雪山山頂は突然の日台友好の舞台となっていた。ともに登頂を褒め称え、ガッツポーズにハイタッチ。すると、横から耳慣れた音が。

 シュポッ。
 
 ビール好きなら誰でもあの音には反応するものなのか、ほぼ同時にわれらの全メンバーが振り向いた。台湾のイケメングループは、なんと3,886mの空の下、祝杯を上げ始めたのだ。いつのまに取り出したのか、手に持っているのは「雪山啤酒」という銘柄の350㎖缶。啤酒とはビールのこと。なるほど、雪山の山頂で雪山啤酒でカンパイというわけか! なかなか粋な趣向である。
左の写真が地元台湾の若者、イケメン&美女チームの山頂記念写真。そして、われらがYorozu alpine clubの面々が登頂すると、なんと雪山啤酒の差し入れが。そして、中央の写真と相成り、右側のカットで日台友好の登山チームのできあがり! いやはや、山頂のサプライズでした
 おぉ、その手があったかと、われらもやんややんやの大喝采。お前らおもしろいこと考えるなー、その重たいの持ってきたのかーなんて会話を交わしていたら、イケメンのひとりがおもむろに、まだ栓の空いていない雪山啤酒を差し出している。

 思わず、え〜、くれるの!? と素っ頓狂な声を上げてしまった。彼らは雪山啤酒をたくさん担ぎ上げたらしく、バックパックには6本パックが見え隠れしている。考えてみると、とてつもなくスゴいことである。自分で担ぎ上げたわけでもない重たいビールを、3,886mの高みで恵んでもらえるなんて。

 こんなことがあるとは! うれしい〜とテンションマックスとなり、シュポッとあけて口をつけてみる……世の中にこれほどまでにうまいものがあったのだろうか。金色のシュワシュワが五臓六腑に沁みわたる。

 雪山山頂で起こったサプライズに、驚きと感謝の念があふれ出してくる。全員で握手を交わし、主峰の石碑で日台メンバー合同での記念撮影。いやぁ、登ってきたよかったなぁ、生きてていてよかったなぁ、としみじみと山頂からの景観を楽しみつつも……イカン。ほんの少し飲んだだけなのに、かなり回ってしまう気がする。気圧が低いので酒が回りやすいのは当たり前なんだけどね。本当にクラァっとしてきそうだったので、彼らに感謝しつつも、われらは早々に下山を開始することに。

 聞けば、彼らも三六九山荘泊ということなので、またあとで会えるしね。では、再見! と、日本チームは長居をせずに山頂を後にした。しばらく下ってからでも、頭上からは声が降ってきていたので、彼らはまだまだ極上の宴会を続けるつもりらしい。なんとも、パワフルな連中だ。やるなー、台湾の若者クライマー。

山頂を後に、下山を開始。広大な景色のなか、カールの底をめざす。トレイルは山稜の縁に沿って続いていく
 さて、下山開始である。とはいっても、この帰りは登りと同じルートを三六九山荘まで下りるだけ。コースタイムでも2時間半くらいだったので、たぶん、2時間も掛からない。雪山北峰、大覇尖山と稜線上からでないと見られない山々に後ろ髪を引かれつつ、カールの縁をゆっくりと歩く。

 カールの底までは20分も掛からなかった。そして台湾冷杉の黒い森を過ぎ、三六九山荘前の大草原に出たのは、それから小一時間ほど。一度通った道だったからか、あっという間に眼下に小屋が見えている。こんなに近かったっけ? と思うほどだったけれど、登頂後の余裕もあったのか、たしかに足取りは軽かった。

 そのとき、登りではあまり気にならなかった景色が目に飛び込んできた。草原と黒い森の境目となるところに、枯木がたくさん立ち並んでいる。どこかで見たことのある風景だと思いを巡らせてみると、そうだ、北八ヶ岳の縞枯現象に似ているのかも。よくよく地図を覗き込んでみると、ちゃんと「雪山白木林」と記してあった。でも、こちらは日本の縞枯現象とはちがって、過去の森林火災の名残でできたということらしい。
雪山白木林。ちょうど、草原と台湾冷杉の森との境目に、白く枯れた木立の列が並ぶ。これは、過去の森林火災の影響によるもの。手前のナナカマドの実が秋の彩りを添えていた
 黒い森を抜けると、白い林となり、草原へと出る。ちょっとした距離なのに、景観が目まぐるしく変わっていくこのルートは、なんだか歩いているだけでも楽しくなってくる。ちょうど秋頃のいまの季節、白木林の手前には、葉を落としたナナカマドが赤い実を付けていた。ここも雪山東峰ルートの景観ポイントのひとつとなる。

 三六九山荘に到着したわれらは、荷物を解いて寝床をつくり、思い思いの食材を持って小屋の外にあるテーブルを確保。三六九山荘は寝泊まりする小屋のほか、階段下に自炊用の小屋が建てられており、テーブルがその周りにいくつか設置されている。午後1時前には到着してしまったので夕方にはまだまだ早く、思い切りゆったりと食を楽しむことにした。
ここで三六九山荘の紹介を少し。左の写真は宿泊棟の内部。いわゆる避難小屋なので、上下二段の寝床がずらりと並んでいるだけ。でも、とっても清潔。中と右手の写真は、別棟となるトイレ棟。標高3,100mでも、しっかりとバイオトイレの方式をとっている。日本とちがって、この標高でも微生物の活動が可能ということだろう。トイレはかなり清掃が行き届いている
 食についてはいままであまり書いてこなかったが、この山行中にじつはプチ悲しい事故もあったのだ。山中を歩いているときに発覚したのだが、なんとメンバーのひとりが担当した食材をまるっと宣蘭のホテルの冷蔵庫に忘れてきてしまったという。その袋には、キャベツやらキムチやらお肉やらの生鮮系の食材が入っていた。Oh my god!! となるところだったのだけど、実際のところ、さほどキズも深くなく事なきを得ていた。なぜかといえば、台湾の乾麺やレトルトにはかなりオイシイものが多く、ヒモジイ思いどころか、好好とお腹は常に満足状態だったから。
ご飯を食べながら三六九山荘の空を見上げてみると、秋らしい薄い筋雲が渡っていた。傍らには三日月まで顔を出している。思わずパシャリ。なんだか、とってもステキな時間

 しかも、残った食材をうまく組み合わせ、目からウロコの驚きの味までつくってしまったのだ。それは、名付けて即席アップルチーズケーキである。どうやってこのメニューが生まれたかといえば、みんなが持っていた行動食を出し合って、なにができるかと勘案した結果。そこに並んだ食材は、フィラデルフィアのクリームチーズ、リンゴ1個、ミックスナッツに梅パウダーのかかった干しレーズン。

 リンゴを適度なサイズにカットして、チーズをベースにナッツとレーズンを混ぜ合わせてみると、なんと風味豊かなチーズケーキの味になる。リンゴのシャリシャリ感がたまらなくうまく、時間も手間も必要なし。偶然から生まれた特製デザートが誕生した瞬間だった。

 そしてこの日のメイン食材は、台湾の高級インスタント麺ともいわれる「満漢大餐」の激辛ラーメン。ここに、鶏肉飯(ジーローハン)の元となるレトルトをイン。これだけなのに、なんとまぁオイシイことでしょう。Yちゃんのお腹も治っていたので、4人で完食。いやぁ、登頂もできたし、ごはんもうまいし、もう言うことなし。

 と、思っていたら、見知らぬ台湾のシェフから突然の差し入れ。キクラゲのゴマ油炒め的な料理が運ばれてきた。えぇぇ〜! 、驚いていると、余っているから遠慮すんなという。ここは避難小屋なのに、どうしてシェフがいるのかと不思議がっていたら、ちょうどごはんの時間になったのか、三六九山荘から地元台湾の人たちがわらわらと出てきた。山頂で雪山啤酒をくれた彼らもいる。
こちらが偶然から生まれたトレイルデザート。本当にチーズケーキの味になるから、ぜひ試してみて。で、台湾シェフの厨房を覗いてみると、驚きの光景が!! 日本ではあらゆる方面からNGを食らうであろう、ストーブの三連ちゃん使い。しかも、鍋はスチール洗面器の上下ダブル使い。おそるべし、台湾。ちなみに、手前の赤いプリムスはわれらのストーブです(中の上の写真)。そして、赤い赤い鍋が満漢大餐の激辛ラーメン鶏肉飯の具入り。ぼくらの夜ご飯。右手の写真は、地元の人たちのツアー食、夜会風景。左の白い毛の帽子をかぶっているのが、山頂で出会った雪山啤酒のオネーサンだ。みな、パワー全開のベーコン野菜丼らしきものを食べていた
 様子を見ていると、みな、持参したコッヘルを手に自炊小屋へと入り、ごはんを山盛りにして戻ってくる。となると、これはツアー客で、避難小屋泊でもごはん付きのパッケージが選べるということか? どうやらそれが正解だったようで、三六九山荘の自炊小屋にはシェフたちが使う山の調理道具がところ狭しと置かれていた。食事付き避難小屋泊が可能だったとは……日本ではこんな情報はまったく得られなかった。おそらく地元の登山ツアーカンパニーなどがつくった宿泊メニューなんだと思う。食材も調理器具も持たないでいいとなれば、雪山もより楽に登れるのだろうし、これはこれでアリだな〜。

  ところで、シェフにもらったキクラゲの料理、絶品でした。

 6日の朝も明け、雪山山行の最終日となる。昨日までの晴天はどこへやら、この日は曇天。いまにも雨になりそうな雰囲気だ。三六九山荘から先は、コースタイムで3時間35分。いままでの調子で行ければ、おそらく3時間も掛からない。ということで、この日は遅めの6時出発。でも、出掛けようとしたタイミングで雨が降り出した。

 なんとなく雲が薄いからちょっと待てば大丈夫かな、と、少しの天気待ちをする。結局、7時前には晴れを諦め、レインウェアを着込んでの出発となった。雪山の東峰までは約1時間。樹林のルートだったので、雨はさほど気にもならなかったけれど。またラッキーなことに東峰への登り返しで雨は小ぶりとなり、空からは薄明かりもさしてきた。

 ふたたび東峰の山頂に立ったときには、もう雨は止んでいた。すると、そこにはたくさんの人。なにやら学生たちがわんさと登ってきているようだ。そのなかに、なんと日本人を発見。雪山で初めてであった日本人だ。聞いてみると、この団体は台湾体育大学の学生たちで学校の行事で東峰まで登ってきたとか。日本人の彼は、台湾に留学中の学生で3年生だった。陸上のアスリートだそうで、体育留学をしているとか。こんなところで日本人に出会うとは、と彼のほうがびっくりしていた。またどこかで会おう!! と別れを告げて、先へと進む。
下山途中、七家灣溪越しに見えた品田山の大岸壁。なぜか登りでは目にすることのなかった風景だった、と思ったら、そういえば登りではこのエリア、ヘッドランプ山行だった(写真左)。途中、尾根が細くなっている箇所がひとつある。そこには「注意 此地風大 小心通過」と書いてある。なんだ、そのまま理解できちゃうじゃないですか。漢字圏は、日本人にとって便利なところだ(写真中)。なんとなくどんよりとした天気なれど、雨は上がり、好天へと進んでいくような様子。哭坂の手前にて(写真右)

 東峰から下りる前にもう一度、雪山を振り返り、しばし眺める。昨日の昼にはあそこに居たと思うと、感慨深い。そこから先、七卡山荘までもあっという間に着いてしまった。それでも1時間くらいは歩いていたのだけど。途中、哭坂の下りにはかなり急な箇所が連続するので、下山時には要注意。往路ではヘッドランプで登っていたので、あまり気づかずにいたのかもしれない。ま、登りと下りでは見える景色もちがうのだけど。
七卡山荘までの下山路では、こんなステキな風景にも出会える。雲海の向こう側に連なっているのは、中央山脈の北一段。左に大きく裾野を広げているのが、南湖大山。右手のコルを経て、中央尖山。手前の尾根が哭坂の激坂下り。名前のとおりだ
 七卡山荘にデポしたアイゼンやピッケルを回収し(ちゃんと小部屋に残ってました!)、小屋の前でふたたびパッキング。身軽だったはずの荷物が、ズシリと肩に食い込んだ。この荷物のまま登っていたらそこそこキツかったかもなぁと思うと、改めて小屋番のオジサンに感謝。ぼくらが下りてきたタイミングでは、オジサンも下山中だったようで小屋には人影はなかった。基本的には七卡山荘も三六九山荘も避難小屋なので、予約数の少ないときは管理人は不在になると聞いていた。たぶん、そういうことなのだろう。
ここでちょこっと筆休み。下山時に出会ったカラフルな木々や花々の写真をどうぞ。雪山では時期にもよるかもしれないが、紅葉する木々はさほど多くはなさそうだ。七卡山荘のさらに下でハウチワカエデが赤く染まっていた。そして、ナデシコやキオン、ヤマツツジなどにも遭遇。季節的に地味ではあるが、花もしっかりと咲いている。でも、雪山はシャクナゲの時期がいいんだろうな
 七卡山荘から入山口の雪山登山口服務站までのルートは、かなり整備されている。ほぼすべてがしっかりとした石段になっているので、石段好きであれば歩きやすいことこの上なし。でも、じつは石段歩きがあまり得意ではなく、最後の1時間が意外と疲れてしまった。いや、荷物が重くなったせいかもしれないか。

 そして、無事下山。雪山登山口服務站に着いたのは10時前だったので、三六九山荘からはやはり3時間弱で到着できた。管理棟に立ち寄り、Yorozu alpine clubの下山報告をする。これでチェック完了!! 雪山山行もコンプリート、なのだけど……そういえば、武陵農場のバス停まではここから歩いて2時間も掛かるんだった。

 下山のヨロコビも束の間、あきらめて動き出そうかなと思っていたら、雪山登山口服務站のスタッフが歩くのは無茶だから近くのホテルからマイクロバスを呼べと、電話番号を渡してくれた。でも、台湾語は話せないので、彼にお願いして電話に出てもらった。
平日の七卡山荘は、予約があまりないのか、ほとんど人影がなかった。ここから下は歩きやすい(!?)石段が続く。トレイルヘッドまであと少し!! もうゴールが見えてきた。で、ゴール後のYちゃん。お腹の調子も万全です。よかったよかった。そして、ただいま、近くのホテルへ車の手配が可能かどうかの確認中。でも……
 やった、これで歩かずに済む! と思いきや「今日はバスを動かせる人がいない」との回答だという。アァ、やはり歩かねばならないのねと肚を決めたときだった。スタッフの彼が、近くにいた地元の観光客に声を掛けている。

 コイツらいま雪山から下りてきた日本人なんだけど、武陵農場まで乗せて行ってあげてよ、と。

 すると、観光客のおじさまもニコッと笑ってOKの返事。もう、神様仏様、台湾のみなさま!! 本当に親切な人たちばっかりで、心がほっこりとあたたかくなりました。台湾、大好き。
雪山の入下山口でぼくらを拾ってくれた地元観光客のオジサマ。どこまでも優しさあふれる台湾の人たちに、本当に心より感謝です! ありがとう!!
 こうして無事、武陵農場のバス停に到着。午後2時過ぎのバスに乗って宣蘭まで戻り、そこからまたバスを乗り継いで台北へと帰り着いたのだった(って、バスの旅も大変だったけど)。事前の申請から準備はもちろん、4,000m近い高山への登高など、いろいろな意味での挑戦ではあったけれども、雪山はやはり登り甲斐のある山だった。そして、なによりも旅の醍醐味がある。行程中では、最寄りのバス停から入下山口までの距離をどうやって縮めるかが大きなポイントとなるが、そこは人間力でカバーできるはず。台湾の人たちなら、きっと送ってくれると思います。

 あと、考えてみたら、お金がほとんど掛かってない点も大きなプラス要素となる。昨今の飛行機事情はむかしとは大ちがいで、台湾への渡航費はLCCを使えば数万の範囲。そして、雪山登山中の避難小屋はまったくの無料である。必要なのは、武陵農場に入るときの入園管理費/ひとり160元(12月の取材時で約567円)のみ。こちらは、バスで武陵農場に入るときに、入場門で一旦バスを降りて支払う仕組みになっていた。このほかの費用は、日本国内で山登りをするのとほぼ変わらない(山小屋にビールや売店がないぶん、むしろ安く済むかも!?)。

 海外の山となると少しハードルが高いようにも思うけれど、チャレンジしてみれば意外と行けてしまうもの。読者のみなさんも、今年の目標の山のひとつに「雪山」を入れてみるのは、いかがでしょう? 刺激のある山登りができること、まちがいなしですよー。
 

阿里山編に続く)
 
 

■台湾/雪山東峰稜 参考コースタイム
12月4日[歩行計/1時間10分] 
雪山登山口服務站/大水池(1時間10分)七卡山荘 泊
12月5日[歩行計/9時間55分]
七卡山荘(2時間)哭坂(1時間20分)雪山東峰(55分)三六九山荘(2時間20分)圏谷底部(1時間)雪山主峰(40分)圏谷底部(1時間40分)三六九山荘 泊
12月6日[歩行計/3時間35分]
三六九山荘(1時間)雪山東峰(40分)哭坂(1時間)七卡山荘(55分)雪山登山口服務站/大水池

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