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【低山ガイド】西のよい山ひくい山———その昔は大人気エリアだった!? 修験道の多紀連山

2018.09.18 Tue

大村嘉正 アウトドアライター、フォトグラファー

「岩稜に慣れた人向き」などと山のルートガイドに書いてあったりしますが、「はて、どこで岩稜に慣れたらいいのか」と戸惑うことはないでしょうか。初心者向けの手軽な岩稜はどこに……その手がかりになるのが「修験道の山」なのです。

多紀連山(御嶽/793m、小金ヶ嶽/725m)

「修験道の山=険しい山容」とイメージしがちですが、考えてみれば入門したての修験者はたいてい山のシロート。しかも昔の修験者の足元は草鞋であります。修験道の山、とくに低山であれば、そこにある岩稜は新人修験者でもなんとかなるレベル。つまり、「岩稜になれた人」への最初のステップになる山なのです。
御嶽山頂付近から小金ヶ嶽を眺める。
 多紀連山は鎌倉~室町時代にかけて修験道の山として賑わい、寺の跡や「東の覗き」「愛染窟」など修行の地が残っています。修験者をひきつける山だけに露岩が多く、今回紹介するループ縦走の道のりでは小金ヶ嶽への登りが岩稜になります。また、累積標高差が約750mあり、低山ながら手ごたえのあるコースになっています。
左上)御嶽への登山口は民家の間。右上)御嶽の麓には丹波地方の里山が広がる。左下)修験道の名残の地蔵や祠が点在。一時は隆盛を誇った多紀連山の修験道だが、室町時代(1482年)に大和修験道との勢力争いに敗れて寺院などは焼失した。右下)修験者にさまざまなイメージや瞑想を与えたであろう自然の景観に出会う山だ。
 ところで、修験道の山ってやたらとある気がしませんか? 富士山や出羽三山などメジャー級だけでも50近くありますが、近所の山へと目を向ければ、寺社の裏山とか○○県100名山などに修験道の山がけっこうある。全国にどれだけあるのか見当もつきませんが、たとえば山伏(修験者)寺の数だと、四国・愛媛県の瀬戸内海沿岸地域だけでも143あったそうです(愛媛県生涯学習センターデータベース「えひめの記憶」より)。
麓からしばらくは杉の植林地だが、尾根へと上がればうつくしい自然林になる。
 平安時代に始まったという修験道、明治5年に修験禁止令が出されたころには約17万人の山伏(修験者)がいたらしい。そのころの日本の人口は推計約3300万人。人口が約1.3億人になった現代の日本の僧侶の数は約22万人というのですから、ひょっとして山伏って人気の生き方だったのでしょうか。
御嶽から大たわ(たわの漢字は、山ヘンに定)峠への尾根道。
「山できびしい修行の日々を送り、悟りを得る」というけれど、じつのところ修験道って楽しかったんじゃね? 当時は人気のアクティビテイじゃね? なんて妄想しながら、そして同行する妻に「なんやそれ」とつっこまれながら、岩稜を登り下りして小金ヶ嶽へ。山頂から急な岩場を下りきると、樹林のなかに平らで広がりのある空間が見えてきました。
左上)御嶽と小金ヶ嶽の山肌。全山紅葉とはいかないけれど、秋の彩りのなかに緑があってうつくしい。右上)小金ヶ嶽への登りでは鎖場が数ヶ所。高さをあまり感じない岩場がほとんどなので、初心者でも無理なく登れるだろう。左下)小金ヶ嶽まであと少し。いかにも「修験道の山」的な山容が目の前に。右下)小金ヶ嶽からの下りも岩場。登り以上に慎重に。
 よく見ると、建物の礎石が落ち葉や倒木に覆われています。ここには福泉寺(平安時代創建)があり、修験者の宿舎5棟と観音堂が建っていたそうです。そう、かつては山伏の広場。修験の1日を終え、上半身をはだけて汗を拭く山伏。物足りなくて腕立てや腹筋に励む山伏。丸太でベンチプレスする山伏に、フォームのアドバイスする山伏……またもや私の妄想がとまりません。
福泉寺跡。平安時代に建立された寺だったが、1482年の大峰山僧兵の来襲によりすべて焼失。
 ここでは、「おれ、○○嶽の岩を完投だぜ」とか「○○山の岩稜のトラバースはえぐかった」などと山の自慢話に花が咲いただろうか? 修験道の山をつぎつぎと制覇し、山伏の世界でのし上がろうという野心家もいたのだろうか? 「ねえねえ、どう思う?」という私に、妻は迷惑そうに言いました。

「そんな欲にまみれている人は、悟りを求めないでしょ」

 そうですよね……。
左)福泉寺跡付近は平たんな地形で登山道を見失いやすい。右)小金口まで次第に狭まる谷を下っていく。


■多紀連山(御嶽/793m、小金ヶ嶽/725m)
地図製作=オゾングラフィックス

城下町・篠山の北に位置する標高600~800m弱の連峰で、最高峰は御嶽(国土地理院地図には三嶽と記されている)。修験道の盛んな時代(平安~室町時代)には入山者が後を絶たずという人気の山だった。御嶽、小金ヶ嶽ともに山頂からは360度の大展望が広がる。この連山が鎮座する篠山市は日本六古窯のひとつである丹波焼の産地。山好き+民芸に興味がある人にはうってつけの山旅になるだろう。

■参考コースタイム
〈歩行計=4時間40分〉 駐車場(5分)登山口(1時間)大岳寺跡(30分)御嶽(30分)大たわ(たわの漢字は、山へんに定)広場(50分)小金ヶ嶽(35分)福泉寺跡(55分)小金口(15分)駐車場

■山行アドバイス
 山頂付近には岩稜や岩場が多いが、むずかしくないので初心者でも大丈夫。小金ヶ嶽から福泉寺跡への下り始めはやや迷いやすいので注意。福泉寺跡付近はなだらかに広がる地形で、山が荒れていることもあって登山道がわかりにくくなっている。地図とコンパスでよく確認しながら下ろう。その先は沢に沿った谷底の道になり、大雨のときは危険。該当の1/25,000国土地理院地図は「細工所」。
 

【文・写真=大村嘉正】

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