- 山と雪
【山ヤの子育て】親子登山3座目・子連れ登山侮るべからず <前編>
2019.06.11 Tue
まつだ しなこ 子連れハイカー
偉大な第一歩
娘が月齢11ヶ月になったある日、彼女が突然、ニョキッと立ち上がった。
それまでなにかに捕まりながら立ち上がることはあっても、自力で立ち上がることはできなかったので、その瞬間が突然過ぎて、われわれ山ヤ夫婦はただただ大騒ぎだった。
そして数日後には、ついに彼女の人生で最初の一歩を踏み出すことになる。最初の一歩は、数センチ前に進んだだけで、尻もちをついてしまった。世界最高峰に挑む登山家の壮大な人生も、北極点にひとり向かう冒険家の長い長い旅も、みんなこの最初の一歩からはじまっているのかと思うと、娘の頼りない一歩に、壮大なロマンを感じてしまう。この先、彼女が歩むであろう道は、どこまで続く道だろうか。小さな一歩を積み重ねて、いつか誰も見たことがない美しい景色を見に行ってほしい、と想いをはせる。
ついに歩いた、といっても、数歩だけだが、娘の姿に成長を感じた山ヤ夫婦は思ってしまった。
「登山家としての一歩を踏み出したことだし、そろそろもっと長いコースにも挑戦できるのでは……?」
そして、0歳児を背負って五時間半の山行に出かけることに決めたのだ。
愛用のベビーキャリアに乗って、本日はロングコースに挑戦。やや緊張の面持ちか?
冬山登山の必需品! 持ち物チェックリスト
雪こそ降っていないが、まだ山は寒さが厳しい季節。5時間の山行に備え、忘れ物がないように私たちが子連れ登山の際、ザックに詰めている荷物を改めてリスト化した。
●オムツ交換セット
オムツは3〜4枚。軽量化を図るために、もう少しでなくなりそうだな、というくらいまで減ったお尻拭きをとっておいて、登山時はそれを持参している。
●おやつと離乳食(山行中に食事をとる場合)
離乳食は、レトルトのお弁当が便利。私は心配性なので、一食分多く持っていくか、それに相当する子ども用のパンなどを持っていく。
完食してしまったので、よく食べる子であればもっと多めに持参してもいいと思う。
●ワセリン
2座目の記事で紹介したワセリン。赤ちゃんの肌は大人の肌よりずっと乾燥しやすので気をつけよう。
●麦茶
●ノンアルコールのウェットティッシュ
●お湯
余裕があれば、離乳食を少し温めてあげたいのでいつも持参。冬山登山では麦茶がキンキンに冷たくなってしまうので、飲ませる前に少しお湯を足してあげると赤ちゃんのお腹に優しい。
●レジャーシート
●ブランケットなど防寒具
ベビーキャリアに乗っている間は厚手のカバーオールで防寒は十分だが、地面に下ろすととたんに寒がるので、休憩時にさっと羽織れる防寒具があると便利。
地面に直で座ると、いっきに寒くなるのかブルブル震えることも。さっと羽織れる防寒具は重宝する。
●ベビーキャリアのレインカバー
●着替え
冬の山中で着替えさせることはまずないだろう、と思うものの、万が一おしっこやウンチが漏れてしまった場合、そこからどんどん体が冷えてしまうので、いつもお守りがわりに持参。
●チェアベルト
アウトドアで食事をさせるときにあるとたいへん便利なグッズ! 動きまわる赤ちゃんを固定できるし、食べさせる側は両手が使えるようになるので、もはや外出時の必須アイテムになっている。
子連れ登山 第3座目 コースタイム5時間半の天城山に挑戦
3座目として選んだのは、百名山でもある天城山。
天城山は、伊豆半島のほぼ中央に位置する連山の総称で、その最高峰である万三郎岳は1,406m。伊豆半島最高峰である。今回は、天城高原ゴルフ場にある天城縦走登山口から入山し、万二郎岳と万三郎岳を縦走する周回コースを選んだ。
本日のコースを確認。エスケープルートはないが、迷いそうな箇所もなく、歩きやすい周回ルートにみえる。
<今回のコース>
天城縦走登山口→四辻→万二郎岳→万三郎岳→万三郎岳下分岐点→涸沢分岐点→四辻→天城縦走登山口
冬の時期はバスが運休のこともあるので、登山口へのアプローチは車がよい。駐車場は広くて整備されているので、ゆっくり登山準備を整えることができる。天城高原ゴルフ場は、冬場は閉鎖しているがトイレだけは使用することができる。ただし、オムツ替えシートのような設備はないので、車内での準備になる。
オムツを替え、愛用のベビーキャリアに娘を乗せて、いざ出発。登り3時間の行程である。
四辻をすぎるあたりまでは、残雪もなく、道がぬかるむでもなく、ザレているわけでもなく歩きやすい。樹林帯なので風も弱く、30分も歩かないうちに、フリースを脱いで歩くほどポカポカしてきた。
広葉樹林帯だが、葉が落ちてしまっているので気持ちよく日が差し込んで暖かい。
娘も3回目にして、山の楽しさがわかってきたのか、ベビーキャリアの上で「キャッキャ」と声を上げて笑っている。はじめて木の枝に自分から手を伸ばしたり、自然を満喫していた。
満面の笑みで自然を満喫する娘。過去2回の登山よりも一層楽しそうに周りをキョロキョロしている。父が小走りすると、爆笑して喜ぶ。
私も途中で交代してベビーキャリアを担ぐ気満々でいた。しかし、万二郎岳を過ぎたころから、少し様子が変わってきた。急登が少しずつ増えてきたのである。しかも、大きめな岩がゴロゴロとしている場所もあり、万が一にも転ばないようにとかなり神経を使う。背中の娘もリラックスして、ズッシリのしかかっているので、気合を入れて「ヨッコイショ」と登らないと体が持ち上がらない。
シャクナゲやアセビのトンネルに差し掛かったあたりで、少し歩きやすくなりホッとするものの、今度はトンネル状に枝が生い茂っているために、ベビーキャリア上の娘に枝があたらないように何度もしゃがみながら進まなければならなくなる。
花が咲いていればもっとキレイだっただろうなぁ、という会話も最初だけで、ひたすら「よいしょ、よいしょ」と気合いを入れながら進むようになる父。
トンネルを抜けると再びハシゴの連続になってくる。しかも急で、やや朽ちている。万二郎岳から万三郎岳までは、下りのハシゴが多く一層緊張する。とても私の登山技術では、9㎏の娘を背負ってこのハシゴを安全に降りる自信がなかったので、結局夫に頼ることになった。
ひとつひとつのはしごは、4〜6段の短いものだが、頻繁に登場するので、かなり体力を奪われる。
万三郎岳に近づいたあたりから、残雪も少しずつでてきた。3時間近くベビーキャリアに乗っていた娘も、さすがに飽きたのかすっかり眠ってしまった。
いびきをかいて爆睡する娘。赤ちゃんは、急にテンションが上がり、そしてとつぜん電池が切れる……。
子連れ登山、侮るべからず
すでに山頂についた時点で、14時近くなっていた。日も陰ってきて、気温がだんだん下がってくるにつれて、娘と私のテンションも下がってくる。我々は、すっかり気が大きくなってしまい、無謀なコースを選んでしまったのではないだろうか。いつもは100ℓザックを背負って山に登る夫も、ぽつりぽつりと「疲れた」と呟くように……。しかしエスケープルートもなく、とにかく予定のルートを下山するしかない。
果たして、無事下山できるのだろうか!?
両親の不穏な空気を感じて、少し不安な面持ちの娘。「わたし、お家に帰れるかなあ……」
<後編に続く>