- 山と雪
【山ヤの子育て】親子登山6座目・親の責任について考える
2020.10.15 Thu
まつだ しなこ 子連れハイカー
本当は怖い、親子登山
妊娠前まで、春夏秋冬、毎週末のように山に行っていた。
娘が生まれ、高山からは遠ざかっているが、以前と変わらず山が大好きだ。北アルプスの山並みを遠くから眺めるだけで、あの稜線を汗だくで歩いた日々が鮮明によみがえり、胸が熱くなる。
夫と山頂から日の出を眺めた、青春の日々の思い出。いつか子どもたちにも、朝陽で体があつくなっていく瞬間を体験させたい。
いっぽうで、母になり、愛する気持ちの何倍も山に対して臆病になってしまった。
親子登山のすばらしさを感じつつも、内心ではいつもビクビクしている。山は本来、里山でも高山でもひとしくおそろしいところでもある。そこに幼い子どもを連れて行って、守れるかどうか。
毎年、家族で行くアウトドアレジャーで、子どもが命を落としてしまう事故が起きている。どの事故も「子どもを自然に触れさせたい」という親の純粋な想いがあっただけに、とても心が痛む。
私たち山ヤ夫婦も数えきれないほど山に登ったが、安全な親子登山はまだまだ試行錯誤中だ。反省したこともたくさんある。
娘の登山デビューから2年が経とうとしているいま、親子登山の失敗談を振り返ってみようと思う。
親子登山・失敗経験を振り返る
①過信から選んでしまったロングルート
娘が11ヶ月のときに登った天城山。登り3時間のコースは想像以上にハードだった。樹林帯が長く続いたため、腰をかがめて木を潜る個所も多く、体力を消耗した。
私も夫も、地図上のコースタイムの7〜8割のタイムで歩ける。この自信が、無雪ではあるが、冬山を2歳児を担いで5時間も登るという親子登山としてはとてもハードなコースを選んでしまった。
とにかくふたりともヘトヘトになり、最後には雪も降ってきて娘の顔も寒さで真っ赤になっていた。エスケープルートもなく、どんなに疲れても来た道を歩き続けるしかない。
無事だったから「あれは反省だね」と笑い合えるけれど、やはり幼い子どもを連れての登山は、「いつでもすぐ引き返せる距離」くらいにしておくべきだろう。
②10分遅かった撤退判断
どんどんあやしくなっていく空模様。この時点で引き返すべきだったのに、あと少しで頂上だ、という思いから撤退の判断が遅れてしまった。
滝のような雨に打たれ、親子ともども、びしょ濡れになったことがある。
その日は晴のち小雨、という予報だった。登山口に着いたときは曇り程度で、コースタイムも30分程度だったので、大丈夫だろうと判断し登山を開始した。半分ほどきたところで、どんどん空は暗くなっていく。しかし、あと15分ほどで山頂だったので、つい「もう少しだけ行ってみよう」と思ってしまった。その後、10分もしないうちに滝のような雨が降り出した。ベビーキャリアのレインカバーも、横殴りの雨に対してはまったく意味をなさなかった。
自分だけなら、土砂降りの雨くらい何度も経験があるので、それほど焦らなかったかもしれないが、このときは背中で「冷たい、冷たい」と言う娘に対して、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。歩いている大人と異なり、娘は動かず雨に打たれているだけなので、低体温症も怖かった。
10分早く撤退の判断をしていたら、こんなつらい思いをさせずにすんだかもしれない。少しでも天候に不安を感じたら、どんなに頂上が目の前まで来ていても撤退しようと決意した。
③想定外の露出事件
子どもの肌は敏感だ。冬は霜焼け、夏は日焼けをつねに心配し、なるべく肌が露出しないように気をつけている。
気をつけてはいたのだが、想定外の箇所が日焼けで真っ赤になってしまったことがある。それは足首だ。
ベビーキャリアに乗せると、立っているときよりズボンが上に上がってしまい、くるぶしあたりが露出してしまう。しかも親の背中で日当たりは抜群だ。そこだけ真っ赤になった足を見るたび、変な日焼けをしてしまって申し訳ない、と反省し続けた。
山に行くときは、長めのソックスを履かせるなど、足首が露出しない服装への気づかいが大切だ。わが家では、必ずレッグウォーマーを持参している。いざとなればアームカバーにもなるので、おすすめだ。
石がゴロゴロ、登山道がアスレチック! 晴天の霧ヶ峰
今回の登山は、いままでの反省にもとづき、距離的にも、天候的にも無理のないコースをにしようと、北アルプスや南アルプス、八ヶ岳まで360℃見わたすことができる霧ヶ峰にチャレンジすることにした。車山肩の駐車場から標高1,925mの車山まで、大人の足では30分ほどのルートだ。
子どもの熱中症が心配なので、真夏にあまり長時間外に居続けることは避けたい。短いけれど、東京近郊の山とはちがい、遠くまで見わたせる景色が開けたルートを選んだ。
レンゲツツジやニッコウキスゲ、マツムシソウなど、季節の花々が楽しめるハイキングルート。天気がよければ富士山もきれいに見える。
「短調でつまらないかな」と思っていたのだが、これが大正解。ルートがゴロゴロの岩だらけで、子どもが大喜び! ふだん、これだけ石だらけの道を歩いたことがないので、まるでアスレチックにきたかのようにはしゃいで、岩によじ登ったり、石から石へわたり歩いて遊んでいた。
ピークに立つことより、道中にあるものとの出会いを楽しむ娘。いい登山スタイルだなぁと思う。
新型コロナウィルスによる外出自粛期間中に家で特訓したバランスストーンの成果があったのか、不安定な石の上でも上手にバランスを取ることができて得意げだ。
>>>バランスストーンについての記事はこちら。
“石遊び” という誘惑が強く、なかなか前に進もうとしないので、半分くらい歩いたところでベビーキャリアの登場となる。「これ、宝物だからなくさないで」と、大量の石をベビーキャリアのポケットに詰められて、いっそう重くなった状態で娘を担いで頂上に向かった。
なぜだか、とにかく石が好きな娘。以前、ぽいっと捨てたら「宝物を捨てられた!」と大泣きされたので、それ以来、下山まで持ち歩き、こっそり登山口に置いていっている。※自然公園法で石の持ち出しは禁止されている。
10時半スタートで、下山が1時過ぎ。娘は汗びっしょりになっていたので、真夏の登山はこれくらいの短さでちょうどいいと思った。
「風が気持ちいいね」というと「風は雲と友だちなの」と、詩的な答えが返ってきた。自然のなかにいると、身体だけではなく、感性も刺激を受けるようだ。
車山の山頂はひらけていてベンチもたくさんあるが、日陰がほとんどないので、夏場に山頂でお昼ご飯はきびしいかも、と判断。車山神社にお参りだけして早めに下山した。
下山後は、「ころぼっくるひゅって」でお昼ご飯。すずしい屋内の席のほか、霧ヶ峰の山々を眺めて食事ができるウッドデッキもあり、非日常的な食事に娘は大はしゃぎ。
キッズメニューこそないものの、サンドイッチやパンがついたボルシチは子どもとシェアして食べられるやさしい味付けで、たくさん運動した娘は、大人1人前の半分以上をペロリと食べてしまった。
トイレはバイオトイレが多数設置してあるが、オムツ交換台などはないので、車でオムツ交換するしかない点は要注意だ。
無事に家に帰るまでが親の責任
先日、夫と「もし、娘(現在2歳)が将来エベレストに挑戦したいと言ったら賛成できるかどうか」というたわいもない会話をした。
世界一をめざしたいという心意気を応援したい反面、命を落とす危険が高い領域に踏み込むことを親として心から喜べるかどうか。
「自分でリスクを把握し、その上での決意であれば、そのときは黙って見守るしかないのかな」と夫は答えた。私もきっとそうするだろう。
でも、親子登山はちがう。子どもにリスク判断なんてできるはずもないので、親の判断がすべてだ。子どもには山で事故にあって欲しくない。まして、訳もわからないうちに親に連れて行かれた登山で事故にあうなんて絶対に避けたい。
子どもにも親にもすばらしい体験をさせてくれる親子登山だからこそ、しっかりと親が山のリスクを知って登らねばならないと、気を引き締めた。
しなこさんのパパママへのアドバイス
親子登山では「撤退のルール」を家族で決めておくといいと思います。雨が少しでも降ったら、予定の時間を15分オーバーしたら、などなど。わが家では、どんなに夫が行こうと言っても、体力のない私が撤退と言ったら悩まず撤退することにしています。