- 山と雪
【山ヤの子育て】親子登山7座目・子育てに疲れたら、山に行こう
2021.01.13 Wed
まつだ しなこ 子連れハイカー
山ヤ夫婦、子育てに行き詰まる
今年の春、私たち山ヤ夫婦に、第2子である息子が生まれた。
お姉ちゃんになった娘は、息子が生まれたときにはまだ2歳になったばかり。イヤイヤ期や赤ちゃんがえりに加え、コロナ禍の不安な雰囲気に子どもなりに影響を受け、娘はすっかり情緒不安定になってしまった。
息子が生まれたのは新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言の真っ只中。イヤイヤ期の娘と新生児と家に軟禁状態で、わが家も緊急事態だった。
目覚めた瞬間から「イヤ!」の絶叫ではじまり、眠りに落ちるまで「ダメ、ちがう、やだ!」の連発。表情も表現も豊かになり、かわいい絶頂だった2歳の女の子が、もはや悪魔に見えてくる。
親としても、ちっとも進まないトイレトレーニングや、上達しないスプーンでの食事の仕方に毎日目くじらを立ててばかり。慣れないふたり育児の疲労もあり、日に日に私の眉間のシワが深くなっていった。
あるとき、
「子育てが上手にできていない気がする。」
と、しょんぼりして夫に相談したら、間髪入れず夫から答えが返ってきた。
「そんなときは、山に行こう。」
親子登山、新たなステージへ
娘が生後8ヶ月から続けてきて、それなりに慣れてきた親子登山だが、子どもが大きくなったことで新たな課題が出てきた。2歳8ヶ月になり、間もなくベビーキャリアに乗れなくなるということだ。
娘が2歳6ヶ月のころ。ベビーキャリアに乗るとこれくらいはみ出てしまう。しかもまったく大人しくしていないので危ない。
いくつかのブランドから発売されているベビーキャリアだが、使用可能な年齢はほとんどが3歳までとなっている。そもそも3歳をこえてくると、子どもの体格的にも背負って歩くのが危なくなってくる。3歳前後から親子登山は、子どもが行程を歩ききることが前提になるのだ。
さらに、子どもふたりを連れての登山となると、オムツに着替え、食料も2倍となり大荷物になってしまう。
子どもが大きくなるにつれ長いコースへ行けるようになるかと思いきや、反対にどんどんコースが短くなっていく。山ヤ夫婦の親子登山は、“担いで歩く” 登山から、“いっしょに歩く” 登山へと変わっていくことになった。
ピークがふたつある、筑波山
2歳児が歩ききることのできる行程、という観点から、今回選んだのは百名山でもある筑波山。しかもケーブルカーで御幸ヶ原(みゆきがはら)まで登る、というお手軽時短コースだ。ケーブルカーの筑波山頂駅から、男体山山頂までは大人の足で10分、女体山山頂までは20分のコースタイムとなる。女体山の山頂付近までロープウェイも延びているので、そちらを選ぶのもありだが、すぐに山頂なので登山感は少ないかもしれない。
近隣の駐車場に車を止めて準備を整えたら、いざケーブルカー宮脇駅をめざして出発。駐車場から筑波山神社の脇を通りケーブルカーの駅まで、子どもといっしょに登り坂を15分ほど歩いていく。
途中、紅葉がきれいなポイントもあり、娘のテンションはどんどん上がっていった。
約8分間のケーブルカーでは、窓から山の斜面を見て「滑り台みたい!」とおおはしゃぎ。
筑波山頂駅には年季の入った公衆トイレがある。多目的トイレにはオムツ替え用のベッドがあったが、このときは故障中だった。
まずはコースが短く標高の低い男体山山頂(871m)をめざすことにした。序盤は階段や整備された登山道で歩きやすい。全身を使う動きは楽しいのか、娘も張り切ってヨイショと階段を登っていく。後半になると、岩がゴロゴロした急登があらわれる。雨上がり直後だったので、岩についた泥のせいで滑ってしまいかなり歩きにくかった。
2歳児だと、足が届かない高さの岩もあるので、ところどころ抱き上げたりしながら進まなければならない。自分もバランスを取りながら子どもを抱き上げて、というのはなかなか体幹が鍛えられる。
山頂はさほど広くないので、さっとお参りをして下山。
岩場の急登は登るより下る方がはるかにむずかしい。下りはさすがに子どもの足では危ないので、おんぶして降りることに。
モンベルのポケッタブルベビーキャリアは、おんぶであれば36ヶ月(15㎏)まで使用可能。携帯性も高く、このような場面には最適だ。しかし、背中側に転んでしまうと子どもがケガをしてしまう可能性が高い。親の技術やコースに合わせて、堅牢性の高いベビーキャリア2台にするなり、上の子をベビーキャリアで下の子をポケッタブルに乗せかえるなどという対応が必要だろう。抱っこだと背中側に転んでも安全だが、足元が見えづらくなってしまう。
岩場を無事に過ぎ、ふたたび御幸ヶ原に戻ってくる。往復20分のコースタイムだが1時間ほどかかってしまった。
御幸ヶ原にはベンチがわずかしかないので、お弁当を広げて休憩するスペースはあまりない。大きな展望台レストランや売店もあるが持ち込みは禁止となっている。つくばの街のパン屋でサンドイッチを買って来ていたが、時折、小雨がぱらついていたこともあり、下山してからお昼にすることにして、先に最高峰となる女体山(877m)へ歩みを進める。
鳥の声がするたびに、空を見上げてキョロキョロ。どんぐりが落ちていればしゃがみ込む。子どもにとって登山の楽しみはピークに立つことだけではない。
女体山は男体山よりコースは長いが、急登もなく山頂まで歩きやすい緩やかな登り坂が続く。娘は途中で転び泥だらけになってグズグズしたりもしたが、すれちがう人たちが「がんばれ」「えらいね!」と励ましてくれ、得意げに「わたし、2歳」と年齢を披露しながら、なんとか最後まで登り切ってくれた。
下山時には、さすがに少ししょんぼり。車に戻ったらリンゴジュースを飲むことを心の支えにがんばった。
女体山も山頂はあまり広くないので、お参りをしてすぐ下山。靴が泥だらけになって、足が冷たくなってしまったのか、下山時にはだんだん「抱っこしてー」と甘えるシーンが増えてきた。ベビーキャリアを背負った夫と、交代で娘を抱っこしつつ、無事下山。こちらも1時間ほどのコースタイムだった。
ケーブルカーで下山し、車に戻って狭い車内でなんとかオムツ替えと全身お着替え。車内で持参したサンドイッチをものすごい勢いでたいらげた娘は、チャイルドシートに座って3秒で眠りに落ちていた。
よく最後までがんばったなぁ、とわが娘ながら誇りに思う。
ズボンも靴も泥だらけ! 立派な山ヤの証だ。
子育てに疲れたら、山に行こう
筑波山に着くまでは「どうせ山でもイヤイヤするにちがいない」と少し気が重かった。天気がイマイチで、気温も低かったからだ。ところが、駐車場で小雨がパラついてきたとき、「もう行かない」と駄々をこねるかと思いきや、「私、雨がだーい好き!」と現状をポジティブに受け止めていた。
登山中も、ぬかるんだ道に足を取られて何度も転んでしまったが、そのたびに立ち上がり、ズボンを泥だらけにしながら、先に進もうとするではないか。私はすっかり感動してしまった。どんな状況も前向きに楽しめるポジティブさも、転んでもあきらめない忍耐強さも、娘の心の中にはちゃんと育っていた。心の成長にくらべれば、トイレトレーニングやスプーンの使い方が遅れていることなんて些末なことで、イライラするようなことではないじゃないか。
いつもとすこしちがう環境にいくと、ふだんの生活に追われて見落としてしまう子どもの本質的な成長を発見することができたりもする。
子育てに疲れたら、山に行こう。きっともっともっと、娘のいいところを見つけられるにちがいない。
さて、次は4人でどこに登ろうか
※ケーブルカーやロープウェイ乗車時にはマスクを着用しよう。
しなこさんの、パパママへの登山アドバイス
子どもが自分の足で歩けるようになったら、予備の靴を持っていくことをおすすめします。水たまりや、ぬかるみに思わずはまってしまうと、足先から冷えていき、歩くのがイヤになってしまいます。