- 山と雪
【山ヤの子育て】親子登山9座目・親子登山、成功のための基本の“き”
2021.04.09 Fri
まつだ しなこ 子連れハイカー
山がくれた、父親の威厳
私が山へいっしょに行きたいから、というよこしまな動機から、娘を山ヤにすべくはじめた、わが家の親子登山だが、思わぬ副産物があることに気がついた。
最近、夫婦喧嘩をすると、娘がなにかと夫の肩を持つようになったのだ。
先日も、リビングに山道具を放置したまま、一向に片付けようとしない夫に対して、
「隙あらばどこかに行っちゃうし、いたらいたですぐ散らかすし、本当にいや!」
と、怒りをぶつけていると、それを聞いていた娘が、
「お父さんはかっこいいよ。お山で荷物たくさん持ってくれるし」
と健気に父をかばうではないか。
私の雑な扱いとは裏腹に、娘は父をリスペクトしているのだ。
それはひとえに山のおかげだと私は思っている。山という非日常的な状況のなか、家族をリードし、動けなくなった自分(娘)を抱きかかえ颯爽と山道を進んでいく。そんな強い父の姿を感じているのだろう。どんなに日常生活で私にガミガミ言われて、家で所在なくしていても、夫は山に登ることで父親の威厳を揺るぎないものにできるのだ。
父は娘のためにこそ、山に行く!?
私もかつて、山での夫の頼もしい姿にすっかりだまされて結婚したのだが、娘を妊娠していた当時は、週末がくるたびに夫婦喧嘩を繰り返した。夫が土日となると、はじめての妊娠で情緒不安定になっている私を置いて、そそくさと山に出かけてしまうからだ。
一生ふたりで登ろうと誓ったはずが……いつの間にか置いていかれるようになってしまった。淡い青春の思い出は写真のなか。
身重の妻を置いてまで山に行かねばならない理由を問い詰めると、
「生まれてくる娘を山に連れて行くために、まず自分が強くなっておかないといけない」
と言う。
当時はこのヘリクツに怒り心頭で、出産から3年経ったいまでも根にもっているが、一方で親子登山を繰り返すうちに、夫の言い分もわからないではない、と思うようになってきた。
山はリスクのある場所だ。そこへ子どもを連れて行くからには、親が安全の管理をしっかりできないといけない。そしてなにより、ふだんとはちがう、かっこいい親の姿を見て欲しいという思いもある。
春に生まれた息子をベビーキャリーに乗せると、総重量15㎏程度になるのだが、高所登山にブランクのある私でも、4〜5時間は歩ける自信がある。重い荷物を背負って歩けるように体が慣れているからだ。
息子を背負っている写真を見せると、「お父さん、楽じゃない!?」とおどろかれるが、身軽なように見えて、じつは歩ける娘を担当している夫のほうが体力を使っている。
けれども、体重13㎏の娘を抱っこしながら山道は歩けない。夫が、座り込んでしまった娘を抱えて山道を難なく歩けるのは、やはり日ごろから山歩きに慣れていて、体もつくられているからできることだろうと思う。そんな山ヤの夫といっしょだからこそ、安心して子どもふたりを連れて山に行けるのだ。
そのことを、今回向かった青梅丘陵ハイキングコースで痛感した。
歩きやすさが裏目に出た、青梅丘陵ハイキングコース
青梅丘陵は、多摩川の北側に連なる標高300〜500mのおだやかな山並みだ。低山ながら、眼下に広がる青梅の町を見渡すのは気持ちがいい。JR青梅駅と軍畑駅をつなぐハイキングコースは、全長12㎞と長いが、途中にいくつもJRの駅へ降りる道がつくられているので、自分の体力に合わせたコースを設定することができる。駅からバスに乗らず登山口へアクセスできることも、親子登山のコースとしては魅力のひとつだ。
行程のほとんどが整備された、道幅も広い歩きやすい道だ。ハイキングの人だけではなく、ちょっとお散歩にきた地元の人や、ランナーたちも多く見かける。
今回は青梅駅からスタートし、標高383mの矢倉台をめざす。そこから下山し、JR宮ノ平駅に向かう5.5㎞ほどのショートコースだ。大人のコースタイムで1時間30分の道のりとなる。
青梅駅構内には多目的トイレがある。オムツ替えシートはないが、介助用ベッドがあるので、そこでオムツの交換が可能だ。
天気は快晴。青梅丘陵ハイキングコースは行程のほとんどが整備された歩きやすいトレイルなので、子どももいいペースで歩くだろうと思いきや、どうも今回は気分が乗らないようだ。
青梅駅から登山口のある青梅鉄道公園まで、アスファルトの坂道をを大人の足で10分ほど登るのだが、ここですでに飽きはじめてしまった。自宅から青梅までの電車の乗車時間が長かったせいもあるのだろう。早々に「抱っこ」と座り込んでしまう。
道端に座り込んでしまい、動かない。こちらに背を向けて、なにやらいじけているよう。
矢倉台までの間にベンチのある休憩所が四箇所ある。15〜20分ごとに休憩できるペースだ。「次の休憩所まで行ったらおやつにしよう」と、なんとかモチベーションを保とうとするものの、道が平坦で、娘にとっては歩きやすすぎたのか、いつものやる気が感じられない。「歩きやすい」と言うのも考えものだな、と思った。
それぞれの休憩所は見晴らしのいいポイントにある。ただ、第四休憩所と矢倉台以外は、風を遮るものがないので、風をもろに受けることになる。
なんとか第四休憩所までやってきて、お昼にする。四箇所ある休憩所のなかでは、いちばん景色がいいので、長めの休憩をするなら第四休憩所がオススメだ。
お昼ご飯でエネルギーチャージをして多少やる気が出てきたのか、矢倉台までの残り30分ほどの坂道はなんとか自分で歩いた。
矢倉台から見渡せる青梅市の眺望は気持ちがいい。ちょうど休憩所があるので「がんばったからごほうび!」と、またおやつタイム。
「お父さんにも、はいどーぞ」と、ゴールまで楽しみにとっておいた桃ゼリーをお裾分け。家ではお母さんにべったりでも、山ではお父さんにゾッコンだ。
下りはもう一歩も歩く気がなくなってしまったのか、「抱っこ」と座り込んで、動かざること山のごとし。仕方がないので、夫が抱っこし下山することになってしまった。
本人の意識があるときはまだマシなのだが、眠ってしまうと一気に重く感じる。しかもウェアがツルツル滑って抱っこ難易度が高い。
矢倉台から宮ノ平駅までの下りは30分ほど。山道ではあるが踏み固められていて歩きやすい。それでも、落ち葉で石や木の根が隠れていたりするので、娘を抱っこして山道を歩く夫はやはりすごいと思う。
宮ノ平駅にたどり着いたときには、さすがの夫も腕がパンパンになっていた。
ふたりとも疲れたのか、電車に乗った途端にぐっすり。いつまでお父さんに寄り添って眠ってくれるかなぁ、といましかないこの瞬間をとても愛おしく感じる。
親子登山、成功のために本当に大事なこと
最近「親子登山に興味があるのだけれど、成功の秘訣はなにかしら」と聞かれることがある。子ども用ウェアとか、オススメの便利グッズを期待しての質問なのだろうけれど、つい「親の体力です」と答えそうになってしまう。
子どもが座り込んだときや、ケガをしたときに、担いで家まで帰れる安心感を子どもに与えることが、親子登山をするための「基本の“き”」だと思う。そんなふうに、絶対的に頼れる強い存在でありたいと思う。
マンガやドラマで、肩で息をする父に子どもが「とうちゃん、先に行くよ!」なんて言うワンシーンを見かけるが、山ヤ夫婦としては親子登山でこれはいただけない。山ではつねに子どもをリードし、守ることができる強い親でいないと、安全も確保できないし、親の威厳は地に落ちてしまう。
子どもふたりを置いて山に行かれてしまうと、心中おだやかではないときもあるが、父の威厳を保つため、そして体力を強化するために、と思うと、片目をつぶって見逃そうという気にもなれなくもない……かもしれない。
しなこさんの、パパママへのアドバイス
晴天でも、まだまだ山では冷たい風が吹く季節。そんなときは、ベビーキャリーのレインカバーが役立ちます。すぐれた防風効果によって、背負われている子どもの冷えを防いでくれるので、晴れていてもレインカバーはもっていきましょう。