- 山と雪
トレイルは続くよ、どこまでも! 信越トレイル延伸区間を歩いてきました。── 新公式ガイドブック絶賛予約受付中!
2021.08.05 Thu
宮川 哲 編集者
日本のロングトレイルの先駆けでもある「信越トレイル」がさらに延伸され、この秋にオープンすると話題となっている。新たに加わる区間は、天水山から苗場山まで。新たに4つのセクション7、8、9、10が加わり、総延長110㎞のロングトレイルが9月25日にオープンする。
そもそも信越トレイルは、日本初のロングトレイルとして2001年に調査が始まった。長野と新潟の県境に連なる関田山脈に沿って、まずは斑尾山から牧峠までが開通。その後、2008年には天水山までの尾根道が整備され、6セクションで約80㎞のトレイルが完成。それからおよそ13年、信越トレイルクラブを中心にボランティアや地元自治体、民間のメンバーの支えにより、名実ともに日本を代表するロングトレイルとして、多くのハイカーに愛されるトレイルとなった。
信越トレイルといえば、関田山脈のブナの森。新たに加わった秋山郷、苗場山のエリアも、みずみずしく太いブナの巨木がいたるところに。
その間、どれだけのハイカーがこのトレイルを行き来したのだろう。歩くスピードでしか見えない景色……ブナの森の息遣い、モリアオガエルたちの鳴き声や囁き合う野鳥たち。そんな自然とともに豊かに暮らす人々の生活。地域の自然や人々との交流、民俗、歴史、文化に触れ合いながら、ハイカーたちは一本の細いトレイルを一歩一歩、踏みしめながら歩いていく。ときには自分の内なる声と対話をしながら歩くことも。
ロングトレイルを歩く、歩きたいと思う心は人それぞれだ。信越トレイルは2008年の開通からいままで、年間2万人もの人々が訪れているという。そんなロングトレイルに思いを募らせ、この信越トレイルを拓くきっかけをつくったのが、作家であり、バックパッカーでもあった故・加藤則芳さんだ。加藤さんが描いた信越トレイルの構想は、関田山脈を中心に東は苗場山まで、西は雨飾山から白馬岳までの信越国境の北辺をつなぐ壮大なものだった。トレイルに完成形はない。トレイルは歩く人たちが育て、愛することで、どこまでも延ばしていける。
そんな加藤さんの思いを継いで、この秋、トレイルの延伸が実現される。
天水山から南東方向へおよそ30㎞。天水山からの尾根道を下り、遠くに苗場山を望みつつ、新潟と長野の県境沿いを行き来しながら、豪雪で名高い秋山郷の集落を結ぶ。そして、苗場山の山頂へと続くトレイルだ。
信越トレイルの新公式ガイドブックに掲載されたトレイルの全体マップ。新たに加わったのは、天水山から森、宮野原、中子、結東、見倉、大赤沢、小赤沢を結ぶルート。今回の最終目的地でもあり、起点ともなるのが標高2,145mの苗場山の山頂だ。
関田山脈のブナの森につけられたトレイルとは、ひと味もふた味もちがった延伸区間の特徴は、日本の山の暮らしが見えてくる「里山歩き+本格登山」。峡谷に集落が点在する秋山郷が、その主役となる。セクション7から9までは、里山に暮らす人たちの生活の道がトレイルに組み込まれている。ブナやトチ、ミズナラなどの広葉樹の森もあれば、植林されたスギ林もある。石垣を積んでていねいに組み上げられた棚田と、水面に映る青々としたイネ。その畦道に、トレイルが引かれている場所もある。雪割を施した独特のとんがり屋根は、このエリアならではのもの。雪深い地域の人々の生活を垣間見ながら、トレイルは続いていく。
新しい区間のシンボル的な場所がここ。結東集落の一角にある民家のすぐ近くの小径が、信越トレイルとなっている。ハイカーは、民家の庭先に“おじゃま”して歩く。
豊かで厳しい自然との共生、人間のたくましさに少しびっくりしながら、秋山郷の中心地、小赤沢の集落から苗場山へ山頂をめざす。標高差にすれば、およそ1,300m。苗場山の登りは急登の連続で、これまでのトレイル歩きとは様相が一変する。でも、急な登りさえ乗り切れば、山頂には広大な高層湿原があり、穏やかな空間が待っている。このダイナミックに変わるこの自然景観の醍醐味は、自分の足で歩いてしか味わえないもの。
天気がよければ、天水山からの下りで、遠くに苗場山が望める。トレイルは田んぼの畦道へと続き、集落を抜け、また森へと続いていく。
じつは、Akimamaでは、以前にもこの延伸区間の事前調査に同行取材をしたことがある。2018年に連載した「日本のロングトレイルを歩く」の第5弾でアウトドアライターの森山伸也さんが記事を書いている「信越トレイル80㎞が苗場へ延びる!! 延伸踏破チームに密着取材」。そして、今回、まさに延伸区間のオープンを直前に控え、信越トレイルのメンバーたちが、自分たちの足と目で最終の事前検証するというので、Akimama編集部としても同行させてもらうことになった。丸々5日間、セクション7から10までを一気通貫! で歩いてきた。
これから発売するというマップ上には、すでに赤線が引かれ、ルート自体は確定しているが、雪解けを経て、最終の整備前ということもあり、足元が崩れていたり、倒木で道が塞がれていたり、ルートが明瞭でない部分もあったり……雪深いエリアだけにチェックには余念がない。延伸区間のオープンとなる9月25日をめざして、現地ではていねいに確実に整備が進められている。
結東にはハイカーが使えるキャンプ指定地もある。小赤沢から先は、苗場山への本格登山となる。写真左の大瀬の滝は苗場山1合目の先。ここもルート上だ。山上へ上がれば、そこは別天地が広がる。
延伸区間のルートの詳細については、これから数回に分けてレポートをする予定だが、いち早くルートの詳細と概要が知りたいという読者に向け、耳寄りなお知らせが。区間の延伸にともない、総延長110㎞となった信越トレイルの新しい『公式ガイドブック・信越トレイルー里と山を結ぶ110㎞ー』(NPO法人信越トレイルクラブ・編)が発売される。
トレイルの延伸にともなって書き下ろされた新公式ガイドブック。オールカラーで全144ページ。発行はNPO法人信越トレイルクラブ編。
現在、9月25日からの一般発売に先立ち、新公式ガイドブックの先行予約の受付が実施されており、8月31日が締め切りだ。先着300部の限定で、信越トレイルwebストアから申し込みができる。一般発売予定価格は1,980円だが、以下の先行予約特典が付いて一部3,000円となる。これには、トレイルの維持管理に使う協力金も含まれている。特典は、①先行予約者限定ステッカー1枚、②トレイル整備協力金タグ1枚、③延伸直前特別ウェビナー「新たな信越トレイルの魅力と歩き方」参加券1名分、④延伸区間運用開始前にガイドブックを自宅へ送付となっている。
このガイドブックは、新たな延伸区間だけでなく、既存のセクション6までの区間も新しい記事として書き下ろされている。単なるルードガイドではなく、信越トレイル全体のコンセプトから、歩き方のコツ、環境保全のためのテクニックなども掲載。エリアごとの詳細地図はもちろん、巻末には月別花図鑑もあるが、特筆すべきは充実したコラム集である。
信越トレイルのコンセプトのひとつに「自然と文化を学ぶ」という項目がある。トレイルはただ単に歩くためだけでなく、その背景にある人々の暮らし、育まれてきた民俗と文化を知るためにもある……公式のガイドブックに、こういったコラムページが設けられているのも、まさに信越トレイルらしさである。
新区間のメインの集落となる秋山郷を深く知るための読み物が、上手に編集されている。「秋山郷暉譚集」と題したコラム・インタビュー記事で、第6話まで、「昔噺・豆こ話」「秋山郷の昔の暮らし」「秋山木工」「秋山郷の言い伝え」「秋山郷の食文化」「秋山郷の鉄砲撃ち」と、民俗学的なアプローチでの興味深い話が続く。
ロングトレイルとはただ歩くための道ではない。地域を知るための文化交流の場であり、内面を磨くための鍛錬の場である。そして、歩くことで自然を知り、自然を守るための術を知る。加藤則芳さんが伝えたかったこと、新しい信越トレイルが伝えたいこと。いろいろなヒントが詰まったこの新刊ガイドブックをしっかりと読み込んで、延伸区間の新規オープンを心待ちにしたい。あなたの思いが新たな道となる!
次回は、「ロングトレイルを歩くと日本が見える! 信越トレイル延伸区間を歩いてきました!! —— その②」。コースガイドの前半を、ビジュアルいっぱいの詳細レポートで展開の予定。
*公式ガイドブックのお申し込みは「信越トレイルwebストア」まで。