• 山と雪

【低山ガイド】西のよい山ひくい山 —— 標高も山頂の眺めも日本百名山とほぼ同じなのだ!

2022.10.16 Sun

大村嘉正 アウトドアライター、フォトグラファー

 中国・四国地方を中心に西日本の低山を不定期に紹介する「西のよい山ひくい山」。今回は、「自然はすばらしく、老若男女を問わず登りやすい、でも人気はイマイチ」な峰へ。



次郎笈(じろうぎゅう/1930m) 徳島県三好市

 標高1930mが低山? との声もあろうが、登山口からの標高差は約530m。そのうち約300mは登山リフトが利用できる。西日本第3位の高峰でありながら、低山並みに楽に登れるのが次郎笈だ。
紅葉の剣山系
 とりまく自然も魅力的な山で、その裾野は四国のツキノワグマの生息地。絶滅寸前である彼ら(約20頭)の最後の砦は、秋になると豊かな色彩を見せてくれる。
北側から見た次郎笈(右の三角形のピーク)と剣山(左)。この方角からだと、次郎笈のほうが立派に見える。
 そんな次郎笈だが、登山者の多くはその隣、西日本第2位の高峰で日本百名山の剣山をめざす。剣山の別名は「太郎笈」。次郎笈は剣山と兄弟みたいなもので、穏やかな山容も自然もよく似ているのだが人気の差はすごい。次郎笈へのトレイルは、静かな山歩きを求む人にうってつけなのだ。

剣山系の自然のよさがここに

 秘境の最奥にある登山口「見ノ越」だが、駐車場(無料)は約200台分もある。それでも紅葉時期の休日には満車になりがちだ。剣神社を経て樹林帯に入ると、ブナなど広葉樹や針葉樹の巨木がちらほら。光を透かす紅葉がうつくしい。
見残し近くで。剣山系の紅葉は例年だと10月中ごろ~11月上旬。
 登山リフト終点の西島からは、剣山の西側斜面をトラバース。ほとんど登りのない道で、雄大な景色をのんびりと歩ける。仰げば、大剣神社御神体の岩塔が怪異な姿だ。山肌のトレイルは慎ましく、階段や木道など人工物がほとんどない。
大剣神社の岩塔。
 足もとは次第に白く明るい道に。それは砕けた石灰岩で、剣山系が海の底であったことを物語る。潅木のあいだには白骨林。吹きさらしの山肌に林立するさまは、巨人の墓場のようだ。
凍てつく白骨林。紅葉の季節は霧氷に出合うチャンスも。 
 剣山への道と合流すると、ミヤマクマザサに覆われた雄大な尾根へ。目の前にはどっしりとした次郎笈。登頂の喜びを増すきつい登りが待っている。
次郎笈山頂へのトレイル。
 北から眺めるとピラミッドのような次郎笈上部。山頂付近は吹きさらしで、岩の露頭のあいだをミヤマクマザサやコメツツジが覆う。隣の剣山とは対照的な光景だ。あちらの頂上にあるのは多数の登山者から植生を守る木道やウッドデッキ。大地に触れることはままならない。
次郎笈の山頂付近。
 人に好かれることで本来の姿から遠ざかる自然(剣山頂上)もあれば、四国のツキノワグマのように保護が進む自然もある。次郎笈はいまのところ人の思惑なんてどこ吹く風。あるがままである。
次郎笈へ登り。振り返れば剣山。





■次郎笈(1930m)
 石鎚山、剣山について四国第3位の峰で、西日本でも屋久島の宮之浦岳の次に高い。山容は雄大で、剣山より次郎笈を好む人も。山全体を覆う笹原には、ジグザグにたくさんの獣道が刻まれている。
「国土地理院発行2.5万分1地形図」より。



■山行コースガイド
〈歩行計=4時間20分〉見ノ越(50分)西島(1時間30分)次郎笈(1時間20分)西島(40分)見ノ越
・地図/山と高原地図「石鎚・四国剣山」(昭文社)
・登山口の見ノ越に駐車場とトイレあり。登山リフト終点の西島にもトイレあり。
・見ノ越の食堂では、この祖谷地域の郷土料理「そば米雑炊」などが味わえる。
・見ノ越へのアクセスはマイカー利用が理想的。路線バスもあるが、時間がかかるし期間限定だったりする。貞光駅~見ノ越のバス情報は「つるぎ町ホームページ」で確認。

つるぎ町ホームページ 

 

(文・写真=大村嘉正)

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