- 山と雪
【探索編】里山資源を生かすアウトドアアクティビティをつくろう! ①
2023.01.18 Wed
大釜一典 プロアウトドアインストラクター
「ガマ君(著者)、兵庫県丹波篠山に里山付きの家を借りたんだけど、岩もありそうで。アウトドアアクティビティで有効活用できないかな〜?」
2019年の夏、里山資源活用のコンサルティング会社「ササノワ合同会社」の 内田圭介さんから相談があった。
内田さんとは10年ぐらいになる長い付き合いで、過去には兵庫県六甲山系でトレイル調査にもとづくローカルトレイルマップの作成を共に行ない、トレイルランニングやクライミングをいっしょに楽しんだことのある仲であった。
その当時から、フィールドでは「行政が行なう六甲山のトレイル整備は森の景観とマッチしてないよね。針金やら釘やら、いろんな人工物をもちいたトレイル整備をしている。もっと景観を意識した整備はできないのかな」とトレイルの在り方について、いつも語り合っていた。
自分自身は六甲山系をベースに25歳からフリーランスでアウトドアインストラクターをやっており(専門はトレイルガイド/クライミングインストラクター/環境保全)、週2〜3日、トレイルやクライミングエリアの調査や保全、そしてアウトドアアクティビティのガイディングをしている。
「森や川は、われわれが守っていくべきトレイルやクライミングなどが楽しめる資源である」という思いからトレイルの調査や保全を続けており、フリーでインストラクター業をはじめたころから、自然の景観を維持できるように意識しながらボランティアでトレイル整備をしている山のおっちゃんたち、そして、行政との意見交換などを深め、保全に務めている。
六甲山系は神戸の街からすぐにトレイルへ入れる身近な山域だ。そのため、行政はより安全なトレイル整備を行なわないといけないが、年々ハイカーは増え、事故や遭難が増え続けている。
自分自身もトレイル保全として、トレイル上の落書きや破損、正規のトレイルではないテープによるマーキングなど、トレイル上の景観を損なう物や道迷いを誘導する物などの問題個所や、ハイカーの意見などをまとめて、行政へ伝えている。しかし、六甲山系の山域は広いこともあり、現実的には自然の景観を損なわないトレイルの実現はむずかしく、そのような問題はいまだ残る。
そのような経験より、「森の資源を生かしたアウトドアクティビティが楽しめるフィールドができたらいいな」とつねづね思っており、同じ気持ちを持つ内田さんと意気投合した。それが、今回の内田さんからの相談に繋がり、「篠山の里山の資源を生かし、そして、共存が可能なフィールドベースをつくる」というプロジェクトが立ち上がった。
このプロジェクトで担当したのはアクティビティエリアの開拓。多くの登山者やクライマーが行なっている活動にもとづき、エリアを構築した。
①景観を楽しむ
②リードクライミング、もしくはボルダリングを楽しむ
③地の物を使ったご飯をつくる
④テントで寝る
これらの活動では、日常では知りえない景観や岩の楽しさ、テントを張って自然のなかで過ごすことによる自然の良さを実感できる。
景観やクライミングを楽しめるアクティビティエリアとしては、展望箇所も含める散策路やクライミング体験が可能な岩場。自然を楽しめるキャンプエリアとしては、森の手入れにより出た石や木々を土壌にしたテント場。これらによって、里山の森の良さや楽しさが伝わるフィールドを描いた。その際に意識したのは、自身の基本とな
る「森の景観を崩さずに資源を有効活用した森作り、そして、アウトドアアクティビティで様々な人々が集い、楽しめるフィールド」ということ。
まず、手はじめにそのフィールドとなる裏山を探索した。
当日、曇天であったこともあるが、裏山に入った印象は「うっそうとした暗い森」であった。足元には灌木や雑草が生い茂り、枯れ木が無造作に倒れ、枝は伸び放題。また、長らく人が立ち入っていないことから、もともとあったであろう道もわずかに痕跡があるのみで、土壌はやわらかく、森の中は歩くのが非常に困難な状態だった。
歩みを進めると、篠山の田畑が一望できるポイント、さらにクライミングに適すると思われる大きな岩を発見した。
フィールド探索後、内田さんへ状況を報告するとおどろきの言葉が返ってきた。
「地滑りを起こしやすい非常に危険な状態の森だから、早めに伐採をしたほうがいいね。」
危険な状態で放置されているのだという。
近年、多くの里山は所有者が高齢となって、間伐や除伐などといった森の手入れができない状態となったり、所有者が亡くなったりしたためにそのまま放置され、森が荒れていくことが問題となっている。篠山も高齢化が進んでいることから同様の課題を抱えていると内田さんが教えてくれた。
危険な状態であることから、まずはじめたのは伐採や剪定作業。篠山の林業家と内田さんとともに、生きている木、元気がない木、そして死んでいる木を選別し、必要に応じてそれらの剪定や間伐、除伐を行なっていく。その際に出た木材は薪やトレイルの階段、杭などの足場に利用した。
また、その合間にどのような木々が生育しているのかも調査を行っていく。確認できたのはお茶の木やクロモジなど資源となる木だった。
自身がおもに行なったのは剪定や間伐後のトレイルつくり。急斜面な里山を散策しやすいつづら折りの道を基本として、クライミングができそうな岩場への散策路を2本提案した。散策路には人工物(針金や釘も含む)などを一切使用せず、資源を活用することを徹底。
ある程度、散策路が完成してから、ついにクライミングエリアとなる岩の状況調査を開始していく。
岩の高さは推定6メートル。下部を登ってみたが岩質は花崗岩で強く、登りやすい形状で初心者のクライミング体験にはイイ感じの岩であった。
しかし岩の隙間から松の木や雑草、岩の表面には苔が。岩場は全体的に木々で覆われていて光が入らず、岩は渇かずに常時、湿っている状態。登る環境としては整備が必要な状態だった。そのため、岩の清掃や周辺の間伐作業の開拓も進める必要があった ── 。
次回は森のアクティビティエリアの開拓の話へつづく!