- 山と雪
【山ヤの子育て】親子登山18座目・子どもの山道具、最初に買うならなにがいい?
2023.04.10 Mon
まつだ しなこ 子連れハイカー
親子登山が引き寄せる、うれしいご縁
「純粋に好きなこと」には、不思議な求心力があるものなのだろうか。
最近、“親子登山” をきっかけとして、想像もしていなかったうれしい機会に恵まれることが増えてきたのだ。
それは、人との出会いだったり、お仕事の話だったり、さまざまな方向からやってくる。10年以上前に、いっしょに働いていたかつての同僚から突然「子どもを山に連れて行きたいんですが……」と連絡が来て、交友が深まることもあった。そして最近ではなんと、30人ほどの前で親子登山の経験についてお話しする機会をいただいてしまったので、人生とはわからないものである。
お誘いいただいて、グループで親子登山に行く機会も増えた。子ども同士も刺激し合うのか、いつも以上の張り切りぶりだ。
私は、人前で話をするような仕事ではないし、もちろん登山やアウトドアレジャーのプロでもない。こういう機会に長けた人間ではないのだが、「自分の好きを発信する」というコンセプトでよいとのことで、1時間もの長尺を引き受けさせていただいた。
コロナ禍で人との交流が希薄になっているこのご時世に、「好き」という気持ちのもつ求心力のおかげで、新しい出会いや挑戦の機会に恵まれるのは幸せなことだ。
せっかくチャンスをもらったからには、有意義な時間になるように、いったん自分のなかで、いままでの親子登山の経験を棚卸しせねば。この機会に、親子登山についてよく尋ねられる質問について、自分なりに整理してみようと思う。
よく聞かれる質問はふたつ。
「まず、なにを買ったらいいですか?」と「子どもが何人かいる場合、コース選びは上の子に合わせるべきか、下の子に合わせるべきか?」というものだ。
子どもの山道具、最初に買うなら……
子どもと登山をはじめるにあたり「なにを最初に買ったらいいですか?」という質問に対しては、私はまず、レインウェアではないかと思っている。大人であれば、登山靴、バックパック、レインウェアが初期装備の定番だろう。しかし1年間に何度行くかわからない親子登山のためにフル装備を最初から揃えることは、親の精神的にも金銭的にハードルが高い。
子どもが小さいうちはそれほど重い荷物を持たせないので、バックパックはお菓子や水など最低限のものが入れば、正直なんでもいいと思っている。登山靴も、岩や石のすくない土の道であれば、ふだん履き慣れた靴が歩きやすいだろう(親も初心者なら岩場は避けるだろうし)。しかし、レインウェアばかりはしっかりとした機能性が備わっているものを使わないとケガや事故につながる、代替不可能なものだと思っている。
しかもレインウェアは突然の雨対策だけではなく、防風効果もあるため、防寒具としても使える。
とはいえ、成長速度が指数関数的にはやい子どもへ買い与えるには、アウトドアレジャー用のセパレートタイプのレインウェアは決して安いものではないというのも事実。
そこでお勧めしたいのが、モンベルからこの春に発売になった「グローフィット クレッパー ジャケット/パンツ(*1)」だ。袖や裾についている3段階のスナップボタンで簡単にサイズ調整が可能で、なんと身長幅20㎝に対応するというすぐれもの。身長20㎝といえば、たとえば5歳からだと9歳くらいまで着続けることができる(*2)。防水透湿性も大人のレインウェアと遜色なく、長く安心して着続けることができる。
(*1) ジャケットとパンツは別売り。 (*2) e-Stat「統計で見る日本」より https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=000314702
背中には大きな反射板がついており、安全面への配慮もうれしい。ふだんの通学時にも活躍しそうだ。
パンツのウエスト部分にも、成長に合わせてサイズ調整ができる工夫が。ボタンでウエストゴムを短くできるので、パンツがずり落ちてくる心配もない。
成長により大きくなるのは手足だけではない。頭も大きくなるため、フードサイズの調整も大切だ。顔の周辺はドローコード、ひさしの上下はベルクロでフィット感の調整ができるようになっている。細部まで子どもの成長に気を配って製品開発しているモンベルならではのうれしい機能だ。
体力差がある兄弟に断然オススメ、日和田山
つぎによく聞かれる質問が、「兄弟がいる場合、コース選びは上の子に合わせるべきか、下の子に合わせるべきか」ということ。2歳差育児をしているわが家では、上の子の体力とスキルに合わせるようにしている。下の子は、姉ができることは自分もできるようにならねばと思っているようなので、上の子が山をスタスタ登れるようになることが結果として下の子の登山意欲の促進に重要だとわが家では考えているからだ。
体力差がある兄弟で山登りをするなら、埼玉県日高市にある標高305mの日和田山がオススメコース。
日和田山がオススメな理由は、ふたつのコースから登山ルートを選択できること。整備され、比較的なだらかな道が続く女坂と、ゴツゴツした岩場がある男坂があり、大人がふたりいれば二手に分かれて頂上で合流することも可能。男坂は標準コースタイム15分と短いながらも急な岩場があり、子どもはアスレチック気分で全身運動をしながら登れる。岩場では前の人が登り終わるのを待つこともあり、思いのほか山頂まで時間がかかることもあるので、距離が長い女坂を下の子がゆっくり歩いてもちょうど山頂で合流できるくらいになるだろう。
しかも、標高だけでみれば高尾山の半分以下の低山ではあるが、それを感じさせない頂上からの絶景が十分な達成感を与えてくれる。
山頂付近からの景色。関東平野が一望でき、晴れていれば富士山まで遠くに見える。
親子登山きっかけのうれしいご縁で、夫婦2組と、4歳児ひとり、2歳児ふたり、ケガのリハビリ中の女性と、ペースがまったくちがう凸凹パーティーで日和田山に登ったことがある。
日和田山は駐車場もあるが、駅から徒歩で登山口まで行ける交通の便がいい稀有な山。登山口手前にはキレイなトイレもあるので親子登山の入門編としてはピッタリの山なのだ。
登山口からしばらくはなだらかな杉林の中を進む。道が広く、子どもたちがしゃがみ込んで自然観察をする余裕があることがうれしい。
杉林の中をしばらく登っていくと一の鳥居が現れ、まもなく女坂と男坂の分岐に出る。
女坂は歩きやすいハイキングコースだが、男坂はしっかりとした山道で、やがて岩でできた階段や、ロッククライミングを彷彿させる急斜面が現れる。
最後の岩場は短いながら、かなりの急斜面。まさによじ登る、という感じ。子どもが落石を落として後続の人にケガをさせないように注意が必要だ。
岩場を登りきると、もういちど鳥居が現れる。金刀比羅神社だ。鳥居をくぐって、ふとうしろを振り返ると、その高度感に息を呑む。遠くまで広がる真っ平な関東平野が足元に広がっている。
ここから数分で日和田山山頂に到着。山頂は広いとはいえないが、お昼休憩するには十分で、ところどころベンチもある。絶景を眺めながら、いつも以上に子どもたちは夢中でおにぎりにかぶりつく。
思う存分、山頂の景色を堪能したあと、岩場の下りは子どもにとって、まだ危険度が高いので、帰りは全員で女坂をのんびり歩いて下山した。
娘の目に映る私は、どんな大人かな
親子登山をやっていると言うと、「外あそびは子どもの成長にとってすごくいいことですよね」「きっと自慢のパパママでしょうね」とお褒めの言葉をいただくことも多い。うれしさを感じつつも、「じつはそうでもないんですよ」と気恥ずかしさも感じる。
すっかり親子登山の奥の深さにハマってしまって夢中になっているのは私のほうで、当の娘といえば「また山の話か」と呆れ顔。娘から見たら、私や夫はどんな大人に見えているのだろうか。アウトドアに連れて行ってくれるすてきなお父さんお母さん、というわけではなさそうだ。仕事はそこそこに遊び回っている大人、趣味の話しばかりする大人。そんな感じだろうか。
娘よ、それはそれで立派な大人なのだ。好きなことに夢中になると不思議な求心力がついてくるということを、母は知っているのだから。いつか大人になった娘に、山で酒を酌み交わしながらそんな話をしてみたい。
しなこさんの、パパママへのアドバイス
休憩時には、汗が冷える前に一枚アウターを羽織る習慣をつけさせておきましょう。ある程度、子どもが大きくなったら防寒具やレインウェアは子どもに持たせ、自分の意思で着脱させるのがオススメです。